プロフェッツ~1~

永遠に続く物なんて無いし、あって欲しくも無い。だけど、終わるタイミングが「今なのか?」と言う気がするし、ある意味で必然なのかもしれない。最終を告げるベルは俺には聞く事しかできない。鳴らす事も止める事もできないその音はただただ通り過ぎていく。

「終わってしまうのか」

山手線の湿っぽい空気の中ただその思いが頭の中を巡っていた。この世界には、多くの人間にとっては全く大したことが無い話しだ。いや、少数の大したことある人間も時間や新しい人間の登場により掠れ消えていく話しだ。だが、だが、それだじゃ割り切れない気持ちがある。納得できない気持ちがある。

「解散します!」

簡潔で裏読みの隙間が存在しない連絡だった。とあるバンドが解散する。ただそれだけの話しだ。だけど、俺にとったら一大事だったんだ。

終わりはいつも美しい。根源的に。

~S~

彼との出会いはもう十年以上前になる。彼が在籍していた職場に私が入社した。最初は「あ、これは生きる場所が違う人ですわ。あきまへんあきまへん。日陰の世界の人間と仲良くなりましょ」と思い話したりしませんでした。

私はタバコをコミュニケーションツールとして利用している部分があるので、大体喫煙所でいろんな人と仲良くなるのですが、彼は煙草をやらなかったので話す機会がなかったのです。しかし、他の人と喫煙所で話しをしていて私がバンドをやると言う話しになった時、バンドマン人口が異様に多いその職場で色々と受け入れられたりしました。

「多分彼はV系バンドの人なんだろうな」

最初はその程度の気持ちでした。その当時私はV系バンドを完璧に小馬鹿にしていました。

「音がヘボいから見た目に頼ってるんじゃないか。真摯では無いね?紳士でも?女子の陰部をまさぐりながら?甘えるんじゃない!!!!」

そんな気持ちだったことを覚えています。

私もV系バンドをやっていたら女性と桃色遊戯にふけり、心と体に悪影響を与える薬をチラみせしてアンダーグラウンド気取りでワンダーナイトをサムシング出来たのでは無いでしょうか?簡単に言えば「チャラチャラしとるなあ!」な感じでした。しかし彼は「高田勝政」は何か違う雰囲気を持っていました。

何となく席が近くになり、適当に仕事をサボりながら話しをしました。「この若者、音を信じぬ若者はどんな音楽聞くのかなあ?」と思ったのです。

「こんにちは後藤です。高田君はどんなバンドが好きかな?」

「うーん、バックホーン好きですね」

「友達になりましょう」

彼は良い人でした。最高のメンズでした。なんと言うか気品がありますね。一本通った男と言うのが分かりました。最高です。

「でも、見た目とかV系の人じゃないか。バンド組んでるの?」

「いやー、今は準備してる所で。もう少ししたら結成してライブやりますよ」

「是非呼んでください。V系?」

「そうですそうです。後藤さんはノイズやってるんですっけ?やるとき呼んでくださいよ!そう言うのも見てみたいんです!」

見た目とかそういう部分で人を判断してはいかんなあと思いました。というかバンドマンの駄目な部分ですね。自分が好きでは無いジャンルの人間は見下すか舐めた態度をとる人間が多いです。音楽のジャンルと言うのは宗教なのです。政治を超えた宗教。分かり合えないですし、宗旨替えをした場合はうしろ槍刺され隊として絶命覚悟の気合いが必要です。中国からネパールに逃げる難民のような心持ちで行動をしなければなりません。

ジャンルとは宗教で音源とは経典です。音楽が好きだったり音楽を作る人はその流れにそって行動をしなければなりません。なぜか?それは宗教施設であるライブハウスと多くの信徒であるファンが関係してきます。やはり宗教施設は信仰する宗教に準じた宗教行事を行います。そしてその行事に参加するのは信徒です。

もちろん、いろんなジャンルを精力的に取り入れたライブハウスもありますが、そのにはコアな信者が中々やってきません。ライブハウスが少ない地域ならジャンルが偏ることは少ないのですが、都内だと多くのライブハウスがあり、独自性とか信念に裏打ちされた信仰により「ジャンルによっては出られない場所」が生まれたりします。

しかし、バンドマンと言うのは宗教に殉じ宗教行事を行いはしますが、その信仰は全く違う物だったり、信仰と本心は全く違ったりするのです。パンク畑で雑食な音楽を聞いてきた私ですが、知らないうちに「V系は視野が狭い」と言う視野狭窄に陥っていたのです。それは何故か?V系はファンが、信徒がマジでコアなのです。焼身自殺や信仰を強める刺青なんて余裕余裕ってテンションです。信仰にかける愛情や重さが全く別物なのです。だからこそ、その信仰に応えるために、その宗教でなりあがる為に心とは裏腹な気持ちを持ちながら教義に従っている人もいるのです。

祭りを司り、神の言葉を代弁するのは神では無いのです。それは人です。ただの人です。それも成りたくてなる。運命も偶然もへったくれも無い、

「その道を選んだ人間の中の経典」

がドロップされるのです。それは高らかに、高らかに。

数ヵ月後、ついに高田はバンドを組み初ライブを迎えました。都内の百人弱も入れば満員のライブハウスです。会場には女性の香りが漂っています。V系バンド、ヴィジュアル系バンドです。やはりメインのターゲットは女性です。美人から少し美人じゃない人まで選り取りみどりです。

客席に繋がるドアを開けるとそこにはびっくりする景色が広がっていました。ライブは行われています。名前も知らないバンドですが、早いリズムに中々のテクニックを持っています。客もノリノリです。

前から二列だけ。

そしてその後ろでは多くの客が床に座ってライブを見てい…いや、見ていないのです。携帯電話を触ったり携帯ゲームをしたり、何か写真みたいな物を交換し合っていたり。これはどう言う事なのか?今までパンクロックやハードコアライブしか知らなかった私は衝撃を受けました。その時私の肩を叩く人が、すわ盗賊か!?裏拳を叩き込もうとして目線を向けると、そこには同じバイト先で乳がものすごく大きくてものすごく乳の露出が激しい乳本さんが居ました。彼女も高田のライブを観に来たのです。

