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2023小雪日記

本当に転職しようと思ったら早起き習慣を身につけなければならず、そういう矯正に取り組むのは早いほうがいい。夏と違って帰宅後は暗いので、出勤前にいろいろ用事を済ませられればそれに越したことはない。半ば無理やり早寝早起き生活にシフトし、友人が泊まりに来ることもあって部屋の片付けを一通り終わらせて偉かった。

友人の希望で美味しいワインを飲みに行き、家に帰ってもずっととりとめのない話をした。ピスタチオアイスが好きな理由として『ジゴロ・イン・ニューヨーク』を挙げ、マッシュポテトが好きな理由として『大どろぼうホッツェンプロッツ』を挙げた。1しか読んでいないと言うので3巻まで貸した。『ハウル』からファンタジーの話になり、いろいろあるがファンタジー人生においては『指輪物語』さえあればよいという結論になって、満足して眠った。

朝ごはんを食べながらまたいろいろ話をして昼頃送り出す祝日。夕方は買い物をしに街に出て本屋に寄ったとき、ユリイカのトールキン特集を見つけて即座に買ったのも、友人との会話があったからだ。冬用パジャマや、寒い夜にカフェインレスの飲み物、クリスマスカードを買い、プレゼントを見繕う、冬支度の買い物は楽しい。

仕事がつまってきたし個人誌の入稿が迫っていたが、母校で恩師のうちの1人による一般向けの講義があるのをほぼ直前に知り、行ってみることにした。ちょっと早く北山に着いたのは、コーヒーハウスナカザワさんでカレーが食べたかったから。コーヒーハウスと冠しているのにカレーが異様に美味いというのが面白くて、卒業後も昼時に近くを通れば寄っていた。前回来たときからずいぶん経っていたが、コロナ禍を経ても、メニューもカレーの量も、ちょっと食べにくい低いテーブルも、お口直しに出てくるチョコレートのサービスも変わらなくて嬉しい。それどころか、むしろおかみさんのほうはあれからまったく歳を重ねていないようにすら見える。いつか自分のほうがこの人を追い越してしまうような不思議な気持ちになった。カレーの味も変わらずおいしかった。

北山をぶらぶらしていると、このあたりから見る山々はちゃんと紅葉しているのが見て取れた。どおりで同じコートを着ていても寒いはずである。母校には早めに着いて、受付時間まで館内をうろうろした。下鴨小学校所蔵品美術品展というのをやっていてふらっと入ってみた。梥本一洋の「木花咲耶姫」の絵の前でしばらくたたずみ、依田義賢の詩を読んでちょっと気になった。こういうものが小学校の倉庫に保管されたままになっているというのはなんだか不思議な話だ。

会場で受付を済ませ、前の方の席をとる。現役生のころよりも聴講する気満々なのが我ながら奇妙な気分だ、しかも休日に…。配布された資料が歴彩館の名入のファイル入りで豪勢だった。しかもレジュメなんてフルカラー印刷である。隙間風吹きすさぶ二号館での講義時代しか知らないので身に余る心地。受講生は年配の方が多く、業界人か一般人かの区別はつかない。知り合いは見なかった。講義は、最近出版された近世俳諧に関する書籍周辺の話。恩師の一人である編者の先生を中心に、三人の先生によって、俳諧の簡単な文学史、所収されている俳諧の紹介、短冊と当時の出版技術まで、詳しくない者でもわかりやすく興味を持てるような内容で、さすが大学の先生の腕の見せ所といった感じがある。M先生はすでに引退されており、記憶にあるよりもきれいな白髪をされているけれど、変わらぬ穏やかな声で講義が始まったときは深く安堵した。当時からよく眠気を誘われたものだったが、この本の来歴が眠気も寄り付かぬほど面白い。聞けば、歴史の中で消えたとされていた数百年前の重要資料が、さる所有者からつい最近寄贈された資料の中に含まれており、まるで玉手箱のようにゆらゆら立ち上ってきたのだ、というロマンに満ちた事情だったそう。そんな幻の資料が目の前に現れたと気づいた先生の興奮たるや。大学にご在籍時はきっとこの資料整理に注ぎ込まれたに違いなく、それが出版という形で日の目を見たのだった。

講義の後、展示資料を見せてもらいながら先生に話しかけると、卒業年を伝えたらわかってくださって嬉しかった。「あなたがたの学年が一番元気いっぱいでしたよ」とのことで照れくさい。またこういう機会があれば喜んで駆けつけたいと思う。
その後は二階の図書館を見学して、先程気になった依田義賢について調べてみたが、詩集は府立図書館にしかないようだった。帰りは、読みきれていない配布資料があったので久しぶりに喫茶翡翠へ。なんだか勉強熱心な一日になってしまった。

この日は全然手をつけられなかったので、翌日は早起きして組版データを触り、予定の前に寄っておきたくて府立図書館へ。依田義賢の詩集を閲覧して、1冊は借りることもできた。別に今日でなくてもよかったのだけれど、デジタルリマスター版で公開されていた『アメリ』を観た。うーん、今日じゃなくても良かったかもしれない。おもしろかったけど、何も予定のないつまらない日に観たかったかな。その後はカフェで物書きして、待ち合わせまで時間を潰す。

夜はしんきろうの集まりがあった。ドイツ在住の同人が一時帰国するというので、十周年記念号の二回目の打ち上げとして、来れる者を招集したのだった。母校付近で当時よく利用していた居酒屋を使いたかったのだが、その日はあいにく団体客で埋まっているようだったから、きっと学祭の打ち上げかなにかで使われたのだろう。円町に姉妹店があったのでそちらの座敷に予約した。この日集えたのは6人だったが、ドイツから来てくれた馬場くんには出立前にミシンをもらったこともあり(それでも7年ぶりくらいだけれど)、地元新潟で活躍中の佐藤瑞穂などは十年以上ぶりかもしれない。瑞穂が「みなさん有権者ではないので…」といって鞄から1kgのお米を5つ取り出したのには笑った。新潟から5kgのお米を運んでくるのはさぞ重かっただろうに…。馬場くんはドイツからマジパン菓子と、手のひらサイズの絵本やステッカーのコレクションを見せてくれ、記念に一つずつ贈ってくれた。素潜り君と澤ちゃんは昼から円町にいるといい、やばい喫茶店で二時間過ごしたときのあれこれを面白おかしく話してくれた。ボスは途中参加だったが、いつも通り終始ニコニコしていた。十周年記念号の話はほとんどせず、ドイツのKFFの話で盛り上がってしまうあたりはしんきろうらしいというか…。M先生の講義を受けてきたばかりのわたしは、同学部卒のボスや瑞穂と矢数俳諧の話をした。

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京都での気ままな暮らしを綴っています。日記ですが、毎日書けないので二十四節気ごと、つまり約15日ごとにつけています。それで「二十四節記」と…

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