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書店経営難について考える②        書店の粗利を増やせる方策は?


前回「書店経営難について考える」では、無理を承知で、書店の経営難を解決するためには、様々な要因の中から、まずは書店の高い原価率、言い換えれば低い粗利率の改善が最大のポイントであることを説きました。

今回はどうやったら書店の粗利率が改善される可能性があるのかを、現在の出版業界における「利益配分」をベースに、机上の理論ではあるものの、可能と思われる方向性を導き出したいと思います。


ウィスキーキラーについて

「ウィスキーキラー」というペンネームでnoteをちょぼちょぼと書き始めてから3年経過します。お陰様で最近はそれなりにスキ、やフォローいただける数も増えました。Xなどでポストしていただく例もあり、また出版関係のまとめ記事で取り上げていただけるケースも出てきました。
出版業界の方々では「こいつ、いったいなんなの?」と思われている方もいらっしゃるので、多少自己紹介もしておきます。
私は現在新興出版社と契約している個人事業主です。あと数年で一般的には定年を迎える年齢で、3年前まで大手書店に30年強、新卒から勤務していました。その大手書店では20年ほど書籍関係の外商営業を担当、残りの10年強は、企画と、その当時新たにその大手書店の親会社になった、国内企業の売上ランキングTOP50に毎年名を連ねる会社とのシナジー効果を生み出すための協業担当として勤務していました。そんな書店は日本に一つしかありませんから特定は簡単でしょうし、その書店でこんな業務を担当した人間は私含めて2人しか存在しません。もう御一方は既にこの業界から去られています。
この親会社との協業担当をしていた10年強は、私にとって「考える機会」を得た時間でもあり、且つ、それまで殆どしてこなかった「出版業界(書店含む)での人脈形成」の時間でもありました。
普通ならば、あと数年その会社にいれば定年まで逃げ切れる、と考えるのですが、最後の10数年で培ったものがそれを許しませんでした。このままで良いのか?と。
書店に30年近く勤務していても、店頭に立っていた時間はわずか6時間程度(新人研修の時だけ)。取次の「本当の姿」も理解していない、出版社は外商で扱っていた専門的な本を出すところ以外ほぼ知らない。でも仕事で「これから出版業界で生き残るためには」を考える役回り・・・。今回テーマにしている書店の経営についてもいろいろ分析をしてみたり、少しでも書店の収益のプラスになるような商材やサービス開発などもしましたが、私の中で一番印象に残っているのは、私の在籍していた書店以外の書店経営者方々の努力と苦悩でした。私は「書店業界のため」と思っていても、結局は同業他社の社員。私の考えた収益の足しになるものはお膝元(自社)では採用されない。結局自分は何をしているのだろうか?そうしたことへのジレンマを抱えていた矢先に発生したコロナ禍。家族の反対を押し切って独立の道を選択した次第です。
これまで書いてきたnoteの内容はほぼ会社勤めの最後の10数年で蓄積した情報や経験に、その後いくつかの出版社で経験し、感じた「兆し」をプラスして書いているものです。
ベースにあるものは、本自体が好きで(読むのは実はあまり得意では無いのですが・・・)、本を介して知り合った人たちが好きで、そして何より、書店という「産業」が好きで。この産業をしっかり次代に引き継ぎたい、という思いで、いろいろと将来像を模索しています。

出版業界の利益配分 ベースモデル

長くなってすみません。本題に戻します。
書店の粗利率を上げるにはどうしたらよいのか、ですが、ここでは書籍に関する出版業界の利益配分をどう変えるか、をベースにしたいと思います。「それは難しい」との結論に至る方もいらっしゃるであろうことも十分承知の上で、数字上何をどう変えることが「あり得ることなのか?」を論じます。その上で、それは実現可能なのかを追って検証していきます。