「後藤さんも来たんだ~!」

「どうもどうも。相変わらずすごい乳ですね」

「ライブだから気合い入れてきちゃった~」

「少し外でお酒を飲みながらこの世界の事を教えてください」

客席を離れバーカウンターで一杯やりながら乳本さんに色々と聞きましたが乳をチラチラ見る事に全精力、精力を注いで、注ぎてえなあ精力、このわがままボディーにああ注ぎてえよ~。それはそれとして覚えている範囲の話しでは

1:ファンの事はバンギャと言うのが通例。

2:バンギャは目当てのバンド以外では基本的に盛り上がらない。前で見るのも細かいルールがあり、破るとネットで叩かれる。

3:盛り上がり方にもルールがあって、所謂オタ芸の様に決められたルールがあり、それを破ると「感じ悪いよね~!」と言った感じでネットで叩かれる。

4:やっぱりメンバーと桃色性行為を求めている人も居る。そしてバンドもド底辺だとそれを目的にしていて色々とあったりたまに人が入院したり死んだりする。バレるとネットで叩かれる。

そんな感じでした。凄い。部族です。宗教を支えているのは強い強い部族の掟だったのです。その掟に従いながら、自分で戒律を作り自縛の縄を太く強くしながら彼女達は応援をするのです。

「乳本さんはバンドマンと桃色遊戯したのですか?」

「○○のベースとした」

「僕だって知ってるレベルの人じゃないですか」

「えへへへへ~」

そんなこんなで高田のバンド「S」が始まりました。とりあえず客席後方で乳本さんと始まりを待ちます。前の方に数人の女性が今か今かと開演を待っています。

「なんで初ライブなのに人が居るのですか?」

「多分前のバンドからのファンじゃない?高田君、前もV系やっていたし、メンバーも前にバンド組んでたからその時のファンだと思う」

そして少しのギターストロークの音、スネアを叩く音が響きました。最後の調整です。ステージには一枚の幕が貼られています。その幕はこの世とあの世の境目です。その幕の後ろではどんな顔で何が行われているのか?それは知っていますが書きたくは無いです。そこは神により近づいた人間だけが近づけるのです。

彼らは歌い演じるのでしょう。神の言葉を自分の中に落とし込んでそれを私たちに伝えるのでしょう。そんな神聖な時間が過ぎていきました。

幕が開く、誰もいない。あれ!?おらんの!?SEが鳴り響きます。環境音楽のようなそんな音楽が、急に激しく転調しました。するとステージの袖からメンバーが一人飛び出してきて、ステージの上においているお立ち台の上に立ちアピールをします。盛り上がる前の数人。同じ宗教でも宗派と周波が違うのか特に反応の無い人。後ろの方で盛り上がっている人。いろんな人がこの行事の始まりを思い思いで見守っています。最後にボーカルの高田、いや「マーサ」と言う名前のカリスマが現れました。彼もお立ち台の上に乗り、客席にアピールします。さっきみたバンドの人よりもオーラがあります。興味なさげにしていた客が数人立ち上がり「どんなもんかいな?」と言うテンションでライブを見る気になっていました。

一曲目が始まる。所謂V系の曲っぽくない楽曲です。でもかなり良い。演奏隊はそんなに上手く無いが歌が、歌が抜群に上手い。厳密には粗い部分もある。しかし、それを置いておけるカリスマ性があるのです。

これが歌か、歌なのか。今まで爆音の中で歌すら楽器の一つとして勘定してきた私にはショックでした。伝わるのです。意味が、教義が、思いが。私はただ盛り上がれば良いと思い、早急なリズムでやかましい楽曲を矢継ぎ早に叩きつけるだけでした。しかし。全く違う。違う宗教に触れた私は鳥肌が立っていました。これが、力か。これが、思いか。

25分程で五曲程やり、メンバーは立ち去りました。良かった。私は舐めて居ました。「V系って言うのは女にモテるためで、見た目にこだわるのはヘボい演奏を誤魔化すためだろうが」と。違ったのです。あのメイクはもちろん武器になります。しかしそれは「世界観をより強く深く伝える」ためにあったのだと感じました。

必然、そう、必然だったのです。もちろんただ何となくメイクをしたりしているバンドも居るでしょう。彼らは違いました。分かるのです。良いバンドを見れば分かる。アリなのです。宗教を、教義を超えて私がショックを受けたのです。これはアリなのです。

「いやあ、良かった。乳本さん、楽屋に挨拶いきますか?」

「多分すぐに客席に来るよ~。物販あるからね~」

「おお、CDとかもう作って居るのですか?」

「違う違う。チェキ。チェキ売るの」

「あのインスタント写真みたいな?彼ら初ライブですよ」

「そんなの関係ないよ~。買う人は買うしね~!私も買うよ!」

そう言ってチェキだけが入った手帳を私に見せてくれました。色んなバンドのチェキが入っています。しかし、やはり好きなメンバーのチェキが多い。凄いなあ。こう言う所にも違いがあるのか。うちら物販なんてCDとTシャツ位やのに。

「これってオマケみたいな感じでくれる物なのですか?」

「買うよ~!」

「あ、そうなのですか。1枚100円とかで?」

「2枚500円」

「たっか!サイゼで豪遊出来るやんけ!」

「でも、これはこの時しか買えないんだよ~!だから買うの!」

「でも500円かあ…あれ?前のバンドが売ってますけど、チェキってくじ引きみたいになってるのですか?任意の選べないの?」

「そうだよ~!だからお金に余裕がある時は全部買ったりするよ!」

「今まで使った最高金額は?」

「4万」

「ソープ行けるやんけ!!!!!」

「でもさあ、やっぱりバンドって最初のうちはお客入らないとチケットノルマとかでしんどいじゃない~!だからこういう部分でもお金落として助けてあげたいんだよ~!単純に欲しいってのもあるけどね~!」

