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RFIDの威力はいかに?    (PubteXショールーム視察)


PubteXショールーム視察

前回の「これからの出版業界の話をしよう」では合従連衡の一軸としてPubteXも挙げて居たのだが、正直PubteXについては、昨年のリリースや記事等で読んだだけで、神田のショールームを見に行っていなかった。前職の関係でRFIDで何ができるかはそれなりに知っていたからである。
「だいたいあんなものだろう」と思っていたことが仇になり、そのまま放置していたのだが、先日寄らせていただいた書店の経営者の方に「御社もPubteXのRFIDが使えるようにしてください」と言われ、久しぶりにその名を思い出したと同時に、これはちゃんとショールーム見ておかないと、と思い、急遽視察にお邪魔した。
結果は私の「だいたいあんなものだろう」などと言う知ったかぶりが如何に意味のないものであるのか、と思わせてくれるものではあったのだが・・・

PubteXショールーム視察の手順

同社ショールームの視察は、同社HPで申込ができる。
但し、書店か出版社または出版関係の会社に所属していないと申し込みはできないようだ。
【ご見学案内事項】――――――――――
■見学日程:平日のみ
■見学人数:1枠5名様迄
■所要時間:約90分
 (事業説明+ご見学+質疑応答+アンケート記入)
■見学時間枠:【A】 10:00~11:30
       【B】 13:00~14:30
       【C】 15:00~16:30
       ※お時間前後にずれる場合があります。

勝手にこちらの希望日程を伝えたところ、上記の案内と共に、
直近で予約の入っていない日時がメールで送られてきて、その候補から再度こちらの希望を出して見学日程決定となった。

PubteXとは

PubteXという会社をご存知ない方もいると思うので簡単に解説しておくと、同社は商社の丸紅と出版社の講談社・小学館・集英社の合資会社である。
株式保有率は丸紅(関連会社含む)が51%、残りの49%を出版3社が同比率で分け合っている。
丸紅は商社の中で紙のビジネスに強く、出版社側から丸紅に出版業界の改革への援助を要請した。それがきっかけでPubteXは出来たのである(PubteXさんから伺った内容をかなり搔い摘んでますが)。PubteXの社名はPub(Publishing=出版)+te(Technology)+X(DX)、出版を技術とデジタルトランスフォーメーションで変革する会社、ということだ。

RFIDの威力

今回の視察の際、順番としては上記の通り、PubteXの事業説明、ショールーム視察、etcであるが、まずはショールームでのRFIDの威力に今更ながらに驚いたのでそれを書く。
ショールームには書店を模した棚とレジカウンター。殆どの業務がタグを読むハンディタグリーダー(ハンディターミナルという)で行われる。
ハンディーターミナルを使い、できることは
*検品処理
*該当品調査
*棚卸
*万引き防止
*場合によっては会計も(会計はハンディターミナルで行うわけではない)

こんな感じのハンディターミナル

検品処理は本が入っている箱を開けて、上から全体的にハンディターミナルをかざしてあげれば、ものの3秒~5秒でその箱に入っている本を(正確にはタグを)読み取る。1冊1冊表紙のバーコードを読んだり、手入力する必要もなく、且つダブりもない。漏れの調査も可能だ。あっという間に検品が終わる。

該当品調査とは、言ってみればお客様から「本がどこにあるのかわからない」と質問を受けた際のお助け機能。該当の本に近づくとハンディターミナルの音が変わっていく。例えば平積みの一番上だけが違うタイトルが置かれていて、その下に該当のタイトルがあった場合でも、ちゃんと探してくれる。これはRFIDの特徴でもある。

そして棚卸。ハンディターミナルを棚の右から左、上から下へ、棚を全部トレースすると、それで終わり。棚一本(4段、平台前後2面)でほぼ15秒~20秒で終わる。この威力は凄いと感じた。
私の経験している書店の棚卸と言えば、店舗所属の従業員は当然のこと、外商まで召集され、二人一組でひとりが金額を読み上げ、相方がハンディの計算機に金額を打ち込み、レシートを出す。そして出たレシートを見ながら再度金額を読み上げる。棚を10本近く計算するのに2,3時間を要していたのに・・・正直これなら毎日棚卸可能だ。
棚卸に関しては、AIカメラで撮影して、という方法を検討している会社もあるようだ。それの方が簡単だ、と指摘する声もある。

万引き防止は既に使っているところもあるが、本に付属しているタグが出入口のゲートに反応して、会計が済んでいない商品の持ち出しを知らせる。現在の万引き防止の場合、書店側でタグを入れて、会計時にタグを外すという作業が必要だが、PubteXの場合、予め出版社が本にタグを装着するのが前提であるし、会計が終わればタグが付いていてもそのタグのステイタスは
「購入済み」となっているので、ゲートに反応しない。また、他の書店で買ったタグ付きの本を持ち込んでも反応しない。
但し万引き防止の運用は、カメラなどとの併用等もあるので、どのレベルまで行うかは各書店の判断となろう。

