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出雲国風土記メモ

古代五風土記の一書で、唯一完全に近い写本が存在する、出雲国風土記を読み、印象に残った箇所のメモ。
出雲国風土記を完読したのはかなり前だが、メモ作成の為、改めて一通りざっと読み返した。

●総記
 ・ヤツカミズオミツヌノコミト「八雲立つ」と述べたので出雲

●意宇(おう)の郡
 ・ヤツカミズオミツヌ 国引き神話
 〇母理(もり)の郷
  ・天の下造らししオオナムチノミコト、コシのヤグチを平定
   国譲りに言及、出雲は自らの鎮まる国
 〇屋代の郷
  ・ヤシロノイキの祖、アメノホヒノミコトに随伴して天降ったアマツヒコ
 〇楯縫の郷
  ・フツヌシノミコトの天の石楯
 〇安来の郷
  ・スサノオノミコト、ここに来て心が安らか
  ・毘売埼 ワニが姫を喰らい、父が復讐
 〇山国の郷
  ・フツヌシノミコト巡行
 〇大草郷
  ・スサノオノミコトの子・アオハタサクサヒコノミコト
 〇拝志の郷
  ・オオナムチノミコト、コシのヤグチを平定
 〇宍道の郷
  ・オオナムチノミコトが追った猪と犬が石となって存在
 〇出雲神戸
  ・熊野大社(出雲国一宮)の神戸
 〇賀茂神戸
  ・葛城に鎮まるアジスキタカヒコノミコト(オオナムチノミコトの子)の神戸
 〇忌部神戸
  ・出雲国造の神賀詞前の潔斎
  ・神の湯(玉造温泉)-沿岸にあり老若男女の行列、市、宴、一度入浴で美しく、二度入浴で万病治癒

●嶋根の郡
 ・ヤツカミズオミツヌ 国引き
 〇山口の郷
  ・スサノオノミコトの子・ツルギヒコノミコト
 〇美保の郷
  ・オオナムチノミコトと越のヌナガワヒメノミコトの子のミホススミノミコト
 〇方結(かたゆい)の郷
  ・スサノオノミコトの子・クニオシワケノミコト
 〇加賀の郷
  ・カミムスビノミコトの子・キサカヒメノミコトの岩屋での佐太大神の出産、黄金の矢
 〇生馬の郷
  ・カミムスビノミコトの子・ヤヒロホコナガヨリヒコノミコト
 〇法吉(ほほき)の郷
  ・カミムスビノミコトの子・ウムカヒメノミコトがウグイス(ほほきどり)になって飛来
 〇千酌(ちくみ)の郷
  ・イザナギノミコトの子・ツクヅミノミコト
 〇タコ嶋
  ・大鷲が出雲大社近くの大ダコを捕まえて持って来た
 〇ムカデ嶋
  ・タコ嶋のタコがムカデを食べに来て棲みついた
 〇加賀の神埼
  ・加賀の潜戸(くけど)、キサカヒメノミコトの佐太大神出産神話

加賀の潜戸

●秋鹿(あきか)の郡
 ・アイカヒメ
 〇恵曇(えとも)の郷
  ・スサノオノミコトの子・イワサカヒコノミコト
 〇多太(ただ)の郷
  ・スサノオノミコトの子・ツキホコトオルヒコノミコト
 〇大野の郷
  ・オオナムチノミコトの子・ワカフツヌシノミコト(フツヌシとは別神)
 〇伊農(いぬ)の郷
  ・アカブスマイヌオオスミヒコサワケノミコト(ヤツカミズオミツヌノミコトの子)の后・アメミカツヒメ、夫を偲んで「イヌハヤ」

