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結果がすべての社会の中で「生きているだけで偉いよ」って。

比喩的な意味はなく
『歩く』という ただそれだけの
もはや、本来は無意識下で行われる行為が
私には上手くできなかった。


コロナやらなんやらで
立てた計画はことごとく
コントロール不可な事象によって
バカみたいにきりきり舞っていく。

その程度のものだと
知っておくことが大切なのかもしれない。



卒業を控えた大学4年の2月。
年末から引きずっている「振り返り」が
未だ上手くできずにいます。
でも 例えば たったの一言で
自分の大学生という期間を振り返るのなら


自分は
この4年間きっと
上手く歩く練習をしていたんだろうと思います。



世の中は障害だらけだから
みんな何かしら抱えているんだろう。
親がいないとか 離婚とか 友達が死んだとか
貧困が凄まじいとか 誰かに裏切られたりとか
いじめられたりとか 上手くしゃべれないとか
捨てられたりとか 人間不信とか
頭が悪すぎるとか 難病とか
やる気がおきないとか
やりたいことがわからないとか。


今日もお疲れ様やで。
そんな風にお茶を飲み続けたい。



別に不幸のマウントを取りたいわけじゃないし
哀れんでほしいわけじゃないし
自分は不幸だとそもそも思っていないし
ただ
ここまで複雑で 高速で回転する社会の中では
「多様性」が認められないと
生きづらい人間が多すぎるってだけで

そもそも「認められる」ことが傲慢で
不必要なことかもしれないけど
だから自分を守るために
いろんな捉え方や言い訳や
生き方のスタンスを模索していくんだけど

きっとそれが上手くできない人が
ドロップアウトしていくんだろうな。



もはやストーリーテリングで消費しすぎて
話すことには何の抵抗もなく
新鮮味にかける話で
苦しむにはあまりにも日常化しすぎた。


道をまっすぐ歩けない。
Google Mapの
「徒歩○分」が参考にならない暮らし。
自転車をうまく漕げない。
あのスピードで町を移動できない。
しょっちゅう職質される。
何も悪いことはしていないのにパトカーが怖い。
いつも遅刻する。
いったい何度言い訳をでっち上げただろうか。


この6年間、
ずっと付き合っている病気がある。
「三半規管に問題があって
 体の平衡感覚がない」とかじゃなくて
もっと精神的なやつだけど。


診断されたわけじゃないから
病名なんてたぶんないけど
こいつは
「強迫性障害」ってやつに
たぶん近い気がする。

強迫性障害とは、
自分の意思に反して、
不合理な考えやイメージが
頭に繰り返し浮かんできて、
それを振り払おうと
同じ行動を繰り返してしまう病気です。
症状としては、
抑えようとしても抑えられない強迫観念と、
それによる不安を打ち消すために
無意味な行為を繰り返す強迫行為があります。
手を洗ったあとでも汚れが気になったり、
戸締まりを何度も確認したくなったりする
経験は、誰にでもあることでしょう。
しかし強迫性障害では、
それが習慣性をともない、
どんどんエスカレートして
日常生活に支障をきたすほどの
状態になります。
参考:https://www.myclinic.ne.jp/imobile/contents/medicalinfo/gsk/top_mental/mental_003/mdcl_info.html


”日常に支障をきたしている”
ことが基準なのだとしたら
間違いなく、きたしているのだろう。

意味わからんと思う。仕方ないと思う。
だって自分でも意味わからないから
こんなもの。
でも確かにこれな症状がでてんだよね。

この症状が、
手洗いや鍵の施錠確認じゃなくて
「動物の死骸確認」と
「ゴミ拾い」で出てくるのが私の病気。

早い話で言えば
毎日、家から出た瞬間から帰る瞬間まで
動物の死骸とゴミを探しながら
毎日を生きています。



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17のとき、雨の日に
学校から帰る道で
道端で内臓が飛び出た
小さな肉塊になっていた子猫をみつけて
雨に濡れた小腸を見つめながら
その風景が脳にこびりついてから
6年間 毎日続いている病気。

何もかもが
死骸なんじゃないかと不安になる。
ポイ捨てされたゴミとか
影、マンホールの反射、
水溜りも。
駐車場の縁石、道路の染み。
白・黒・黄・茶・灰
ネコの毛から連想できる色を持つものすべて。

