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書店経営難について考える

経産省がどう動こうが


確かに昨年11月くらいから、今までにも増して書店の閉店ニュースが入ってくる頻度が多くなっているなと感じていました。そんな折、書店経営支援を目的に経産省が動く、と言う記事が出ました。
NHK等テレビニュースでも取り上げられています。「経産省では減りゆくリアル書店の支援策を検討するために、同省コンテンツ産業課内に「書店振興プロジェクトチーム」を設置することを決めた」と言う記事。具体的な支援方法についてはこれから出版産業関係者からのヒアリングを経て決定していくようですが、現段階で示されている方向性を見る限り、昨年から動いていた「議員連」での話の延長上にこのプロジェクトがあるようで、なんとなく「そっちの方向性か」と感じていました。
ここでは齋藤大臣の記者会見の記録を載せておきます。

https://www.meti.go.jp/speeches/kaiken/2023/20240305001.html

このニュースについていろいろな立場の方々が、様々なツールで発信されていて、だいたいは経産省の動きに「否定的」だったり、「方向性の間違い」を指摘するものが多いように感じます。
また論点が非常に曖昧になっていて、本来解決していかなければならない部分から逸れてしまう可能性も十分にあると感じています。
経産省のニュースに関する私の考えに近いのはこの方のnoteの「書店の粗利」についての部分です。

正直言って私は経産省がどんな書店振興策を導き出すのかにそれほど興味はありません。なぜならば国の支援は一時的なものであって恒久的なものではないことが多いからです。一時凌ぎは出来るかも知れませんが、いずれまたこのままでは危機が来るでしょう。
また、書店の経営難に対する取り組みは、書店だけの問題ではなく、出版業界全体の仕組みを変えていかない限り、解決する問題ではありません。出版業界はそれほど各プレーヤーが密接に関係した仕組みになっているからです。ではどのように出版業界全体で変えていくべきなのか。正直現時点で明確なゴールが見えている訳ではありませんが、何度か検討を重ねてゴールにたどり着けるように考えていきたいと思います。

まずは前提の整理

さて、果たしてゴールに着くかはさておき、まずは何をどう考えるのかの前提を整理してく必要があります。何が原因でいま書店経営が難しい状況になっているのか、です。
単純に考えれば、現在の書店経営難の原因は「本や雑誌を売っても利益が残らない」、つまり本業で利益が残せないことに有ります。

先にお断りしておきます。以下の「書店経営」に関する記述は、すべて「書店店舗経営」とします。尚且つ、扱う商材は「書籍・雑誌(コミック、ムック含む)」のみです。つまりお店を構え、お店の在庫を顧客に販売する事業で、且つ、書籍・雑誌セグメントのみの収支について考えていきます。その理由は、そこだけにフォーカスを当てて議論しないと、本当の姿が見えてきませんし、実は「書店経営難」とはここで私が規定した領域の部分を指すからです。この形は、シンプルな「書店経営の形」と言えます。つまりこの形態で利益が出せなければ、書店を経営する意味合いが見出せません。私は多くの書店経営者さんにお話しをうかがう機会を頂戴してきましたが、殆どの経営者の方々は「義務」であり、「地域への貢献」と仰られています。果たしてこの形があるべき姿かと言えば、そうではないと思われる方が殆どではないでしょうか?

書店経営において利益が残らない要因は、今回の経産省のニュース等でも出てきているもの(電子書籍、インターネット等)の「売上」を起点にしたものと、業界全体のDX化の遅れ、家賃等の値上げ等「販管費」を起点としたもの、そして何より小売業界最高水準の「原価率」を起点としたものに分かれると考えます。
「売上」を起点としたものは本来それぞれの書店の努力によって獲得されるものでしょうし、「販管費」を起点とした部分もそれに近いと思います。(但し、この部分はもしかしたら経産省が支援して欲しい範疇かもしれませんが)