●楯縫の郡
 ・カミムスビノミコト、自らの子・アメミトリノミコトを楯部として天降し、出雲大社に収める楯を造らせる
 〇玖潭(くたみ)の郷
  ・オオナムチノミコト巡行、にわか雨(クタミ)-日本書紀と豊後国風土記の土蜘蛛征伐譚に同一地名あり。水神いる旨記述有。
 〇沼田(ぬた)の郷
  ・ウノヂヒコノミコト、ヌタ(湿地)の水で干飯を柔らかくする-系統不明の神、大原郡海潮郷にも同神出現
 〇神名樋山
  ・アジスキタカヒコの后・アメノミカジヒメノミコト、タキツヒコノミコト出産-石神(雨乞い石)にタキツヒコ鎮まる

●出雲の郡
 〇健部(たけるべ)の郷
  ・景行天皇、日本武尊を記念して健部を置く ※大量の銅剣が出た荒神谷遺跡の近く
 〇漆治(しつぢ)の郷
  ・カミムスビノミコトの子・アマツキヒサカミタカヒコノミコト、別名コモマクラシツチチ
 〇杵築の郷
  ・出雲大社
 〇伊努(いぬ)の郷
  ・アカブスマイヌオオスミヒコサワケノミコト
 〇美談(みたみ)の郷
  ・オオナムチノミコトの子、ワカフツヌシノミコト
 〇宇賀の郷
  ・オオナムチノミコト、カミムスビノミコトの子・アヤトヒメノミコトに求婚
  ・猪目洞窟-夢に見ると死ぬ
 〇神名火山
  ・キヒサカミタカヒコノミコト鎮座
 〇出雲の御埼山
  ・大社の背後の山
 〇出雲の大川
  ・斐伊川 鳥上山より流れ出て神門水海(かむどのみずうみ)に至る ※現在の河口は宍道湖

●神門の郡
 〇朝山の郷
  ・カミムスビノミコトの子・マタマツクタマノムラヒメノミコト、オオナムチノミコトと結婚
 〇塩冶(やむや)の郷
  ・アジシキタヒコノミコトの子・ヤムヤヒコノミコト
 〇八野の郷
  ・スサノオノミコトの子・ヤノワカヒメノミコト
 〇高岸の郷
  ・オオナムチノミコトの子・アジスキタカヒコノミコト 昼夜泣く-スサノオと似た神話
   高床の建物で高椅(たかはし-ハシゴのこと)を昇降させて育てる
 〇古志の郷
  ・イザナミノミコトの時代に池を造り、古志(コシ-北陸)の人々がやって来て堤を築いた
 〇滑狭(なめさ)の郷
  ・スサノオノミコトの子・ワカスセリヒメノミコト(古事記ではオオナムチノミコトと結婚)
 〇多伎の郷
  ・オオナムチノミコトの子・アダカヤヌシタキキヒメノミコト
 〇狭結(さゆう)の駅
  ・古志の国のサヨフという人が来て住んだ
 〇阿利の社
  ・高岸郷の有力候補地に建つ神社、アジスキタカヒコノミコトを祀る
 〇吉栗山
  ・出雲大社の用材
 〇稲積山
  ・オオナムチノミコトの積んだ稲
 〇陰山
  ・オオナムチノミコトの髪飾り
 〇神門水海
  ※かつて島根半島西部海岸近くにあった汽水湖、一部神西湖として残る
  ・薗の松山 ヤツカミズオミツヌノコミトの国引きの際の綱

●飯石(いいし)の郡
 〇熊谷(くまたに)の郷
  ・クシイナダミトヨマヌラヒメノミコト(記紀ではクシイナダヒメノミコト)、出産地を求める
 〇三屋(みとや)の郷
  ・オオナムチノミコトの神領の御門(みと)
 〇飯石の郷
  ・イイシツベノミコト(女神)、天降の地
 〇多祢(たね)の郷
  ・オオナムチノミコトとスクナヒコナミコとの巡行時、稲種が落ちる
 〇須佐の郷
  ・スサノオノミコト「小さいが国として適当な地。我が名は木や石にはつけず」と言って、自分の御魂を鎮めた
 〇波多の郷
  ・ハタツミノミコト、天降の地(秦氏か?)
 〇来嶋の郷
  ・キジマツミノミコト
 〇琴引山
  ・オオナムチノミコトの琴(古事記では天沼琴)が岩窟の中にある