高田がメンバーと一緒に物販席に現れました。先ほど前の方で見ていた人が集まりチェキを買ったりしています。興味なさげにしていた人も何人か買い始めました。

2枚500円。そして無料のDEMO曲が1枚。結構な量がはけていきました。お釣りを出させるのは悪いと思っているのかバンギャは1000円で四枚のチェキを買っていきます。

一段落したあと、物販席に行って高田に話しかけました。

「すげえよかったよ。乳本さんから色々教えて貰ったけど、V系って大変だね」

「ありがとうございますー!いやあ、でも本当にありがたいですよ。初ライブなのに結構お客さん来てくれたし。本当にありがたいですよ」

メイクで別人のようにキラキラしている高田がそこには居ました。彼は彼の言葉と音楽で教義を伝えたのです。緊張したでしょう、つらい事もあったでしょう。しかし彼はやりきった。メンバーと練習をしてきた成果を出し切ったのです。彼は美しかった。彼の音楽は心に突き刺さった。恋愛の歌や現状に満足できない歌。伝え方は違えど、「神」に仕える私たちは伝える事は一つでした。「今」を強烈に伝えるのです。神は一つなのに宗教は分かれ、その中でも宗派が分かれます。違いを作るのはいつだって人間なのです。

「楽屋戻りますけど来ます?」

「是非」

客席を出る前に壁に背中を預け携帯を操作している乳本さんに話しかけました。

「楽屋行くけど一緒にどうです?」

「う~ん!私みたいなバンギャが行くと後々ネットで叩かれるかもしれないからやめとく~!」

ここにも戒律が。

それではしょうがないと一言、私は楽屋に向かいました。

そこには少女達の、バンギャ達の夢を作る人達が居ました。すっげえヘアスプレー臭い空間に。

これは凄い、ちょっと酸欠になりそうなレベルでスプレーが消費されている。黒夢のsprayを口ずさみながら光景を眺めていました。細くてローキック一発で沈みそうな男前たちが、より男前になろうと。神事に赴く巫女のようにメイクをしたりしていました。実際は普通にトッポ食べたりお酒飲んだりしていましたが。

「高田君、良かった。めっちゃ良かった」

「いやー、久しぶりだから緊張しましたね。でもちょっと盛り上がって良かったですよ」

「なんかすごいね。ハードコアとかパンクとは違う。なんて言うか売れようって気持ち感じる」

「うーん…でも…まあバンドによりますね…」

周りに多くのバンドマンがいる楽屋では話し辛そうにしていた高田を慮って私はそこで話しを切り上げました。

バンドとは何か?売れないV系バンドマンとは何か?少なくとも今日見た高田は足掻いこうとしていた。バンドで売れるって言うのはもう崩壊している。テレビのタイアップでアホみたいな歌を歌うか、ひたすらツアーを回ってTシャツを売りまくるか、アリーナやドームでタオルを売るビジネスモデルしか無いじゃないかと感じていました。そう、バンドで売れるのはハッキリ言ってほぼ不可能なのです。もうCDは売れる時代じゃなくなってきました。まだスマートフォンは発売されていない時期でしたが、ほとんどの人が自宅でYouTubeを見て、ニコニコ動画を楽しみ、あと数年後にはiPhone3GSなどが席巻してくる世界でした。この世界の濁りはどんどん増していく。黒くうず高く重なる思いは意思を持ち弱い心を食いつくそうとするだろう。誰がその獲物になるのかは分かりません。ただ、誰もが獲物にはなりたくないんだろうなと感じていました。

売れないバンドマンの高田も、売れない声優の私も。

~K~

ライブを見た後、私はバイト時に高田の近くに座るようになりました。V系バンドの世界、自分がどうなりたいのか、色んな事を仕事を完璧にサボる事で話し合う事ができました。売れると言う事は難しい。それは声優を目指している私も同じでした。いや、私は事務所に入って少しは仕事が貰え、周りよりもよっぽどマシな状態でしたが売れていませんでした。お互いに違う世界の話しの苦労や楽しい事を語り合い、そしてお互いに売れようと誓い合いました。それがどれだけ軽い言葉で、どれだけ重たい現実がそこにあるのかはわかっていましたが語り合いました。語る事すらやめてしまったら存在が消えてしまうくらいに希薄だったのです。「居ても居なくても良い存在」それが私たちでした。私たちが業界から消えてしまっても何の影響もないです。数人は悲しんでくれるでしょう。数人は褒めてくれるでしょう。しかしそれだけなのです。その思いも毎日の生活の中で薄れていき、希薄から希みが消えて何もなくなってしまうのです。

いとも簡単に存在が消えてしまう存在。それが「やりはじめた人間」でした。ここからどうなるのか?どうしたいのか?高田は21歳、私は25歳、分かっているはずでした。もう子供じゃないのです。高田は学生の時からバンドを組み、そして私は学生の時から声優を目指していました。進んだ時間はまだお互いに短いとは言え、自分が踏ん張って立つべき地平が見えていました。

「頂点は見えている。そこにある教典も見える。辿り着く道だけが見えない」

気がついているのです。目指す人間は誰だってわかっているのです。どれだけ進もうとしても、足を踏み出してもその山を、聖地に近づいて居る感覚は無いのです。そして恐れを抱いているうちに時間だけがすぎ、力を得ながらも衰えていく自分に恐怖し、死んでいく仲間を見る事で心が削り取られていくのです。あの日憧れた存在に、あの日恋焦がれた思いに殺される。夢に殺される。それが目指すと言う行為だと私は思います。ゴールに向かって思いついた方法と手に入れた方法で近づくのですが、到達できるかは分かりません。失敗は失敗した時にだけ気がつく事が出来るのです。だったら始める前から諦めてしまうのか?無理です。夢を見た時点でもう麻薬中毒と同じ脳なのです。やるしかないのです。じゃないと死ぬより怖い。どんどん人間は追い詰められていく。一日寝るごとに夢が、目標が遠ざかっていく気がする。周りの人間がどんどん成長していくような気がする。俺だけが、俺だけが置いていかれていくような気がする。全て「気がする」の上に周りの人間も同じような状態になるので実際は違うのですが、そうとしか考えられなくなるのです。ですがこのヒリヒリした状態でどう進むかが男の子の生き様ってやつなのです。無理にでも、血反吐を吐きながらでも進むのです。