目の端にチラッとでも移ったら、
強迫観念が 
脳をレイプしてくるんです。


「あれは猫の死骸かもしれない。
 スズメの死骸かもしれない。
 でもまだ生きているかもしれない。
 今助ければ助かるかもしれない。
 死んでいたとしても、
 埋葬してやらないと成仏できない。」

なんて。


不快な妄想に五感すべてが犯されて。
か弱く鳴く猫の声の幻聴とか
生物が腐った腐臭の幻覚とか
そんなものまで感じ始める。
鳥のさえずりは
きっと仲間の鳥が死んだことを弔っているのか
助けを求めているのか
そういう悲鳴に聞こえるようになった。

だから移動は苦痛。
とても無視できるようなものではない。
無視しても罪悪感で引き裂かれるから。
その日何もできなくなるから。

だからひたすらにひたすらに
確かめるための「確認行動」をしてきた。

大半が馬鹿馬鹿しい思い込みで、
不快な妄想とはかけ離れた
なんでもない”ハズレ”だった。

勘違いだった
つまりは何も死んでないってことだから
嬉しいことのはずなのに。
心も体もただ疲弊した。
偽善者だなって思った。
でもたまに
「当たり」があった。


《当たりリスト》
内臓を出して死んでいる猫が15匹
池で溺れ死んだ犬が1匹
ぐちゃぐちゃになった鳩は5羽
頭が潰れたネズミは10匹くらい
燃えるゴミの日にゴミ置き場に捨て置かれたウサギと
腐ったスズメの雛3羽
無数のカナブンとセミの死骸



見つけて、拾って
埋める生活をしてきた。
家の庭には骨がたくさん埋まっている。



道端のゴミも不快だった。
ゴミは海や森を汚すから拾っていた。
排水溝のタバコの吸殻をいっぱい拾った。
手がニコチン臭くなって
喫煙者が嫌いになった。
毎日近所のドブ川に裸足で入ってゴミを拾った。
足が石で切れて血が出た。
毎日30Lのゴミ袋分くらいを拾ってた。
「市から表彰されるかもw」なんて思った。
ポイ捨てする人に人権を認めたくなかった。
心の底から軽蔑してた。



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たくさん埋めた猫たちで
一匹だけまだ生きてた猫がいて
その話はここにまとめてあるんだけど


平日の朝の学校の通学路だった。
旧国道で車に轢かれて横たわってた。
美しい白猫だった。
顔は恐怖と苦痛にゆがんでたんだけど。
死が迫った生き物は
みんなあんな顔になるのかな。なんて

ぶっちゃけ、見つけたときは
「ああ、またか」
って感情だった。

必死で駆け込んだ動物病院の
獣医さんは優しい女医さんで
身元不明の高校生が連れてきた瀕死の野良猫なんて
そんな一銭の金にもならなそうな
最低の悪条件にもかかわらず
誠心誠意診てくれた。

白猫は膝の上に座って
爪でセーターをバリバリ掻き毟ってきた。
消えていく命の前で、
こっちは震えることしかできなかった。

地味に長引いて
そしてコロリと死んだ。

命がスッと消える瞬間に
芯まで冷気が突き刺した。

獣医さんの爪先を見ながらこう言った。

「埋めてやりたいので、
 預かっていていただけませんか。
 学校の帰り道に、
 必ず取りに戻りますから。。。。」


供養がしたかったんだと思う。
謝罪もしたかった。
この命”だった”器が、
燃えるゴミにされるのが
ただ耐えられなかった。

哀願に近いこの無謀な願いを
獣医さんは快く引き受けた。
心地よい朝日が差し込むようないい人だった。

約束通りに
夕方の帰り道で立ち寄った
白猫はまるで眠っているように整えられて
綺麗なダンボールと毛布の上に
そっと丁寧に寝かせてあった。
首元にはピンクのリボンでラッピングされた
キャットフードが添えてあった。

