見出し画像

無期懲役の思考

2014/7/23 記
 今、30人いるこの工場で
10月までに出所する人間は、満期仮釈放含めて12人もいる珍しいパターンになった。あと3ヶ月で半数以上が入れ替わるのだ。
 全く面倒な時に衛生係なんかになっちまったものだ。
 まあそれは置いといて、これだけシャバに近い人間が多いと、自然と話は工場最後はいつかとか、どうやって帰るかとか、出たら何をするかというものになる。
 まだ、残りの長い人もいるので再犯刑務所では工場でそんな話は禁句だ。しかしここは初犯が多いので仕方のないことのようだ。
 俺が初犯の時、実はこれをやっちまってバツの悪い思いをしたことがあるんだ。
 訓練で山口刑務所に行ってた時の雑居でのこと。
 俺は半年の訓練が終わったらすぐ出所だったのでまぁ浮かれてたんだな。ところがこの雑居、俺以外の6人は全て15年以上の刑で、中には千葉刑から来ていた無期懲役が二人いた。
 そんなこと全く知らない俺は初犯刑務所の山口に来てるのは皆初犯と思っていた。初犯は間違いないのだが、全員ロングなわけだよ。
 「残刑どのくらいですか」
 「出たらすぐ何食べますか」
なんて、空気読まずに一人一人インタビューしちゃったわけだ。
 嫌な空気を感じてきたけどもう遅い。千葉から来た一人は俺の質問に対して、
「だって俺は終わりがないもの」ときたよ。雰囲気悪いが後の祭りだ。
 もう関係ないとばかりに聞きにくいことまで聞いたな。
すると、訓練に来た目的がちょっと俺と違った。
 シャバで役に立つならと考えた俺とは違い、彼らは今の環境から逃げ出したいからだというんだね。
 同じ工場に嫌なやつがいたとしても短期の俺は出所するまでの僅かな期間の我慢で済むが、無期懲役の彼らにしたら今後も10年20年一緒に過ごさなくてはならない。
 彼らは出たら何するかよりも、刑務所の中で、今の生活をどう過ごしやすくするか。それが大事なんだってさ。ちょっと悲しかったな。

PS 俺は今、昨年の夏に網走刑務所を出所して、釧路の保護会にいる。
昔のノートを東京へ帰って持ち帰り、今これを掲載してるんだ。
この話はおいおい。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?