お気に入りのグラスで飲む水道水はおいしい

我が家の不揃いな食器たちの中に、1組だけそろいのグラスが並んでいる。いつかの夏に買ったそのグラスは、ピンクとグリーンが入ったガラス製。色は淡く、底に近づくほど濃くなっている。普段はあまり目立たないけれど、飲み物を入れた時に引き立つような色合いだ。

私はこのグラスがとても気に入っている。このグラスを使えば、水道水だっておいしく感じる。響いてくる氷のカランという音も、よく映える。

それに、このグラスはペアで買ったことも気に入っている理由だ。私の家の食器には、これ以外ペアのものは1つもない。茶碗も、椀も、箸も、全部2つあるけど違う種類のものだ。テーブルの上に2つ並べても、なんだかいまいちな感じだ。


食器などあまり買わない自分が、どうしてこのグラスを買うことになったのだったか。そうだ。それまで私の家には、グラスがなかったのだ。飲み物を飲むときにはいつも、その辺のマグカップを使っていた。

だけど、適当なコップで飲む水道水は、どうしようもなく気に入らなくて、それでお気に入りのグラスが欲しくなったのだ。私は気分屋なので、水を飲むにしても雰囲気が大切。綺麗なグラスの購入は急務だった。

そうと決めた私は、さっそく好きな食器屋さんへ向かった。チラッと見て綺麗な形のグラスだなと思った。口にかけてしぼんだと思ったら、最後に少し広がっている。綺麗な曲線で、ちょっとお花のようで。思わず手に取った。

よく見てみると、最初は気が付かなかったけれど、色が入っている。角度や明るさによって色の見え方が変わった。


「ふむふむ、これはいいな」と思いつつ、特別な買い物だから慎重にと棚にいったんグラスを戻した。だけど、普段は衝動買い推奨派の私。ほかの食器を見ていても、どうしても始めの1つが忘れられなかった。

店の中を1周し終わると、急いで始めのグラスのもとへ駆け戻る。
「やっぱりこれだ…」


こうして、そのグラスは私の家へと招かれた。ちょっと雑なところがあって、すぐにものを壊しがちな私だから、ガラス製の食器は割ってしまうのではないかと心配だったけれど、今のところグラスは元気でやっている。

お気に入りのグラスは、ちょっと私をハッピーにしてくれる。落ち込んだ時に飲むどうでもいい水道水も、ちょっと素敵でおいしくて。私のことをなぐさめてくれる。

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