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死後硬直の恐怖

2014/7/23 記
 20年近く前に山口刑務所に訓練で行った話をしたのでもう一つ。
 雑居は俺以外全て殺人犯だった。
 当時から色々と知りたがりの俺は皆に事件のことを根掘り葉掘り聞いた。
 本当はそういうのタブーなんだろうけどお構いなしだ。
 別の部屋には千葉刑から来てる3人殺して死刑にならなかった者もいる。
 俺の部屋は、黒羽3名、岡山1名、千葉2名、そして東京拘置所の俺の7名だ。黒羽から来た一人だけは最後まで事件のことは教えてくれなかったが殺人罪の半分は、相手のことを殺されて当然だと言っていた。話を聞けばまぁ頷ける。
 その中で、岡山から来た同年代の元自衛官の話が印象に残ってる。 
 腰の低い、温和な男でとても殺人犯には見えない。随分菓子をもらった。
 そいつは友人と自分の部屋で揉めて、死なせてしまった。たった今まで会話をしていた人間が、急に肉の塊になってしまうと恐怖が込み上げてきた。家中の電気を明るくして、ステレオで音楽をビンビンに。
 それでも恐怖は消えない。
 色々考えた末に、裏の竹藪の中に死体を埋めることを決意。身元が割れないように財布や免許を抜いた。これでやつには強盗もつくことになる。鍛え抜かれた体で死体を背負って、夜の竹藪を恐怖を押し殺して登る。しかし、いい時間がすでに経過していて、背中の死体の死後硬直が始まった。
 死んでる人間なのにどういうわけか背中の死体はそいつに強くしがみついてくる。
 やつの恐怖は最高潮に達した。
 死体をおろそうにも、抱きついてきて離れない。恐怖の中もがきにもがいてやっとのことで死体の腕を振り解き、

そこに放り投げたまま家に逃げ帰って震えていた。
 翌日あっ気なく死体は発見されて18年食った。
 まだ10年以上残っていたけど、もう出所しているだろうなぁ。
 あの時、何か差し入れしてやると言ったら、色々な色の下敷きが欲しいと言っていた。懲役長い人の欲しがるものってそんなものなんだね。
 あいつは人生逆転できたのだろうか。

PS 先日帯広まで行って豚丼を食ってきた。

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