そして私は声優として中々芽が出ないながらも多少結果を出し、高田もバンドが中々好調でした。

「今度、ちゃんとCD出すんですよ」

「おお。インディーズって感じで良いね」

「ミックスとかマスタリングもやるんですよ。やっぱり自分の作品が残るって良いですよね」

「わかるなあ。僕も声入れたやつが物になるとグッと来る。バンド調子良さそうね。お客さんも明らかに増えている」

「ええ…そっちは良いんですけどね…」

「そっちとは?」

「うーん…メンバーと若干ギクシャクしてて…」

バンドは生き物と言いますが、それは若干言葉が違うと思います。バンドは神の啓示を話す人間の集合体なのです。そして同じ神の言葉を、違う人間が、この場合は5人で語るのですから続けている内に齟齬が生じたりするのです。メンバーの中には本気でバンドをやろうと思っている人間だけでは無く、興味からやっている人間も居ます。声優の場合は周りにそんな人間が居ても特に問題が無いのですが、バンドと言う集合体でそう言う人がいると周りのスピードについていけなくなるのです。もちろん趣味でやっているなら問題はありません。しかし、ガチで売れようとすると全く違った話しになってきます。

「売れたい人間と楽しくやりたい人間はどうして相容れないんでしょうね。お互いに楽しみたい気持ちは同じなのに」

「そうだよね。中々難しい話しだよね」

「浅い所でチャプチャプ水遊びから始まっても良いと思うんです。でも…やっぱり遠くまで泳いだ方が楽しくなる瞬間ってあると思うんですよね」

多分このバンド長くねえなと感じました。高田はガチで。本当に売れたいと思っている。だからこそ自分の意見を若干押し殺してもバンドに合わせたり、戦略を以てしてショウビズの中で戦おうと決めている。まだ若いのに凄い。その点、俺はどうなんだ。あるがまま、わがままに、僕は君だけを傷つけない。違う。ただわがままにやっているだけなのです。勿論戦略はある。しかし、それは「自分のやりたい事をやっているだけなのではないか?」悩み苦しみながらドブから高みを見上げる高田を羨ましいと思うと同時に少し怖く感じました。

俺にこの覚悟はあるのか?

喉元にナイフを突きつけられたような寒気がしました。ただ無責任に自分のやりたい事をやるって臆病なだけじゃないのか?多くの事を考え、そして計算と戦略を作り戦うのが本当の戦いじゃないのか?そんな気がしました。

「後藤さんが羨ましいって思うんですよね」

「どう言う事?」

「バンドも声優も思い切り楽しそうにやるじゃないですか。多分、僕はもうそっちには行けない。臆病になってしまった」

隣の芝は青い。枯れた芝すら生き返らせる程に。

声優としての毎日は続いていました。スタジオに行って関節を決められる声を出したり火だるまになって死ぬ声を出したりホットドッグを求めるじいさんの声を出したり。お金もそこそこもらえてバイトの給料と合わせると30万円を超えたりしていました。生活はバイトしながらでも何とかなる。しかし、そこには充実がありませんでした。これが、これが自分自身が求めた物なのか?違う気がする。もっともっと大きな強い、成長にしても理不尽にしても何かがあるべきだと感じていました。しかし、声優として事務所に入ってしまったらある種の「社会性」に則って「社会人」として進んでいくのです。枠からはみ出すと言う事はもう駄目なのです。自由に芝居をやり、自由な演技をする。それはアマチュアの行為でした。プロとは人が求める物をやる事です。プロとは「好きでも無い事を仕事として出来る事」なのだと気が付いてきたのです。

「高田君は好きな事したいって思う?」

「そりゃしたいですね。でも、それじゃ駄目だと思う」

「俺もそう思うよ」

「でも…だからってやりたくない事はしないですね…折り合いは付ける。その上で全力でやるってのが誠意じゃないかなと思いますね」

「そうだよな。誠意だよな。何と言うか…俺も君もいつのまにかファンとか出来たりしてるけど…向こうは俺達の事どう思ってるのかな」

「クソもしないって思ってるんでしょうかね?」

「今も飲みすぎてゲロ吐きそうだけどね」

夜勤明け、私は高田と飲みに行く事が多くなりました。

「売れないと…売れないとやっぱ俺は駄目だ思うんだよね…」

高田が地元に居る時に一緒にバンドをやっていて、今は同じバイトをしている子犬間源蔵も一緒に飲んでいました。彼もバンドマン、V系バンドマンです。しかし彼はそこから脱却しようとしていました。自分が信じる宗派に戻ろうとあがきながらもV系で何とか売れようとしている男でした。

「マーサもさ…やっぱ売れんと駄目よ…数十人に…聞いてもらっても…意味無い思う…いや…意味はあるか…でも…納得はできんな…」

「ゲンちゃんの言う事は分かるよ。でも、だから何をするかって事だと思うんだよな。売れたいって思うのはみんなそうだよ。でも、だからこそ戦略とかそういう部分は必要だと思う」

「分かるんだけどな…俺は…そろそろV系嫌になってきてしまったわ…テクニカルな事しても…誰も気がつかんし…見た目…やっぱ見た目を観る人が多いしな…」

V系、それはやはり化粧や衣装が重要です。そしてキラキラしたステージングで魔法を、ファンに魔法をかけるのです。そしてそれは「恋愛」に近い感覚になり、そのバンドに忠誠を誓うのです。しかし、ファンは「観たい」のです。バンドマンは「聴かせたい」のです。教義に則った言葉や曲を信徒に伝える預言者、そして預言者を崇め奉るファン。これは良いとか悪いとかじゃなくてそう言う物なのです。姿を観たいのです。