会計はあっという間だ。リーダーの付いたシートの上に本を置く。そうすると全部の本の情報、金額が出てくる。1冊1冊バーコードを読む必要もない。

ここまでがショールームで見られるものである。(これ以外にも多少あるのだが、書店業務だけにフォーカスした場合はここまでであろう)

書店で採用した場合

書店でPubteXのサービスを採用した場合、掛かるであろうコストをざっと考えてみた。私は出版社として見学を申し込んだので、書店の詳細なコストは聞けなかったものの、想定できるのは
*ハンディターミナル購入費用
(数量に関しては、店員何人に1つ、なのかは各書店のオペレーションで判断することになろう)
 PubteXの推奨タイプに似たようなものは1つ30万~50万くらいか?
*POSとの連動におけるシステム開発費用
*トレーサビリティシステム(Saas利用)のパスワード発行費用
*ゲート費用(これは不要な書店もある)
*スチール棚の場合の金属遮蔽板 (棚格段両サイド、平台下敷き)
くらいかと思われる。
これらのイニシャルコストとランニングコストに比べて、どれだけ人件費の工数が減らせるか?のバーター判断となるだろうが、これは現在行われているパイロット書店での検証を待ちたい。現在2チェーンの店舗で、実証実験中だ。
書店から見れば様々な業務を様々なアプローチで潰していくよりも、一つのサービスで検品から防犯までカバーできるメリットは大きいのではないだろうか。

出版社のメリットは

書店側から見るとコストと簡略化できる工数との兼ね合いにはなるが、RFIDを利用する価値は高いと思えるのだが、出版社から見た場合はどうなのか?
まず出版社に掛かるコストの部分。
この仕組みのキーになるタグの購入と装着は各出版社が負担する前提であることをお断りしておく。
*タグの購入費 @〇円
 タグの単価についてはここで記載することは避けたい。ただ私が想像していたモノより多少高かった。それは原材料の殆どを輸入で賄っているため、円安の影響でそうならざるを得ない、との説明をいただいた。
*タグの装着費
 タグは印刷製本の過程で刷り込むか本に挟み込む、という形になる。因って今までの印刷製本よりも多少コスト増になる。現在テスト段階ではしおり型のタグを使用しているが、それ以外にも10種類弱、タグの種類があり、どのタイプのタグを採用するかは各出版社の判断となるだろう。
しおりタイプは本に挟み込む形になり、場合によっては本から「落ちる」可能性もある。但し、現在実験では殆どがコミックで行っているので、「シュリンクして運用する」ことを前提にしているので、しおりタイプを選択している模様。表紙に刷り込む場合、デザイン的に難が出るようで、著者から嫌がられる場合がある、とのお話もあった。
*トレーサビリティシステム利用料金
 トレーサビリティシステムとは、このRFIDを活用したサービスの根幹になるシステムで、どの商品が今どういった状況にあるのかが、出荷から遡って確認ができ、この仕組みでそのタイトルがどの書店でどれだけ売れて、どの書店に幾つ在庫があるかが追えるようになるわけである。
それを考えると書店や取次の細かく分かれているPOSデータをそれぞれ見る必要もなくなるし、どこに行っているのか、お金を払わないと教えてもらえないパターン配本の出荷先も一目瞭然になるし(今後は必要ないのかも知れないが・・・)、一定のメリットはありそうに思える。
と、このくらいが想定できるコストだ。

もう一つの事業

PubteXにはもう一つの事業がある、と説明された。
そもそもPubteXは出版業界にある様々な課題のうち、
*返品率の低減
*書店経営改善
を目指したソリューション提供を目的に設立された、と説明いただいた。
先に紹介したRFID関係の事業は書店経営改善のための「IoTソリューション事業」であり、もうひとつが返品率削減を目指した「AI配本ソリューション事業」であるとの説明であった。
こちらのAI配本ソリューション事業は、ずばりそもまま。AIを活用した配本をするためのサービス構築である。但し、これはサービスを提供する相手が、現在記事等で出てきている先とは別だ。取次やブックセラーズ&カンパニーのように流通側で需要予測から仕入数を決める方式ではなく、出版社に新刊の際の刷り部数を決めるための参考にしてもらうためのAIによる予測である。
つまりAI配本ソリューション事業は出版社のための事業なのだ。但し、AI予測で出た数値をそのまま出版社が採用するわけではなく、そこで出た数値にその本で想定している出版社のマーケティング施策等を加味して配本数(刷り部数)を決めていく、というものである。
ただ、一方で取次やブックセラーズ&カンパニーは流通側でAI予測した数値で仕入れる数を決めていくと言っているものとどう合致させていくのだろうか?という単純な疑問も湧いてきた。
このAI配本については、どのタイミングで使うのが良いのか?刷り部数を決めるタイミングを想定しているようだが、できれば企画段階で使える方が出版社にとっては良いと思うのだが。

