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温泉スイート制作中(4)

2階の温泉スイートがほぼ出来上がってきました。
1階は何とか月末までにと急ピッチで職人さんたちが動いてくれています。

ヌックな空間の活用

解体して棟札を確認すると昭和33年1月10日になっていました。
1階は鉄筋コンクリートの建物、その上に木造の建物が建っているのです。
その木造の部分を2022年3月から解体を始め、現在改修工事を行っています。

改装前の客室は、1970年の大阪万博に向けて窓の外に浴場部分を増設していました。
当時は「バス付」と言ってウリになっていたのですが、今ではウリどころかマイナスの部分でした。しかし今回の改修で、このマイナスをプラスにしたいとまず最初に考えました。

2部屋分のバスルーム

解体してスペースを確認したところ、コの字形のソファーは作れるなと思いました。神戸北野の異人館の出窓の様にしたら良いやん!

異人館 出窓とバルコニーが特徴的

出窓の内側は“コの字型のソファーにしたい。でも変に作るとファミレスのソファーの様になってしまいます。さあどうするか!?

御所坊の1階のサロンでふとメッセージ立てが目につきました。

もともとは神戸家具の永田良助商店でプライスタグ用として使用されていたものを、ハガキ大の紙が入る大きさにオーダーして特別に作ってもらったものです。

昔、永田良助商店にオーダーして作ったもの

「そうだ神戸家具の永田良助商店に依頼しよう!」

神戸ビーフの牛の皮の件で少し前に社長に会ったことがあると思い出し、連絡を取り、現場に来て頂きました。

永田良助商店は、神戸港開港と同様の150年の歴史のある家具屋さんです。
もともとは外国人の家に出入りをしていて、外国人が帰国する際に家具の処分を任され、修復し販売していたのが始まりで、その後海外の家具を研究し製造販売を行う。そのうち客船の内装なども手掛けたりしていたそうです。

創業150年の永田良助商店

現存する神戸の異人館や伝統的建物の家具の修理なども行っているので、最適だと考えたのです。

ちょっとの違いが大きな違いになることがあります。
今回はソファーのクッションだけの依頼になってしまいましたが、所有している生地の種類が豊富。
さあどのようになるか楽しみですが、重要なポイントは抑えられたと思います。

バルコニーが欲しい!

有馬温泉の念仏寺の裏にバルコニーのある家があって、子供の頃素敵だなあと思っていました。かつての風呂の部分を出窓として活用するなら、同じ異人館に付き物のバルコニーが欲しい。

有馬の明治の歴史に登場するのは三田の九鬼家。
その九鬼家の家老屋敷が三田にあり、バルコニーがあった事を思い出しました。その建物は異人館ではなく日本建築です。御所坊に近いと考えたのです。

三田の九鬼家の家老屋敷

バルコニーを設ける所は、浴室になる場所です。

風呂上がりにバスローブを着て、バルコニーで過ごすのは良いだろうなあと想像したのです。
そしてそのようにお客様が過ごしている光景を御所坊の川向。現在お猿さんのショーを見ている所から見ると、素敵な宿だなと思っていただけるのではないかと思っています。

もう一つ、有馬温泉のInstagramスポットに有馬小宿 駿河亭の所の階段があります。
まだ工事用のテントを張っているので見えにくいのですが、これを外せば、階段からバルコニーが見え、かつて子供の頃憧れた風景になるのではないかと思っています。

肝心の浴場の方はどうかというと、お部屋で有馬の源泉を掛け流しで提供できる唯一の宿、という事とバスローブを着てバルコニーで過ごしてもらう為の前菜としてサウナを用意しました。

陰影礼賛

この部屋は玄関からだと4階分の階段を上って頂かなければなりません。
“雲山御坊”と称して、黒っぽく仕上げた部屋の棟になります。

2階の温泉スイートは同様の色調を踏襲しようとしています。

躯体が木造の為に、部屋はいくつかに区切らざるを得ません。反対に1階は鉄筋なので大きな区画になっています。

部屋の中央に和室を設けました。お布団を敷けば4人は就寝可能なので、ベットを合わせれば定員は6名という事になります。

その和室を真っ黒にして、特に床の間も黒くしたのですが、内部を金泊で仕上げたいと考えました。仏壇をイメージしたのではないですが、谷崎潤一郎の陰影礼賛。金箔が照明を反射して素敵な床の間になるだろうと考えたのです。

床の間の間口は丸くしました。

設計士が金沢の金箔職人と交流があったので声を掛けてもらったのですが、びっくりするぐらい予算が合わなかったのです。

金の値段が最近上がっているのでそのせいかと思ったのですが、金箔1枚の価格は驚くほど安いのです。1枚○円と言いますから、1g○円として、0.00gの金を使用している事になります。
それなのに何故?というと職人の手間賃が高いのです。
さすがに今回は出来ない問う事になり、他の方法を探しました。