文字通り
「言葉が出ない経験」というのをしたのは
きっとこのときが初めてだ。


獣医さんはどこかを見つめるように
斜め上の空間をふっと見やって
柔らかな口調でこう告げた。

「この猫は、最期は苦しんだと思う。
 でも最後に君のような人に会えて、
 幸せだったと思うよ。」


人前で泣いたのもこれが初めて。
足に根が張ったように立ち尽くしていると
どこか耳の遠くで涙腺が決壊した音がした。


この日から獣医が夢になった。
”命を救う力”
そのシンプルさに憧れた。
絶対に曲げられない夢だと思っていた。




夢が見つかった一方で
強迫性障害はますます悪化の一方を辿った。
30分で終わるはずだった通学は、
確認作業のせいで3時間かかるようになった。
3時間という時間を
キチガイじみた行為を繰り返して
毎日過ごした。往復だから6時間か。

2年続いた。
友人にはいえなかった。
言えるわけなんてなかった。
いい変人は好きだけど
ガチでやばいやつになるのは嫌だった。


帰路が同じの友人とは
途中まで一緒に帰って、別れて
確認するために同じ道を引き返したりした。
「ごめん忘れ物しちゃった」
こんな言い訳を繰り返して
毎日狂ったようにネコを探した。
「異常だ」
それは誰よりも自分で深く理解していた。
通学路は二度と歩けない道になった。




動物愛護に関心を持ったのはこの時から。
高校でも動物愛護を発信するようになった。
煙たがられた。笑われもした。
でも重かっただろうな(笑)
ごめん。笑
みんながディズニーの投稿をしている横で、
動物の殺処分について投稿してた。

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部活のランニング中に
学校近くの沼で溺れ死んでる犬を見つけた
友達が口をあけて呆然と見つめる前で
泥まみれになりながらそれを引き上げたときに
そいつには認められた。
「おまえすごいな」。


知らんうちに職員室で話題にされて
英語の熱血教師からは
「エンジェル」ってあだ名をつけられた。
みんなは笑ってたけど
たぶんちょっと引いてた。
でもたぶん認めてくれてた。
だからちょっと嬉しかった。
数学30点でも
獣医という夢を誰もバカにしなくなった。


好きな教科は国語と世界史。
嫌いな教科は数学と物理と科学
好きだけどできない教科は生物。
苦手だけど理系コースに進んだ。
仲良しだった現国の先生は
ちょっと寂しそうな顔をしていた。

でもあまりにも数学はダメで
青チャートとサクシード3周しても
平均点には届かなかった。
遂には数Ⅲを捨てた時に
数学の先生が
目元を抑えて言葉を漏らした。
「本当に良かった。
 君は完璧主義者過ぎるから」。って。



現役の受験は獣医学部のある
岐阜大の一校だけを受けた。
D判定を越えたことはなかった。
母親は止めなかった。
ちゃんと落ちた。ずっとD判定だった。
浪人生になった。


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浪人時代は友人を作らなかった。
迷惑かなと思ったし
自分で作るのも怖かった。
だから孤軍で行くと決めた。
成績はあんまり伸びなかった。
数学と化学は教科書を開くだけで
眩暈がするようになっていた。
ぶっちゃけ「塾に着く」だけでも大変だった。
ちゃんと強迫性障害は続いていたから。


この時期、
「動物の死骸確認」と「ゴミ拾い」に
一般的な症例の「鍵の施錠確認」も加わった。

カバンを背負って玄関に立った後
家を出るまでに1時間かかった。
自宅の最寄り駅に着くまでも1時間かかった。


友達はいない。
成績は悪い。
家を出られない。
道は歩けない。
勉強以外のことに体力のほとんど奪われる。


もうウンザリだと
空を何度も見上げた。


ついでにこの年、家族が割れた。
妹と父親が激しく罵りあって
母親がリビングで土下座していた。
唯一、全員と会話ができた自分は
板ばさみになって愚痴を聞き続けた。

相談されるのは得意だけど
とても自分のことは相談できなかった。
ついには自分で自分に話しかけてた。
きもいw


成績は伸びない。
もはや拒否反応が出始めていた。
算数レベルで向いていない分野だって
嫌でも気が付いた。
気がついて、でも無視して
言い聞かせて言い聞かせて
言い聞かせた。
言い聞かせないと何かが崩れそうだった。