「俺は…多分…近い内にV系は上がるかも知れんな…もう…そこそこの年齢だし…」

V系はボクサーに似ていると思います。彼らは見た目の為に食べたい物を控え、来るべき日の為にひたすら鍛え、年齢や容姿の衰えと言う戦い難い物と戦い続けます。チャンピオンになった所で食っていけない部分まで同じです。有名バンド、例えばクアトロやゼップを埋められたとしてもそのバンドメンバーはバイトをしています。特にベースやドラムが辛い。作曲や作詞をきちんとしないと金が入らない。有名バンドでもそうなのです。インディーズの彼らはマジで地獄です。高田はバイト、ライブ、練習の合間を縫って音源を完成させました。この音源を持って観客と「自分に興味が無い人間」にパンチを繰り出し、そして顔を自分の方に向けさせるのです。

「僕はやるよ。納得するまでやる」

「どうなったら納得出来る?」

「………そうですね………わかんないけど…わかるまでやりますよ」

音源を携えてのライブを重ねているうちに、最初は3人位だったファンが15人位に増えていました。そんな時、高田がニヤっとしながら近づいて来ました。高田はヤバい事があるとニヤっとする癖があります。「あ、こら何か有ったで」と感づきながらも平静を装い仕事をしていました。高田はニヤニヤしながら何か言いたげな感じでした。私は煙草を吸うために席を立ち、高田に目で合図を送ると喫煙所に付いてきました。

「何かあったの?」

「凄い面白いですよ」

「どうしたの?」

「バンド、僕以外脱退するんですよ」

「え!?」

「やっぱりガチでやるかどうかの温度差が埋まりませんでした」

「そっか。って事は近く解散?」

「ですね。しょうがない。今のままダラダラ続けてもしょうがない」

「だろうね。でも…音源作ったのにね」

「それはそれです。上に行くには今のままじゃ無理なら今終わらせるべきだと思ったんです」

強い。またメンバー集めから始まります。バンドは一人ではできません。メンバーがいないといけません。V系でも一人でやっている人は居ますが、一人は地獄です。支払い、連絡、営業、全て一人です。そしてバンドメンバーが多いとメンバーにファンが付く事でより多くのファンをゲット出来ます。そして結構ファンが付いて来ている状態での解散。これはかなりのダメージです。今まで積み上げてきた事をもう一度最初からやらないといけないのです。

「どうすんの?」

「もう考えています。メンバーも探しています」

「納得出来るメンバー見つかると良いな」

「納得するまで…やりますよ…やらなきゃ意味が無い」

そして数度のライブの後「S」は解散しました。これと言った感慨も無く、これと言った結果を残すこともなく、ただただ生まれた存在が消えただけでした。そこに無常を感じると共にこの場所の凄みを感じました。「売れないと駄目」なのです。それが圧倒的な物差しなのです。人の記憶には少し残るだろう。でも、それだけなのです。それ以上に何かを残す事は出来無いのです。てっぺんを、てっぺんを狙うしかない。高田は燃えていました。「唯一になる。行く所まで行く」その思いが炎となって私にも移りました。やらないと駄目だ。売れないと駄目だ。そうじゃないと何も残らない。俺達は生き残る為に表現をしている。その気持ちは不純かもしれない。でも、残らないと何も残せないんだ。

~M~

待つ日が続く。ただただ待つ。待つと言う行動は心を確実に蝕んで来る。待つと言うのは自分が介入できないからだ。与えられる世界を受け止める為に待ち続ける。

18時~19時半まで、大抵この時間に声優仕事の連絡が来る。この時間に連絡が来ないと言う事は多分同期か後輩に仕事が回っていると言う事だ。もしくは誰も何も無いか。その時間をバイト前に待ち続ける。毎日待つ。ただ待つ。発声練習や滑舌を毎日やる。テレビをつけっぱなしにして良い読み方が聞こえたら真似できるまで反復練習をやりつづける。そんな毎日が続いている。そしてバイトも続いている。高田も待つ日々が続いていた。新しいメンバー探しに難航し、声を掛けた人からの返事を待ち、断られては肩を落とす日々だった。

うまくいかない

集約すればただそれだけなのだが、一つうまくいかないと全てがうまくいかなくなり、しまいには「俺は世界に嫌われているんじゃないのか?」と考えるようになってきます。過ぎ去っていく時間、その時間の中で花開く人間も居ますし、そう言う人を見てきました。しかし、私の前の時間はただ流れているだけで何一つ作り出していないのです。ただ過ぎる時間。一秒過ぎるとそれだけ後輩が生まれます。そしてその後輩に追い立てられるようになります。その中でどんどん正常な判断が出来なくなっていって「普通にしているから駄目なの?」との思いに取り憑かれ、奇を衒った行為でより泥沼オンザ闇に吸い込まれていきます。

例えば私はとりあえず自分のバンドの映像を事務所に見せたりしました。全身から血を流しどうでも良い歌を歌う私を見た事務所の人は「あー、これはまずいですね」と言う顔をしただけだった。これはやってしまいましたなあ。焦燥感だけが大きく早くなり、高田と酒を飲みに行く回数も増えました。丁度その時、高田の知人がバーを開いたと言うので行く事にしました。酒でこの焦燥を緩和させ、そして少しでも何か違う刺激を受けて自分の中の歯車を回したいと思ったのです。

「いらっしゃい」

痩身高身長、髪が長くいかにも「バンドやってました」系の人が出迎えてくれました。そこには数人の女性が客としてやってきていました。

そこに高田からメールが来ました。おや?君は隣に居るのに何かしらん?