現在書籍の一般的な利益配分は下記の通りです。
本の定価を100とした場合、書店23、出版取次8、出版社69。出版に関する本の中には書店22、取次8、出版社70、と記載しているものもあります。前回のnote記事で経産省の書店振興プロジェクト報道に対して考え方が最も近い、と事例を出させていただいたフクダユウコさんのnote記事では書店23となっていましたので、そちらを採用します。(私も書店外商をしていた際、粗利は23、と考えておりました)
出版業界が他の産業と大きく異なる点は、「再販価格」が存在する、という部分です。つまり小売での売価はメーカーの決めた価格になり、全国どこの書店(或いはいろいろな方法で新刊書籍を仕入れて販売している小売店、ECサイト等)で販売しても原則同じ値段での販売が義務付けられ、不特定多数への値引き販売は認められていません。このため、基本的には非常に簡単な利益配分になっていて、それが前述の割合、と言われています(結構な例外が存在しているので厄介なのですが)。
但しこの再販価格が適用されるのは、「新刊書籍」(と言っても発刊されたばかりの本のことではなく、一旦読者の手に渡り、再度市場に戻ってきた「古書」つまりリユース品と区別する呼び方)に限られます。
一般的には小売の粗利は、仕入先との交渉や、販売条件(返品できるか否か、精算のタイミング等)、またそれをどのくらい売るのか、で変動するのが常ですが、出版業界にその「常」は存在しません。売れる本であろうが売れない本であろうが、原則この配分になります。
書店の粗利率が低いことにはしっかり理由があります。その要因もまた「再販価格」です。再販価格を適用する商材の場合、小売が自由に販売価格を決められないデメリットがありますが、そのデメリットを低減するための制度として「委託販売制度」が存在します。委託販売制度とは定められた期間の中では、小売は仕入れた商品を自由に返品できる制度です。この部分が書店の粗利率を低く抑える理由、とされています。つまり返品が可能なことで、他の小売に比べて「低リスク」であることがその要因と言われています。
意外とこの再販価格(再販制度)と委託販売制度の関係性をご存知でない方も多く存在し、書店の粗利率の低さは委託販売制度によるもの、とお考えのようですが、その根源は再販価格設定から来る「バーターとしての委託販売」にある、が正しい理解と思っています。

現行の仕組みで書店粗利30%にした場合の利益配分

では書店の粗利率を仮に30%に引き上げるとどういうことが考えられるでしょうか?端的に言えば、書店以外のプレーヤーの粗利率をその分落とすしか方策はありません。出版取次は8%しか粗利率を持っていない中で、書店の粗利率改善の7%分を負うわけにはいかないでしょう。これも追っての記載になりますが、現在出版業界の課題は書店の粗利改善だけではなく、世界に例を見ない「安価な配送網」の維持継続も一つの大きな課題です。そんな中でそれを維持している出版取次の粗利率を下げる行為は現実的ではありません。
そうなると自然、最大の粗利率を持つ出版社が書店の粗利改善分を負担するしかない、という結論に達せざるを得なくなります。
つまり、書店30、出版取次8、出版社62、という立て付けですね。
これが書店粗利を向上させる際の考えうる利益配分になります。

さて、これを見て出版業界の方は多分「おいおい」とツッコみを入れたくなっていると思います。「歩戻しが入っていない」とか「そもそも前提の一般的な利益配分モデルが現実的でない」とか。その部分については、これから出版取次と出版社の今の状況をつぶさに見ることでクリアしていきたいと考えています。あくまで今回の記載は、スタンダードモデルをベースに考えうる書店粗利30%の達成要件、とお考え下さい。
私も現在出版社に身を置くものとして、これは乱暴な提示だし、このままでは机上の空論だと思いますから。
但し、現状の条件下で書店の粗利率を改善するために想定できる利益配分は「最低限」この形を取らざるを得ない、とご理解いただければ幸いです。

昨年できた、紀伊國屋書店、カルチャーコンビニエンスクラブ(CCC)、日販、の合弁会社「ブックセラーズ&カンパニー」が出版社に提示している条件はこれよりも出版社にとって過酷な条件であるらしい、と聞いています。同社がそうであるように書店の粗利率改善=出版社の粗利率削減、と言う構図は出版業界の現行の仕組みを維持する限り避けて通れない道筋のように感じます。
しかし、書店の粗利改善原資は出版社が担う案、本当に実現可能な案なのでしょうか?
次回は出版社の立場からこの「書店の粗利改善原資は出版社が担う案」を検証していきます。

今回のまとめ


*一般的な出版物の利益配分は、書店23%、出版取次8%、出版社69%、と言われている
*書店の粗利率の低さは「再販価格」のバーターとして組み込まれている「委託販売制度」で書店には「在庫リスク」が他の小売よりも低いことからくるもの
*書店の粗利率改善分を担える存在は数字上出版社しかない(ように見える)
*しかしここで提示した「書店の粗利改善原資は出版社が担う案」は机上の空論でしかない。
*ウィスキーキラーは元大手書店の平凡な外商営業。複雑怪奇な大手書店グループの内側を知る者。

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