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被爆者の願い

バンクーバーの日系コミュニティは大きい。なので、日本語の古本市も定期的に開催される。自分の本はさておき、子供のための本をよく購入している。

そこで出会った一冊がこれ。

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葉祥明といえば

熊本出身の絵本作家、葉祥明さんといえば、私の中では「母親というものは」のイメージが強いのだが、反戦の絵本にも多く関わっていることをこの本を手に取って初めて知った。

数々の作品が世界的にも認められている、偉大な絵本作家さんで、北鎌倉には葉祥明美術館も開館している。

「『動物』『子ども』『女性』。ずっとこの世の中で弱者として抑圧されてきた存在を、自身の人生、絵本、絵画のなかでは大切にしている」
ー東京ウーマン. 2018年12月9日より

そして故郷・熊本の景色をふんだんに作品の中にとりいれているのだそうだ。言葉も優しく、わかりやすいものをチョイスしている。

現在も作品を作り続けている現役の絵本作家さんでもある。

本を開いて見つけたもの、それは

買ってからしばらく開くこともなかったこの絵本。買ったときもタイトルに惹かれて買ったので、いつもなら中身を軽くチェックしてから買うのだが、中を確認しなかった。

最近、ミャンマー、パレスチナといろいろときな臭い話を聞くことが多くなったこともあり、そういえば戦争に関する絵本があった、と思い、子供と読もうと開いたら飛び込んできたものがあった。

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手書きのお手紙が入っていたのだ。おそらく、この絵本を日本からバンクーバーにお嫁に行ったお孫さんのために贈ったおばあ様からの直筆のお手紙である。

小学校5年生で被爆をされたこのおばあ様、ご存命なら87歳だろうか?ところどころ旧仮名遣いが使われた丁寧なお手紙には、当時のこととともに、「英語もあるのでひ孫も読めると思う」という心遣いの言葉もあった。

私がこの本を手に取ったときには、発行日など確認しなかったのだが、11年前のものなのに、新品同様にきれいな絵本だった。もしかしたら贈ってもらったのに一度も開いてないのかもしれない。

そして誰も手に取らないから、そのまま寄贈(日系プレースの古本市は基本、寄付された本を販売して売り上げを運営に充てている)してしまったのかもしれない。

お手紙だけでも

おばあ様の気持ちを思うと、お手紙だけでもこの本を古本市に出してしまった持ち主の方にお届けしたい気持ちがある。と、同時にどうしてこの本を手放してしまわれたんだろうか?と思いを巡らせた。

おばあ様が書かれたように、もしかしたらすでにお子さんもすでに絵本を読む年代ではなく、日本語は読めない状況だったのかもしれないし、ご本人も本を読む習慣があまりない人なのかもしれない。

おばあ様が長崎で被爆されているというから、長崎出身で、この本をすでにお持ちだったのかもしれないし、こういう本をパートナーの方が嫌いなのかもしれない。真相はまったくわからない。

バンクーバーの日系コミュニティのページに、元の持ち主さんを探す投稿しようか今も悩んでいる。おばあ様の想いがこの手紙の文面からもひしひしと伝わってきて、私は胸が痛くなった。

リギフトは悪いことではない

私自身は誰かが私のために贈ってくれたものを、使ってくれる人に渡してしまうことは、「ものを大切にする」という意味で、いいことだと考えているほうだ。

この本を古本市に出してしまった方も、「どうせなら読んでくれる人に手に取ってもらえれば」と思っただけなのかもしれない。それでも、せめて中身を確認して欲しかったな、と思う。

まだ悩んでいるが、やはりこのお手紙は、この本が贈られたオリジナルの持ち主にお届けすべきなのだと思う。そして私はこの本を読むたびにこのおばあ様へ想いを馳せるのだろう。




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