「横の客!!バンギャです!!プライベートな話しは勘弁してください!」

なるほど、そう言う風に気を遣わないと駄目なのか。中々難しい物だなと思いながらビールを飲んでいると隣の女性二人組から話しかけられました。

「あの…Sのマーサさんと…物販手伝ってる後藤さんですか…?」

私はS末期、物販を手伝っていました。なのでコアな人は知っている人も多かったのです。

「あ…はい…」

「私、S何度か見ました!もう…バンドしないのですか?」

「いえ、今準備しているところです」

「そうなんですか!S…解散した時ショックだったけど…嬉しいです…」

待っている人が居る。動こうとしている人がいる。しかし俺はどうなんだ。求められているのかどうかもわからない中で変な芝居をして多少の銭を貰って自分の地位に安心している。俺は彼のように動いているのか?俺はやれる事を全部やっているのか?近くに頑張る人間がいると勇気づけられると言いますがその逆もあります。彼の輝きが、人気が、行動がどうにも眩しい瞬間がありました。そう思うなら何かやればいい。一歩進めば良い。それだけなのです。しかしそれができない。到達したい部分は見えているけどもそこへの行き方がわからないのです。

ずっとこのままだったらどうしよう

私も高田も口には出しません。出したらその言葉が牙を剥いて襲いかかってきます。言葉は思うだけならリーチです。しかし口にだしたらロンなのです。口に出すと形が生まれ、その形は不安を抱えた自分自身を飲み込んでしまいます。耐える。ただただ耐える。殴られるのを耐えられるのでは無い重圧感。将来、現状、自分、周り、多くの物が一つの壁となって私をゆっくりゆっくり押しつぶそうとしてきます。それに対して声を出さず、脂汗を書きながらひたすらに耐える時間が続くのです。何にも耐え難い。この苦痛は無限に続くのではないのか?そんな事ばかり考えてしまう。不意に自分の事務所に顔を出してみると「何しに来たの?」と言う感じで相手にもしてもらえない。武器を。武器を作らねばならない。俺は26年間何をしてきたのか?武器は声優の専門学校でも作ってきた。だが、それはこの戦いの中では使えなかった。自分の敗北、失敗を認め新しい武器を作る。一から作る。意味があるのか無いのか、通用するのか通用しないのか。それはもうどうでも良い。高田も新しい武器を作ろうとしている。「ガチな人間だけでガチなことをしたいんです」そう言った。負けてられるか。俺は声優だ。バンドマンじゃない。たまにバンドマンもやるけど、生きると決めた道は違う。だから高田と張り合う必要は無い。だけど、だけどこの魂が高田に影響されている。「武器」を作る。他に無い武器を作る。毎日毎日ただただ黙々と武器を鍛え続ける。そうしている間は現実に飲み込まれなくて済む。

何と言う事だ、現実を叩きのめす為の武器を作る為に現実から目を背けて武器を鍛えている。しかし、だからどうした。都合が悪けりゃ見なくて良い。今は作る。作り上げるしかないから。夢でも現実でもどっちでも良くなる。それが集中の真髄だと思う。どんどん曖昧に、どんどんバラバラに、ただ心だけは鋭敏に。負けるか。負けてたまるか。どんな他人にも負けて良い。気にしない。同業者でもタイプがあるから負けてもそれはそれで納得できる。でも、もはや親友と言える高田には負けたくない。お互いに喧嘩なんて一度もした事がない。まだ出会って一年程だけど、お互いに気も合うし、馬鹿行為をする時はゲラゲラ笑いながら一緒に楽しむ。でも、表現と言う根っこの部分ではライバルなのだろう。

「かっこ悪い部分は見せられない」

この崇高な理念の元にバチバチやりあうしかない。笑顔で張り合い、笑顔で認め合い、笑顔で高めあう。この瞬間が永遠に続けば…そんな事は一切思わない。願わくばもう一瞬で消えてほしい。一瞬で売れて違う地平に旅立ちたい。現実問題それは無理だ。だからこそ武器を、武器を磨き鍛え上げるしかない。どれだけ辛くても歩くしかない。どれだけ目の前が見えなくても進むしかない。暗い絶望の淵で爪を噛んでいても、明日、明日飛べると信じて磨くしかない。それは誠意なのだ。誠意が、紛れも無い誠意がそこにあれば多くの邪念は戸惑いを全て押し流してくれる。奔流に身を任せて流れに飛び込む事がただ一つの誠意なのだ。偽りでも空を飛ぶ。翼が無くても、無くてもだ。

高田と仲良くする事でV系のライブを見る事が増えてきました。そしてその中に様式美と言うか何かテンプレみたいなものがあると分かってきました。そして独特の決まりも見えてきました。

「V系って一回のライブ短くない?」

「まあそうですね大体25分ですね」

「俺たちロック系は30~45分とかだなあ」

「V系じゃ主催でも無い限りそんなやんないですね」

「あと、一回のライブにバンド詰め過ぎじゃない?俺たちだったら大体4~5だけど普通に6~10とかいるじゃない」

「そうする事で違うバンド目当ての人とかが増えて結果的に箱が潤うんですよ」

「チケット代も高いって事はそれだけ箱に納める金も多いの?」

「2500円の20枚ノルマとか普通ですよ。5万、5万ですよ。冷静になるとびっくりしますよね」

「って事は1曲1万円で買ってるんだ?」

「そうなりますね…」

「客からしたら1曲500円以上か…」

「だから半端な事はできないですよ。V系って普通に高校生とか、中学生とかも見に来るんですよ。だから…絶対に手は抜けないですよ。僕たちがその年齢の時ってビックリマンチョコ買うのもためらったりしたじゃないですか」

「分かるわ。少ない小遣いを命懸けでやりくりしてた」

「お客さんも命懸けですよ。だったら僕らも命を懸けないとフェアじゃないですからね」

顔をクシャクシャにして笑いながらそう言う高田は凄く楽しそうで嬉しそうだった。責任を、全く売れていない高田でもきちんと演者としての責任を感じている。この責任が強さなのか。