結論は本物の金屏風を手に入れて、床の間のバックに設置する。その屏風に合わせて床の間の開口部を決める。という方法にしました。
実際出来上がり、少し暗くなった時に電気をつけてみるしか成否はわかりません。

京からかみ

知人から京唐紙を紹介してもらいました。
ふすま紙に使用するのですが、今まではシンプルに生成りの和紙で良いやんと思っていました。

取り入れるとしてもたくさんある文様から選ぶのではなく、浴衣の様に御所坊のマークを散らすのはありかなと考え、一度現物を見たいと京都の工房にお邪魔しました。

版木を使用した印刷工程(京からかみ ㈱丸二)

印刷する為には朴の木で版木をつくります。
昔は浮世絵の様にひとつづつ掘っていくのですが、現在ではレーザーで簡単に彫れます。問題は柄の散らし方です。

綿貫先生が存命ならば、すぐにしてもらえたのですが、そうはいきません。
そこで版木の大きさから男性用の浴衣の柄の散らし方でやってみましたが、面白くない。ワンパターになってしまう。

女性用は柄が凝っていると言い、版が大きいので、パターンが複雑なのです。

他になかったかなと思いだしたのが、包装紙。
この包装紙のパターンを少し縮小すれば版木の大きさに収まるし、違和感がない。という事で版木を制作しました。

出来上がった版木。木製のスタンプかな

この版木を使用して、黒い和紙に黒いプリントすれば光が当たると少し文様が浮き出るだろう。お洒落だと考えています。

この京唐紙は、1階にも使い方を変えて使用します。
そして版木さえあれば色々なものに印刷できるので、今後照明の紙や色々な小物にも転用が聞きます。

京からかみ ㈱丸二 西村 和紀社長

京からかみ 株式会社 丸二

まっちゃん

最新のモノをつくると、年月とともに新しさは失せてしまう。
しかし古いモノも盛り込むと、時を経てもわからなくなる。
だから今回の部屋も古いモノも使用しているのです。
照明器具も前の部屋のものを使用しています。

頂いた家具を活用しようとしています。
この部屋は黒っぽく仕上げようとしているのですが、頂いた家具は少し赤っぽい。要は気に入った色に家具を塗り替えれば良いのです。

しかし家具の塗装は難しいのです。家具の塗装職人を探していたのですが、大工の棟梁から「まっちゃんで良いんじゃないの?」と言われました。
まっちゃんは確か兵庫県の大屋の方の出身で、もう30年間ぐらい御所坊の工事の時には来てくれています。

木造だと木が剥げたり、補修した所の色を合わせる事が多々あります。
そんな時に棟梁に「まっちゃん呼んで」といつも言っているのです。
棟梁は「まっちゃんは本当は家具の塗装職人やで」というのです。

そこでまっちゃんに「家具を塗って欲しい。」というと、「まずは試験的にやりましょう。」と言ってくれて、使用する予定のない家具の引き出しを試しに塗ってくれました。

引き出しが塗られています。写真では木目はわかりませんが、木目も出ています。

いけるやん!
この様にして、古いモノを活用したり、再利用して古いか新しいか分からない御所坊の空間をつくっているのです。

ワクワク感が必要だと思うのです。
怪獣やジョーズが現れる前に、何となく来るぞ、来るぞ・・・という感じがするのと同じです。

しかし玄関からこの部屋に来るまでの期待感があるだろうか?

限られたスペースを最大限有効に使った為に、アプローチを全く考えられなかったのです。問題です。

期待感が無い。だったらそれを逆に利用しよう!

高い金とった部屋ってどんなんやねん?
とお客様が案内されてきて・・・・
なんや! ここバックヤードのスペースじゃないか!

と叱られるぐらいのチープな入口にあえてしようと考えたのです。

もちろん中に入ればそれなりに趣向の凝らした部屋にするのですから納得していただけると思っています。

その期待はずれから、期待に変わるきっかけの扉が重要だと考えたのです。
ドラえもんのどこでもドアの様なものです。

書きながら、これってバラしたら良いのだろうか?
と考えました。
もしテレビ局が取材に来たら・・・

係:どうぞこちらです
タレント:また階段かいな、どこに案内するねん(関西ローカル設定)
係:こちらがお部屋の入口になります。
タレント:ええ部屋やと聞いてきたけど・・・ここ?
係:こちらです。でもこれから少しは映像を止めて頂けますか?

ここで係が部屋の鍵を開ける手元にモザイクがかかる。
次は部屋に入ってからのシーンになる。

利用した人だけがわかるようにするというのはアリではないかな?

失敗は成功の基

多くの人数でご利用されるとか、長期滞在される場合お荷物が多くなります。案内する係が荷物を持って行くのは少し大変です。
そうなると案内係とは別に、お荷物を運ぶ係が必要です。

お客様の出入り口と荷物専用出入り口を別に設けました。
これはそこそこの高級ホテルで見受けられます。
御所別墅でも一部活用しています。
しかしあまり活用されていません。失敗でした。

今回は別に荷物用の出入り口を設けました。
さてうまく活用されるかどうか楽しみです。





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