気が付けば、
本当に家から出られなくなっていた。
祝・引きこもり仲間入り。


無気力な日々を
無人のリビングで
天井を見上げながら過ごした。
ソファと背中がくっつく日々だった。



ポケモンがアニメ限定で好きなのはこの頃。
この時期にポケモンのアニメにハマった。
ポケモンっていう異種族を友達のように扱い、
その危機には自らを省みない
10歳のサトシに19歳の自分が共感した。
捨てられたポケモンに手を差し伸べる姿に
泣いて、泣いて、ただ泣いた。

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獣医という夢は、
夢というよりもはや執着に近かった。
道路にこびりついたガムのような夢。
雨が降ったら流れ落ちそうな夢。
でも諦められなかった。
今やアイデンティティとか
存在意義みたいになっていたから。
失うことが怖かった。
一本抜くだけで崩れ落ちるジェンガみたいに
全てを否定するようで
埋めた猫たちにメンツもたたないし
そうして3ヶ月引きこもった。


この時期はたくさんイラストを描いた。
自分を肯定するためのイラストを描いた。
2ちゃんねるの
浪人生を叩くスレッドを眺めながら
自分を肯定する何かをずっと探していた。

弱い自分が大嫌いで
大好きになろうと守っていた。
”人格を2つ持っている”
そう考えると気が楽だった。
やべえやつ。

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結局、文転をした。
センター試験までは
残り1ヶ月しかなかったけど。
あの「アルケミスト」の
作者のツイッターがきっかけだった。


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”夢を捨てるのは、
夢を追い求めるのと同じくらい怖い。”

もっとうまくやれたかもしれない。
ツイてなかっただけだ。
そう思うだけで救われた。
でもこのときはこれがすべてだった。
同じ時間は一度しかこない。
失うことが怖かったし
自分の存在も疑った。

進む道の正しさを
柔軟に都合よく
捉えられるようになったのはこの時からだ。
壊れることは甘えることより怖い。



とにかく進む。
なにも見えなくても。
この停滞の病みから脱出する。
今、この場所にとどまることをやめる。
それが「諦める」という選択肢だとしても
「逃げる」という選択肢でも。
負け犬でいいから
未来を生きたかった。
まだ出会えていない選択肢が
きっとあると思いたかった。



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こうして大学に入学して、
もうすぐ卒業する。


生きているそれだけで
意味があると思うようになった。
来世も信じるようになった。

おそるおそる歩く練習をしてきた。
また歩けるようになるための練習。

いろんなことを経験した。
自分なりに懸命に生きてきた。
ゆっくりマイペースにだけど。
緩和はしたけど、
強迫性障害はまだ続いている。
まだ駅まで30分かかる。
街中をうまく歩けない。


嫌いな経営を学んだ。
ボランティアで終わらないために。
ドイツの動物保護施設を取材しに行った。
よくわからずに批評したくないから。
「生類憐みの令」っていう学生団体も作った。
エンタメで世界を救いたかった。
NGOを作って啓発イベントを50回やった。
行動に理由をつけて人に認められたかった。
社会課題解決系の企業でインターンした。
大人に気に入られるのは心地よかった。
関心が似てる後輩を育てた。
感謝はされた。
少し人の人生を変えられるようになった。
気候変動に関心のある学生の就活を支援した。
社会問題に取り組む学生を増やしたかった。
無償で100名以上の相談に乗ってきた。
ここからまた拡がってほしかった。



ちゃんとやれたんだろうか。
務めは果たせんだろうか。

煉獄さんの言葉は結構刺さる。

はてさてこれから進む道は正しいんだろうか。

ぜんっぜんわからない。




いや、きっと
もっともっとやれることはあったし
これから進む道も不確か過ぎる。
自分に甘いし、筋トレすら続かない。
実務も継続もダメ。
能力も低い。嫌いなことも多い。
ゴミくそに弱い自分。



でもきっと大丈夫なんだろう。
そう思えるようになるように
こうして歩く練習をしてきた。
何度でも反芻する。言い訳の神様。

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大切な記憶と言葉と約束が
きっともっと遠くまで歩かせてくれる。

まだ歩いていける。
そのうちどこかに辿り着く。

明日終わるやも。
でも学生生活よ、時間をくれてありがとう。
休んで歩く練習をする時間をくれて。


だからきっと
きっと私、強い大人になります。



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