「着いたよ」

「高円寺とかライブ中々見に来ないですからねえ…ハードコアパンクってどんなのなんですか?」

「今日のは凄いよ。俺がハタチの時に衝撃を受けたバンドが出る」

「すごいっすね。入口から煙草臭い。V系は禁煙の箱増えているのに」

ドアにスポンジを張り付け、全く防音になっていないドアを開けると、そこには全裸で仁王立ちしている男が居ました。私の知人、私をロックンロール魔道に引きずり込んだ張本人が

「ヴァアアアアアアアアアアア!」

叫んだ男、仮にエンペラーさんと呼びましょう。エンペラーさんはライブで最高潮になると、と言っても一曲目が始まって10秒位したらすぐに脱ぐのです。

そこからは地獄でした。大暴れする客、爆音を超えて何かわからない音が流れだすアンプ、ぴょんぴょん飛び跳ねるメンバー、後ろの方で頭の悪そうな女に手マンしているバンドマン。なんて言うか昔の高円寺の酷さったら最高でした。本当に心からロックンロールを感じられる瞬間でした。

「おらあああああああ!次の曲!!チンポ!フロムヘル!!チ!ン!ポ!チ!ン!ポ!チ!ン!ポ!チ!ン!ポ!チ!ン!ポ!」

こりゃ売れませんわ。しかし、エネルギーが、圧が、圧力が凄い。彼らはV系と対極です。箱代なんてクソ安いですし、場所によっては金をとらないライブハウスもあります。音源なんてロクにつくりません。ライブの為だけのバンドなのです。客はもう音なら何でも良いと言うテンションでびょんびょん跳ね回りダイブを続けています。

「うおおおおおおおお!次の曲!!チンポVS中国拳法!チンポ!チ!ン!ポ!!!!」

次の曲が始まりましたが前の曲との違いを見つける方が困難なレベルで同じ曲に聞こえます。彼らはそれが正しいと信じて演奏をします。唯一の正解がこれだと信じて演奏します。未来とかそう言うのもとりあえず置いといて今を爆裂させます。明日立てなくても良い。そのテンションで狂った曲を演奏し続けるのです。彼らの宗教はハードコアパンク、その中でもガチな信者には叩かれるおもしろハードコアパンク界隈の人でした。もはやアナーキスト。演歌みたいな曲もやればのたうちまわるグラインドコアもやる。全裸で。プラリとイチモツぶら下げながら。客がコロナの瓶を床に落として割れてしまいました。エンペラーさんは待ってましたとばかりにそこに飛び込む。もちろん全身血みどろになります。客は一段と燃え上がります。演奏も一段とヒートアップします。ふと横を見ると高田が笑顔のままで、引きつった笑顔のままで固まっていました。

「どうだった?」

「何と言うか…全く別のカルチャーですね。宗派が違うと言うか…」

ケラケラと笑いながらビールを飲む高田は楽しそうだった。新しいバンドを組むために同じ教義の人間を探していると心がダウナーインザ地面になるので連れ出してみたのですが良い感じで影響を受けてくれたみたいでした。やりたい事をやる。そんな動物的な根源的な思いを胸に感じていました。

「本当に楽しそうですよね。でも自分だけが楽しんでいるんじゃなくて観客も楽しんでいる。観客があんなにも動いたりしてるって凄くいい」

「そう言えばV系の客って決められた動きしているよね。あればバンドが煽ってるの?」

「そういうバンドもありますが…なんて言うか…客同士の決まりがあるのか…どこからどう発生したのかわからないんですけど、フリって言うのがあって、色々と決まっているみたいですよ」

「フリ?フリとは」

「振り付けですね。もう少し色んなバンド見れば分かると思いますけど…良いか悪いかは別として、ある種の決まりがあるノリ方なのでこんな自由なのに慣れてたらびっくりしそうですね」

「だよねえ。正直びっくりした。でも、それって新しいファンの人とか入りにくいんじゃないの?フリがあるからわかんないとファンになりにくいと言うか…良くても前の方に行けないだろうし…」

「うちのバンドは居ないですけど、仕切りって言うバンギャが居て、ファンになって良いかその仕切りが決めるバンドもありますよ」

「狂っとるやないか」

「僕はまあ…うーん、そういう場所ですし何とも言わないですが…実際に仕切り禁止!ってホームページに書いてるバンドも多いですよ」

「アイドルのファンと似てるね。いや、違うかもしれないけど」

「………分かります。結局…そういう見方なんでしょうね。こっちも見た目で売っている部分があるから何とも言えないですが…」

多分、多分ですが、バンギャの元はアイドルファンだと思います。男性アイドルファン。男性アイドルファンと言う原始宗教が生まれ、そこからアイドルの要素を持ったバンドが生まれ、そこからアイドル寄りのバンドになった物がV系バンドなのではないでしょうか?違う!と言われても見た目を売りにしていて、写真を売ったりする部分を見ていると「同じやんけ!」と言う気持ちが生まれます。良い面は勿論あります。凄くアイドル、V系のファンは本当にマジで自分の生活を犠牲にして追いかけてくれます。宗教に懸ける思いが違う。お布施もしますし遠くまで巡礼に出かけたりします。そしてその宗教、教義に対して心から忠を尽くし、愛情を注ぎに注いでくれます。だからこそ高田は、分かっているからこそ高田やちゃんとしてるサイドのV系バンドマンは気合いとど根性で応えるのでしょう。

「お疲れ後藤ちゃ~ん!飲んでる!?君が高田君か!後藤ちゃんから聞いてるよ!かっこいいなー!羨ましいね!」

「エンペラーさんお疲れ様です。非常に良かったです。怪我は大丈夫ですか?」

「大丈夫大丈夫!酒飲んだら治るから!今日めちゃくちゃ良いイベントでしょ~!?基本全裸だし、基本火を吹くしね~!高田君、俺達みたいなのあんま見ないでしょ!?影響されちゃ駄目だよ!」

