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母のそばで


母の病状


95歳の母は末期の肺ガン。
私の家で療養している。
入院したら会えなくなるから。

孫たちをはじめ、いろんな人が会いに来てくれる。
病院ではできないこと。
みんな、マスクと消毒をして。

母は、食事がなかなか進まない。
でも、いろんな種類のおかずを並べたら、どれかを食べる。
これも家ならでは。

しかし、ひとつ心配があって。
具合が悪くなった時、どうするのか?

これも最近クリア。

お導きがあったのか、緩和ケアを在宅で受けることに。
医師との相談で、今は酸素を鼻から吸っている。
肺にたまった水も、半分ほど抜いてもらった。

呼吸が楽になり、食欲も少し出てきた。
夜も眠れるようになってきた。

今後、もっと苦しくなった時の対応も相談。
母も私たちも、気持ちが楽になった。

緩和ケアを受けるまで

3人に1人がガンになると聞いたので、もし自分がガンになった時のためにたくさん本を読んだ。
痛みや心の不安を緩和するケアはホスピスで受けることができる。
ホスピスを調べたら、数が少ないし遠い。

入れたとしても、きっとお金が必要のはず。
ガン保険に入ってるけど、大丈夫かな?

そんな自分の心配をしていたら、母にホスピスが必要になった。

私が熱心に調べていたのは数年前だから、この数年に緩和ケアがすすんだのかもしれない。
灯台下暗しで、近所の病院に緩和ケアがあることを知った。
私の調べ方が足りなかったかもしれないし、最近できたのかもしれない。

とにかく、母はお世話になることができて良かった。
酸素のおかげで今は呼吸が楽。
痛みが辛くなってきたら、お薬を使う。

何が怖いって、痛みと苦しみが怖いのだ。

これまで読んだ本

エリザベス・キューブラー・ロス「死ぬ瞬間」
永六輔「大往生」
徳永進「心のくすり箱」
渡辺和子「置かれた場所で咲きなさい」
日野原重明「今日すべきことを精一杯!」
アルフォンス・デーケン「心を癒す言葉の花束」

などなど。
読むと気持ちが軽くなり、視野が広がる気がする。
何度でも読み返したい本たち。

もうひとつ、若い時ほど「死」が怖く感じないのは年齢による経験だと思う。
父を看取った経験はとても神聖だった。この時から「死」に対する気持ちが大きく変わった気がする。
私が向こうの世界に行くときはきっと、父と母が迎えに来てくれるのだ。

「お迎え」という考え


子どもを保育園に預けていた時のこと。
夕方、迎えに行くと先生の「お迎えよ」という明るい声。
子どもたちは家の人の姿を見ると大喜び。
仕事で遅くなると、子どもはハラハラして待っていたものだ。
そして満面の笑顔で飛びついてきた。

今度は人生の最後に「お迎え」が来る。
きっと親しい人が来てくれるのだ。
親や配偶者、きょうだいなど。
だから、懐かしいし怖くない。

自分を待っていてくれる人がいるなんて、ステキと思うのだ。
しかもちゃんと迎えに来てくれるなんて、心強いかぎり。

この考えは日本人特有なのか知らないけど、私はすごく気に入っている。
いっとき離れていた人たちとまた会えるのだから。

だからお別れが来たときは「また会おうね」と言うつもり。

人間の一生は流れ星が流れる一瞬のようなものだ、と聞いたことがある。
それなら、別れている時間は短いのだろう。
また会える!

心が辛いとき

さて、呼吸が楽になると今度は余計なことを考えるものらしい。
血中酸素濃度は高いし、息づかいも荒くないのに母は辛そうな表情の時がある。
「みんなに優しくしてもらって、とってもありがたい」と言いながらも何かテンションが下がる時があるみたい。
考え込むなんて、とことん真面目な人だ。

そんな時は一緒にお経を読む。
大して信心深いわけではないけど、何か読むと意識がそちらに向かうから。
声を出すのもたまには良いかな。

疲れたらお釈迦様の本を私が読んであげる。
一生懸命に聞き取ろうとすれば意識が余計な方に向かないから。
本は何でも良いのだけど、どうやって心を静かに保てるかを学べる気がする。

読み終わったら、次は何の本にしようかな。
子どもが小さいとき、毎日読み聞かせをした。
仕事でどんなに疲れていても毎日10冊読んだ。
今は母のために読む。

母の楽しみ

活発だった母が動けないのは辛そうだ。
酸素のチューブが届く範囲で、花や月や雲を見て楽しむ。
移動用の酸素ボンベもあるが、まだ使っていない。
これから慣れていきたいな。
そしたら気分が良いときは、散歩もできるかもしれない。

もう一つの楽しみ、それは緩和ケアの先生の往診。

気分が落ち込むことも先生に相談しようね。
「うん」と素直に母はうなずく。

こんな時だからこそ、楽しみが必要だ。
意識が内側に向き過ぎないように、できるだけ広く世の中を見て欲しい。

私は、楽しみの水先案内人。
楽しい世界に母を連れて行こう。









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