●仁多(にた)の郡
 ・オオナムチノミコト「川上は木が茂り、川下は葦が生える、ニタシキ(湿気の多い-湿地)国」
 〇三沢の郷
  ・オオナムチノミコトの子・アジスキタヒコノミコト、髭が八束になるまで昼夜泣き、言葉をしゃべらず。
   父、船に乗せて心を慰めるも、効果なし。夢の中で、理由を知りたく願うと、言葉を話す様子を見る。
   目覚めると子が「ミサワ」と言い、父がどこかと問うと、子が川まで移動し、「ここ」と言う。そこで禊をした。
   出雲国造が朝廷に参向して神吉事を奏上する際は、ここで禊をする。
   妊婦はここの米を食べない。もし食べれば子は生まれながら物を言うようになる。
 〇郷の記郷述の末尾
  ・仁多郡各郷から産出する鉄は堅く、様々な道具を造る事が出来る
 〇三沢の社
  ・三沢郷の「ミサワ」の泉有力候補地近くに建つ神社、アジスキタカヒコノミコトを祀る
 〇鳥上山
  ・伯耆と出雲の境 ※記紀のようなスサノオノミコト降臨の神話は風土記には一切なし
 〇玉峰山
  ・玉上の神あり(郡内記載の「玉作の社」と同一の説、勾玉造りの神)
 〇恋山(したいやま)
  ・ワニがタマヒメノミコトを慕って上るが、ヒメは石を持って川を塞ぐ(鬼の舌震)
 〇飯石郡境の漆仁(しつに)の川辺
  ・川辺に薬湯 一度入浴すれば体が和らぎ、二度で万病が治る
   昼夜止まずに行列が出来、効果のないことはない(出雲湯村温泉)

●大原の郡
 〇神原の郷
  ・オオナムチノミコト、財宝を積む ※神原古墳より景初三年銘三角縁神獣鏡出土、大量の銅鐸が出た加茂岩倉遺跡も近く
 〇屋代の郷
  ・オオナムチノミコト、土を盛って的を置き矢を射る
 〇屋裏の郷
  ・オオナムチノミコト、矢を射立てさせる
 〇佐世(させ)の郷
  ・スサノオノミコト、サセの木(何の木かは不明)の葉を髪飾りとし、踊って落とす
 〇阿用(あよ)の郷
  ・目一つの鬼(製鉄と関係)が田を作って守っていた男を食う(八岐大蛇神話の原型とも)
 〇海潮の郷
  ・ウノチヒコノミコト(楯縫郡沼田郷にも登場)、親のスガネノミコトを恨み、
   宍道湖の水を押し上げて溺れさせようとし、海水がここまで来る-沼田郷の記述も水と関係
  ・須我の小川の湯渕の村の川の中に温泉(海潮温泉)
  ・同じ川の毛間(けま)の村の川の中に温泉(所在不明)
 〇来次の郷
  ・オオナムチノミコト、八十神を追い払った時、「山々の守る内には入れまいぞ」と言ってキスキた(追い付いた)
 〇斐伊の郷
  ・ヒノハヤヒコノミコト(古事記でイザナギがカグツチを斬った刀の血より生じた雷神)-地名由来
 〇城名樋山(きなびやま)
  ・オオナムチノミコト、八十神を討つ為に城を築く
 〇高麻山(たかさやま)
  ・スサノオノミコトの子・アオハタサクサヒコノミコト(意宇郡大草郷にも登場)、山の上に初めて麻の種を蒔く。この山に鎮座。
   スサノオノミコトの御子で木の神であるイソタケルノミコトを彷彿とさせる
 〇船岡山
  ・スサノオノミコトの子・アハキヘワナサヒコノミコトが曳いて来た山
 〇御室山
  ・スサノオノミコト、御室(出入り口以外を囲われた空間)を造らせて宿る