但しこれだけではバラ色ではない

それぞれの書店、出版社で判断の分かれるところではあるものの、客観的に見るとこのPubteXのサービス(主にIoTソリューション事業)は書店(取次含む)、出版社それぞれにメリットはありそうに感じる。但しこのメリット部分を最大限に各プレーヤーが享受するためには、極論ではあるが、すべての書店と出版社がこの仕組みに乗る、が前提である。
書店から見れば、タグを装着している商品と、装着していない商品が混在していては、効果は著しく落ちることが想定できる。
また出版社もこの仕組みを利用する書店が少ないのであれば入れたタグの多くが無駄になるし、前述のトレーサビリティシステムで追える商品が少なくなり、費用対効果が見込めない。
つまりPubteXはうまく書店と出版社をマッチングしていかないと、このサービスの効果が活かしづらいと思える。
実はこのマッチングは非常に難しい。過去の事例からも書店と出版社双方を集めてのマッチングビジネスにはハードルがあるのだ。
書店は「出版社が多く参加しないのならば、使えない」と言い、
出版社は「多くの書店が利用してくれないならお金やコンテンツは出せない」言う。
要は過去の事例ではお互いの睨みあいと言うか、お互いの動きを見ていてどちらも動かないケースが殆どなのだ。(例えどんなに良いサービスでも、だ)
ただ今回の場合は如何に出版社の多くがタグを装着するかの方が、多くの書店が参加するよりも重要である。そうなると一定規模以上の書店がこぞってこの仕組みに参加し、それこそ、冒頭に書いたように、書店側から出版社に対して「PubteXのRFIDで読めるタグを装着してください」と要請する手もあろう。(これはかなり乱暴だとは重々承知している)
しかし、書店の業務効率化、経営支援を念頭に置くならば、より多くの出版社が「参加せざるを得ない状況」を作り出さないと、求める効果は薄い。

率直な感想

今回の視察は正直あまり期待していなかっただけに、反面驚かされた部分が多かった。いや、驚かされたというよりも、そう、RFIDを使えばここまでできることは知っていたので、再認識させられた、という方が正しいだろう。なぜ今までできなかったのか?最大の理由はタグのコストとそのコストをだれが持つのか?という部分であった。タグの単価は想定よりは高かったとは言え、出版社の立場からすると、ここまでできてこの価格なら、という気にもなれるように感じる。一方で書店のコストは正確な金額が見えていないので、何とも言えない部分も残る。
この二つがお互いに納得がいき、且つ省力化や効率化が図れるのであれば、十分主流になる可能性はあると思えた。
ただ、もう一つのAI配本ソリューション事業については課題が多く残っていると思う。これは取次のものも、ブックセラーズ&カンパニーのものにも共通で言えることなのだが、
①返品を減らす、の軸だけで考えては不完全で、返品を少なくするために、売上が上がる方式を目指す、べきなのではないか
②最初の送品を減らす場合、その後の補充がジャストインで行われる流通があって初めて出版社も書店も納得できる「返品抑制策」になるのではないか?
という部分だ。但し、この部分で見るとPubteXのAI予測には「出版社が各タイトルのマーケティング施策を加味して、刷り部数を決める」となっている部分では納得性があると思うのだが。

脱線するが、AI予測による返品抑制の仕組みについては、なぜ書店は返品が発生するにも拘らず、販売可能数よりも多い数量を出版社や取次に要請するのか?ということを考慮しなければならない。その要因は「売り逃しを避けたい」である。これはジャストインで補充されない仕組みがそういった心持ちにさせる。また、客注に掛かるリードタイムは書店からネット書店への乗り換えを後押ししてしまう可能性も看過できない。仕入数を減らすと確かに返品率(と言うよりも返品総数)は抑えられることは明らかだが、逆に「一時品切れ」状態を多く作りかねないこと、また、その本が顧客の目に留まる「偶然の出会い」の確率を落とすこと、そして、頻繁な補充はそれだけ書店業務を増やすこと(但し、PubteXのこの仕組みに乗る場合は、検品は非常に楽になるが、検品後、補充する作業は変わらない)になる。
AI予測での小刻みな仕入に対してある書店員は「売れ筋の補充作業(発注から所定の位置への設置まで)で1日の業務が終わってしまうかも知れない」と語っていた。
そしてもう一つ。本来委託販売である限り一定期間は返品が自由である、が建前だ。しかし、その返品が「悪」とされているのであれば、委託販売前提で抑えられている粗利を改善して欲しい、と書店側が思うのは当然の帰結なのではないだろうか?
この辺りの話は、後日別の形で書きたい。

出版業界の本気度が試される

このnoteを書こうと思ったのが視察した後だったので、写真等一切撮っていなかった。(トップの写真は文化通信社さんの写真をお借りした)
課題はあるもののそれだけいい意味で期待を裏切ってくれた、のだと思うが、2025年1月の本格スタートまで、PubteX社のクリアすることも多い。しかし、出版社大手が、業界外の丸紅に依頼してできたサービスでもある。これが出版業界で受け入れられるか、またはそうでないのかは、出版業界の本気度が試されているのではないかと思える。
あぁ、弊社は多分採用します。我々の目指していることを達成するためには多分必要だと思うので。
本格稼働まであと1年。出版社としては「コスト増」をどう売上に繋げて、且つ、読者の要望に応えられるように変えられるのか、を総合的に判断すべきではないかと考えます。


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