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北海道地震日記1日目

2018年9月6日(木)
 午前3時ころ地震で目がさめる。
 寝室の本棚がグワングワン揺れて、これはまずい。しかも停電。ふと横に寝ている息子を見ると爆睡しており、頼もしいと思う。
 揺れが収まってから、恐る恐る部屋を巡回。雪崩のように本が落ちている。辻さん(夫)の本がぎっしり詰まった棚はその重さゆえかほとんど動いていない。棚の裏に電池で動く電車が落ちて、そのモーター音が部屋に響く。寝直そうかと思ったが謎のアッパーな気持ちが湧き上がり、風呂や鍋に水をため、リビングを片付ける。

 ひと段落して窓の外を見るとオリオン座がくっきり見えた。停電の街に輝く星空。急にSFの主人公のような気持ちになって高揚する。レイ・ブラッドベリ『華氏451度』のラストで朝焼けの中ベーコン焼いてたなあとか思いながら明るくなる空を見ていた。息子起床。地震の話をすると「そんな音、きこえなかったわー」とのこと。音かーと思いつつ、地震を知らないのはこの場合良いことであろうと「そうねー」と相槌。6時頃コンビニに買い出しにゆく。マンションの非常用階段ドアを開けてひたすら下る。自転車置き場の壁にひびが入っている。

 自転車にまたがり周囲のコンビニ視察。最寄りの店は外にまで行列ができていたので、少し遠くのファミマに行く。外に列なし。思いの外カップラーメンと飲み物の在庫はある。でもパンとおにぎりはゼロ。モバイルバッテリーと3日ぶんの食料品をカゴに入れ列に並ぶ。非常時ということでホットケーキミックスも買った。『ムーミン谷の彗星』でムーミンとスナフキンとスニフが危機迫る中、森で焼いていたパンケーキを思い出したからだ。水と粉しか使ってなくても焼けたところから齧って食べる描写がとにかく美味しそうで、真似するなら今! と思った。アンパンマン風船も2つカゴに入れた。泣いている子供がいたら手わたそう。
 レジではバイトのお兄さんと店長の2人が必死に対応していた。まず店長がハンディのバーコード読み取り機で値段をみて、お兄さんが電卓入力、同時に紙に値段をメモする。二人の必死さに胸が熱くなるが「本当にありがとうございます」しか声がかけられない。40分かけて会計を済ませ、外に出る。少し気が楽になる。信号が全て止まっているのに車がビュンビュン走っている。こんな時にたくさんの人が仕事に行くのか? 少なくとも電話は通じるのに? しかし、インフラ系の方々はめっちゃ頑張っているはず……とか考えつつ非常階段今度は上り。こちらはしんどい。

 辻さん出勤。徒歩圏内に職場があって良かった。iPhoneに電波はあるので安否連絡とTwitter少し。結婚祝いでもらった防災グッズでラジオ聴く。いい祝いの品だ。情報が入るのはありがたい。まだ水も出るのでトイレもいける、ガスの火もつく、ありがたい。息子とひたすらレゴをして、近所の薬局を視察、ものすごい行列にビビる。引き返して公園でボール遊び。息子の体力を明るいうちにたくさん削るのが大切なのでこれは死活問題なのだ! 水汲みにきている人が数名いた。雨が降ってきたので帰宅。階段の上りでも体力削りが伺えて、しめしめ。

 お昼に辻さんが帰宅したのでガスの火を恐る恐るつけて、冷蔵庫のありものでフォーを作る。ライムの代わりに昨日の秋刀魚のあまりのすだち。こんな時に謎のオシャレさが飛び出して笑う。あったかい食べ物はやはりいい。

 その頃、電気の復旧までに一週間はかかるのでは? という情報が入る。1〜2日ならキャンプ気分でなんとかなるけど1週間……。見通しの効かなさが人を不安にさせるのだ。ひとまず明るいうちにお風呂。といってもお湯が出ないので(ガスの火は出るのに!)辻さんは水シャワー、私は頭と顔を洗面所で洗い、ヤカンのお湯をぬるくして濡れタオルで体を拭く。森鴎外は体を拭けば風呂などいらぬ!派の人だったという話をし「鴎外スタイル」と命名。しかしドライヤーがないのは寒い。暑い季節で本当によかった。その後洗濯。洗面所に水をためて押し洗い。洗うのはなんとかなるが脱水が困る。ああここで洗濯機が使えればなあ! 仕方なくぎゅーぎゅー絞る。

 晩御飯は冷蔵庫のありもので、豚肉となすのつけだれ素麺とする。素麺だけは豊富にあるのだ。送り主の実家の皆さんありがとうと思いつつ調理。カップラーメンもあるけれど、まずは冷蔵庫の中身処分が優先。意外と中は冷たいので停電しても半日はOKだと学ぶ。日没前までに夕飯を済ませて、ふと外を見ると明かりがついている!

 わーー! 道の向こう側通電してる! 我が家もいけるかな? とブレーカーを上げてもダメ。ものすごくしょんぼり。地震直後の真っ暗な街には大変ロマンを感じたし、ここまでSFの主人公気取りで危機を乗り越えたつもりだったのが「なんでウチはつかないの……羨ましいなあ……」と人間味溢れる感情が出てきて驚く。主人公台無し! 所詮私も人間である。

 道の向こう側から溢れる光を受けつつ、19時に就寝。息子も辻さんも爆睡。お疲れさまでした。私もすぐ寝て、23時頃起きる。キャンプ用に買ったランタンの灯りに照らされつつラジオを聴く。自家発電機のない酪農家の方の牛乳破棄の話に胸を痛める。謎の高揚感に押されてノートパソコンでこの日記を途中まで書く。今日あった出来事の記憶が異様に鮮明で、やっぱり非常時なんだなと思う。

 起きてきた辻さんと、今日は何度も本や映画の内容を思い出す話をする。辻さんは東京在住時に起こった東日本大震災を思い出すらしい。レールから外れるような事態に陥った時、人は何かを参照したくなるのだなあ。その選択肢は多い方がいいに決まっているから読書の意義はまさしくそれだ。

 映画化もされたアンディ・ウィアー『火星の人』の火星に一人取り残され、機転とユーモアで事態を切り抜けたマーク・ワトニー宇宙飛行士の姿を何度も思い描く。苦しい時こそユーモアなのだ。1時頃布団に潜る。眠気はすぐにやってきた。

私のヘッドライトをいたく気にいる息子。いいよね、それ。

2日目はこちら
https://note.mu/gotogumi/n/n793b6b67e1d3

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