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胸いっぱいのアイと情熱を。【春弦サビ小説】


唐突に突き飛ばされたルナ。
真上から降る瓦礫の山から突き飛ばされたことによって逃れた形になった。

「バカなんだよ……アイツはいつも!」

ルナは突き飛ばされた悟の方へ
振り返る。
崩れた瓦礫によって悟の姿はもう見えない。

異能者は狩られる。
国はついに排除へ向けて動いた。
駆逐は軍隊で。
大群で押し潰す作戦しか、異能者たる彼等を屠ることは出来なかったのだ。


ーーー行け。

ルナに飛び込むヴィジョン。
頭の中で悟は無愛想に言う。

いつものアイツ。



「あんたはあたしが殺るんだから……
死んだら……殺してやるからなっ!」


その声も悟には届かない。
瓦礫の向こうからは怒号と銃撃の音、爆発音のみ。


「リミッター解除、100%」
脳内にかかっているリミッターを外し身体能力を最大まで引き出す。
その力に己の身体が壊れても厭わない覚悟。


「能力解放……完全模倣……
破壊者Ravager……」


異能力『狂戦士』のgenocide mode。
自身の痛みをも消し去り、身体果てるまで戦い続ける覚悟の能力。
迫り来る軍隊を己の力全てで、食い止めることを決めたのだ。


『行け』
たったそれだけの言葉に、悟は全てを込めた。
それ以上、必要なかった。

それは充分ルナに伝わっていたからだ。


「ばか……また背中預けろよ……」




指を鳴らす悟。

少し笑う。

ーー悪くねぇ。こんな最期も。

向かい来る軍隊へ飛び込んでいく悟!

ーーこんなオレが、誰かの為になんてな。

銃撃が身体を貫く。
痛みは無い。
軍隊相手だろうが怯まない。
確実にここで止める。
身体が砕け散るまで、暴れ回ってやると決めたから。
アイツが逃げ切るまで。


ルナは……
想いを振り切って走った。

『行け』
アイツは生きろと言った。
あたしに生きろと言うんだ。
こんなあたしに、生きろと。

次々と飛び込んでくるヴィジョンは
悟が傷付いて行く姿だった。


ーー心臓エンジンだけは守らねぇと司令塔は死んでも『狂戦士』は残るはずだ。

止まぬ銃撃を躱し、喰らい、流す血液。

舞う飛沫は桜の花びらのようで。



もう日が暮れる。

長い事走った。
悟はずっと戦っている。
ヴィジョンがそう言っている。


紅に塗れた悟はついに動きを止めた。

ーーくそ……ここまでか……心臓だけは……まも……


ルナにヴィジョンが飛び込む。


「嗚呼、アイツ……逃げたかな……」




「悟……」


ヴィジョンに手を伸ばしても届かない。斃れていく悟に触れる事は叶わなかった。



手を伸ばすルナ。
貴方の心臓には届かなくてーー。


【1000文字】


Inspired by suzu lyric.
Special Thanks 𝐂𝐡𝐢𝐲𝐨 Ohashi

From 『胸いっぱいのアイと情熱をアナタへ』スピンオフ The LAST。


#春弦サビ小説

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