「いえいえ!勉強になりました!なんて言うか…本当に楽しんでライブしてるって言うが伝わってきて…凄い良かったです!」

「本当!?うちらから勉強できる事なんてライブハウス出禁になるかならないかのギリギリの行為だけだよ!でもやっぱり楽しいね。ライブは楽しい。V系の連れも結構いるけど、あっちは窮屈な部分多いでしょ~。辛かったらいつでもこっちの世界に来て良いよ!」

「機会がありましたら是非!」

「後藤ちゃんも全裸にならないと駄目だよ!?お客さん、満足してくれてるの!?」

「うちのバンドは全裸はクビなので…でも、エンペラーさんはいつ服を着るんですか?」

「帰る時には着るよ!また遊びにきてね~!」

そう言って多分見せびらかしたいのだろう結構大きな陰茎をぶらつかせてエンペラーさんはファンの女の子の方に向かっていきました。談笑しながら陰嚢を触らせたり、難しそうな顔をして乳を触ったりしているエンペラーさんはもうなんだか極まってるなあと思いました。

「パンクとかの人ってファンとヤるんですか?」

「どうだろうなあ。うちはやらないけど、打ち上げとかやると大抵どこかのファンの人が混ざっている事が多いなあ。家族的な感じで来るならきなよ!って感じだな」

「なんかいい距離感ですね」

「でもセックスはやっとるな。ドリンクバー感覚で。でも、それを悪とする風習も無いし、ファンと結婚とか結構普通にしてるしねえ」

「やっとるんですね」

「そりゃやりまっせ」

格調高いクラシックの世界からミュージシャンはファンとセックスをやり続けてきたのです。パトロンが居たり谷町が居たりするのです。「ファンとアレコレなんて駄目!」と言うのは音楽に対しての、音楽家の歴史に対しての侮辱にほかなりません。それかてめえがブサイクだからやれなかった僻みやろが!って感じですね。私?僻んでますよそりゃあ。

しかしどうしてファンはバンドマンとのセックスを求めるのか?本当に好きだからなのか?古今東西あらゆるバンドマンがセックスをします。古今東西あらゆるバンドのファンがバンドマンを狙います。そこに何か理由はあるのでしょうか?あると思います。好きと言う気持ちはもちろん前提です。しかし、男のファンが女バンドやアイドルとセックスをするよりも女性ファンが男性バンドやアイドルとセックスする方が劇的に多いです。それはどうしてか?女性ファンは結束が強く、信者同士で小規模な派閥が生まれ、そして一つの信仰対象に対して祈りを捧げ続けます。そして人が二人以上集まれば序列が生まれ、上下が生まれます。悲しいがそれは宿命なのです。しかし、それを回避する為に「ズッ友だにょ!」と派閥を作り、「派閥の中では平等ずらよ」とやるのでしょう。だが、ほかの派閥よりもっともっと好き好きアピールをしたい。大抵の人はここでファン活動を頑張ったり、「まあでもよそはよそやしねえ」と冷静になったりします。

しかし居るのです。テロリストが。「手段を選ぶな。一位となれ」と狂うテロリストが。狂気の殉教者が。そういう人はもう自分の体や、不美人ならばマネーを惜しげなくばらまく事でバンドマンと一発コーマンぶちかまして「そんな事言ってもわしゃコイツとセックスやっとるからなあ!」と魂が上の立場であると間違えた方向で信じて壊れていくのです。こんなのはどこにでもありますよ。ツイキャスとかニコ生の姫とセックスをしてから普通に配信をみて「囲いワロタwwボキは姫とおセックスをハメックスでパコパコニャーン☆ですのでww爆笑!!!!」と言う感じで、ただセックスしただけなのに周りの人間より上と感じる人間が多いのです。

それが情報網の発達と、女性特有の「秘密なのに言う」スキルをフルブーストさせる世界で多くの不幸が産み落とされていくのです。これがバレるとバンギャはネットで叩かれたり実際に顔面を張られたりする事があると聞きました。神の言葉を伝える預言者を誘惑したふしだらな人間として多くの信徒から投石をドッカンドッカンされて血みどろなるのです。魂の安寧を作る為に茨の道にその足で向かう。崇高な思いも純粋な好意もあるでしょう。しかし、たどり着いた場所には行為によって作られた仮初の優越感と何時後ろから刺されるかわからない恐怖しかないのです。

その点ロックやパンクやハードコアは寛容です。「私も○○さんとHしたからいっちゃいなよ~!すぐ出来るよ~!」とフリーセックスリアルアバ。アバは違うか、昔そう言われていた事もありましたね。ママレードボーイレベルにただれた関係があります。打ち上げでファンと消えていった先輩方を何人も見てきました。

しかしV系はアイドルとしての側面が強い。それをウリにして、そう言う売り方をしているバンドもいるからです。メチャクチャ硬派なV系の人ももちろん居ます。しかし硬派なV系は中々売れない。やはりある程度のテンプレと決められたレールが無かったらV系信徒は巡礼に向かいにくいのです。ある程度の巡礼ルートを整えてしまったら、辿り着く場所がどれだけ過酷でも付いて来てくれます。しかし、自分の考えと自分の足だけで歩くには若干時間がかかってしまう人が多いと感じます。

音楽と言う神が居て、宗派が細かく別れ、多くの預言者が居る。なぜこうなったのか?多分ですが、信徒が求める「都合よく欲しい形」を作る為に預言者サイドが工夫したからでしょう。より売れる為、多様性を求める為、そう言う事を考えて工夫していった結果今の状態になったと思います。音楽、いや、趣向とは宗教です。だからこそ面白い。だからこそ、関わる人間全員が命を懸ける価値があるのです。

~2~へ続く

https://note.mu/gotoofthedead/n/nd5c703f53763

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プロフェッツ

預言者は歌う。背教者は叫ぶ。信者は踊る。世界は喜びに満ちている。
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