もし「売上」を起点にした部分で書店経営難から脱却できるとすれば、大手チェーンは利益が確保できている、という論理になってもおかしくないのです。しかし、大手チェーンでも「書籍・雑誌の店頭販売」で利益を残せているチェーンはほぼ無いと思います。
例えば紀伊國屋書店の場合、全体では黒字化していますが、同書店には店頭での書籍雑誌販売のほかに様々な事業セグメントが存在し、それらの総体で「黒字化」しています。
例えば「大学等に対する書籍雑誌販売事業」だったり、「海外店舗事業」だったり、です。これらも「書籍雑誌販売セグメント」であることに変わりはないのですが、「海外店舗事業」では日本の再販価格の適用外ですので、粗利設定は同社が決められます。また、「大学等に対する書籍雑誌販売事業」には洋書や洋雑誌なども含まれており、日本の出版業界の「縛り」の外にある粗利獲得が可能なため、同社全体の収益を、他の書店と同じ土俵で議論することはあまり意味がないからです。同社の決算資料を見る限りでは、ここでの前提条件の部分だけの収益を確認することはできませんが、おおよその推察は可能です。
また丸善ジュンク堂書店も同様で、同書店には中規模書店1チェーン分の書籍売上相当の文具の売上があり、それが全体の利益を守っています。書籍に比べて文具の方が利益率が良いからです。
過去の例を見ても明らかで、店舗を閉めた書店が外売部門だけ残して運営を継続している例は多く存在します。
現在黒字化できている書店はほぼここで規定している事業領域以外に、収益源を持っている「ハズ」です。
つまり、議論されるべきは「店頭での書籍販売事業でどう利益を計上できる仕組みにするか」であって、現状の仕組み、つまり書店が確保できる粗利率では、売上が大きくなっても殆どの書店が黒字化できていない点を考えると、その解は「売上拡大」には無い、ということになります。

では「販管費」を起点にした部分の改善でそれができるかどうかを考えると、確かにこの部分に可能性は残りますが、現在の書店としての在り方で販管費を圧縮していない書店はありません。もっと効率を上げるための投資ができる書店もほぼ無く、また、出版流通自体の仕組みがDX化とは程遠い現状では、販管費の削減を起点に書店の収益改善を行うには道が遠すぎます。

そうなると残りは「原価率」を起点とした部分です。この部分は既に「ブックセラーズ&カンパニー」が「書店粗利30%化(原価率70%→現在77%)」を目指して活動を開始していますが、書店業界全体の動きではありませんし、出版社や出版取次を含めた「出版業界でオーソライズされた動き」でもありません。しかし、この部分を改善しないと、書店経営難の課題は解決できないと私は考えます。
「いや、以前はこの粗利率で運営できていたではないか?」との意見もあると思います。果たしてそうなのでしょうか?
出版業界の売上最高点は1997年。この時書籍雑誌の販売だけで収益化できていた書店はどれだけあったのでしょうか?
1980年代から書店は「複合化」(つまり書籍雑誌販売以外の収益源を求める動き)が進みます。売上が今よりもあった時代ですら複合化が必要だったことを考えれば、やはり書店の収益改善には粗利の改善は欠かせないのではないでしょうか。

では書店の粗利率を改善する方法はどのようなものがあるのでしょうか?
次回はこの部分を掘り下げたいと思います。

今回のまとめ


*経産省の書店振興プロジェクトチームの動きとは別に、書店の経営難については出版業界全体で考えるべき課題
*書店経営難と言ってもフォーカスを当てるべきは、店舗販売における書籍雑誌セグメントだけでの黒字化。これは書店の原型であり、この部分で黒字化できないと、書店を生業とする意味は薄まる。
*売上を拡大しても現状を見れば上記の部分だけで利益を確保できている書店は「ほぼ無い」。議論されるべきは売上拡大策や、他の収益確保策、更に業務効率化を念頭に置いた販管費の圧縮ではなく、原価の低減、つまり粗利率の改善であろう

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