小説読み切り 『演技屋』 前編

✕✕警察署、捜査第四班、別名「演技屋」主に潜入捜査、他の班の手伝い、そして・・・・・・・

「ダエ、フウ、依頼が入った。」コポコポと珈琲を入れる音がかすかに聞こえる部屋で、冷たい声が響いた。「おっ、マジですか?アルシェ警部〜。」「喧しいわよダエ。遊びじゃないのよ。」「でたでた、フウの『喧しいわよ』これで俺3496回目だよ言われるの。」「じゃあ静かにして。アルシェ警部が困っているわ。」ダエとフウと呼ばれた男女は言い争いを繰り返している。「・・・・・・おい、そろそろ話してもいいよな?」「はい・・・・・・・」「そうですわね・・・・・・・。」これが毎回のお決まりのパターンだ。

「ナイフを使った悪質なナンパ?」ダエは思わず聞き返した。「ああ。2週間前から似たような通報が多くてな。なんでも、ナイフで無理矢理女性を脅して、強引にホテルへ連れ込もうとしたりするらしい。」「なんですかそれ・・・・・・。最低ですね。」フウは明らかに怒りを示している。「証拠もほとんどねぇし、事情聴取でトラウマを思い出させたくない。だから、お前ら二人に一芝居打って欲しい。」「はーい!いつものことですよ~。アルシェ警部は律儀で真面目ちゃんですね~。」「ダエ、あんたはいつも軽いのよ。忙しい時間を割いて私達に丁寧な説明をしているのだから。もう少しちゃんとしなさい。」「・・・・うっせ三十路。」「今のは聞き捨てならないわね。」また騒ぎだす二人を見て、アルシェ警部は呟いた。「・・・・・・お前ら、本当に演技している風には見えねぇな。」二人は一瞬静まった。そして、呆れた顔をした。「・・・・・・毎回聞くね。それ。答え知ってるのにさ。」「そうね。・・・・・・確かに、私達は演技しているわ。だって、私達、お互いの本名や性別、年齢、誕生日すら知らないわ。そして私はダエを全く信頼してないし。」「俺もフウを一切信頼してない。でもそれでいいんだ。俺達は。」三人の間によく分からない間が出来た。その間を壊すようにフウが話を切り出した「・・・・・・それじゃあダエ。作戦コード、『ひまわり1』で行くわよ。」「OK。ぱぱっと済ませてラーメンでも食べようぜ。」「・・・・・・異論はないわ。」




この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?