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■目立つ神々

●オオナムチノミコト
 ・出雲大社の祭神、出雲神話の主神、大国主命(風土記には大国主命の神名は見えず)
 ・「天の下造らしし大神」の尊称記載多数
 ・圧倒的記述量の多さ
 ・越の八口の平定-八岐大蛇の原型説有

●アジスキタカヒコノミコト
 ・オオナムチノコトの子で、この神自身の子の記述もあり
 ・オオナムチノミコトも手こずる存在感、スサノオノミコトとの類似
 ・大和葛城の高鴨に鎮座(古事記:アジスキタカヒコネノカミ、別名カモノオオミカミ)
  葛城との関係も風土記中に記述、出雲国造神賀詞でも葛城鎮座言及

 ・他のオオナムチノミコトの子は存在感が薄い
 ・記紀神話における代表的な子神、コトシロヌシノミコトもタケミナカタノミコトも登場せず

●スサノオノミコト
 ・子神も含めて、結構記載箇所は多い
 ・しかし、記紀にある暴虐の神話も、天降神話も、八岐大蛇神話も、オオナムチノミコトへの代替わり神話も全く記載なし
 ・娘・スセリヒメノミコトとオオナムチノミコトとの結婚のみは風土記も言及
 ・須佐郷に鎮まる

●アオハタノサクサヒコ
 ・スサノオノミコトの子
 ・名前の通り、植物を蒔いた神話や、草の名の付く地名の由来が語られている
 ・日本書紀において、スサノオノミコトの御子で木の神であるイソタケルノミコトを彷彿とさせる(日本中に木を植える)

●ヤツカミズオミツヌ
 ・国引きにより出雲の国土を造った神、出雲国名の由来(記紀ではスサノオノミコトに由来)、風土記冒頭に記述
 ・古事記ではスサノオノミコトの四世孫とされるが、風土記では系統不明
 ・子のアカブスマイヌオオスミヒコサワケノミコトや、その后アメミカツヒメノミコトの記載はあり

●カミムスビノミコト
 ・記紀では造化三神の三番目の神、記紀では圧倒的な存在感を示す二番目のタカミムスビノミコトは登場しない
 ・風土記においては娘が目立つ、オオナムチノミコトと結婚した娘も多数、オオクニヌシノミコト一族のの母系祖神としての存在感
 ・娘の中でもキサカヒメノミコト、ウムカヒメノミコトは、古事記にも登場する

●ウノチヒコノミコト
 ・系統不明の水神、暴れ者の感、アジスキタカヒコノミコトとの類似

●イザナギノミコト、イナザミノミコト、アメノホヒノミコト、フツヌシノミコト、景行天皇、日本武尊
 ・皇祖神、天孫系の神々や、天皇・皇族はほとんど登場しない中(この点は各国風土記の中でも特異)、これらの神々は例外的に登場
 ・ただし、記述量は非常に少ない
 ・記紀では祖神として圧倒的な存在感を誇るイザナギノミコト・イナザミノミコトは、わずかに記載があるもほとんど存在感はない
 ・出雲国造家の祖神・アメノホヒノミコトですら、わずかな記載のみで存在感がない
 ・記紀において武力を背景に国譲りを迫るフツヌシノミコトは、ここでは最も存在感のある天津神系統の神
 ・天皇・皇族では景行天皇と日本武尊がセットでわずかに登場するが、存在感はない

■その他
 ・地形、距離、方位、産物、神社、寺院の記述が極めて細かい(各国風土記の中でも特異)
 ・地誌として確か
 ・他国との関係した記述はほとんどなく、古志(越)について多少あるのみ
 ・現在でも名高い温泉についての記述が複数ある
 ・重大な発見があった遺跡とリンクした記述が見受けられる

サポート頂けると、全市町村踏破の旅行資金になります!また、旅先のどこかの神社で、サポート頂いた方に幸多からんことをお祈り致します!