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音楽と炭鉱にまつわる「中心と周辺」

GOTTON NIGHT開催にあたって–– Soul Matters 島晃一、JINI インタビュー
聞き手: 新中野製作所

2019年5月25日公開のドキュメンタリー映画「作兵衛さんと日本を掘る」のPRとして5月18日、ゲストに「民謡クルセイダーズ」を迎えて開催される、「炭鉱をフィーチャーするパーティー」GOTTON NIGHT。
2019年3月、開催当日DJを担当するSoul Mattersから主宰の島晃一氏とクルーのJINI氏にインタビューを行った。
映画「作兵衛さんと日本を掘る」は筑豊地域の炭鉱労働を元炭鉱夫にして画家・山本作兵衛の作品と彼を知る人々、そして福島・いわきへの取材を通じて掘り下げ、現在へと続くエネルギー産業の状況を語る、制作期間8年にも及ぶ大作。若い世代にこそ触れてもらいたい作品だ。
福島県いわき市出身の島晃一氏は、現在DJ・音楽ライターとして活動し、映画評論も行う。熊本出身のSoul Mattersクルー・JINIも交え、マルチな視点から映画本編・DJ・エネルギー政策に通底する「中央と周辺」という課題を導き出した本インタビュー。
いよいよ開催直前、GOTTON NIGHTにおけるステイトメントとも言える内容を、ぜひご一読ください。

プロフィール
島晃一(Soul Matters / CHAMP)
福島県いわき市出身、Soul Matters、CHAMPでのDJとしての活動に加え音楽ライター、映画評論など活動は多岐にわたる。diskunion ラテン部門主催のトークイベントに登壇するなど近年さらに活動の幅を広げている。

JINI (Soul Matters)
熊本県出身のSoul Mattersクルー。パワフルなディスコとハウスを基軸に、レアグルーヴやジャズ、テクノなどを織り交ぜ、高揚感のあるプレイがトレードマーク。

安倍大智・渡辺敬(新中野製作所
デザインプロジェクト新中野製作所のメンバー。安倍はインフォグラフィクスやデジタルファブリケーション担当。フランス生まれバーレーン育ちの渡辺は作曲・演奏・音響操作など音楽部門を担当している。

「炭鉱をポジティブには捉えられないですね」

新中野製作所・安倍(以下安倍)
まず映画をまだ観ていないJINI君は、炭鉱についてどういうイメージがありますか?
GOTTON NIGHTでは炭鉱に対してゼロイメージの人たちに炭鉱に興味を持ってもらえたらと思っています。「炭鉱バイブス高い!」など何かしらのイメージを。

JINI
はっきり言って何も知らないんですけど、イメージは大きく2つあります。
今回の映画の炭鉱って福岡ですよね?僕熊本出身なので、三池炭鉱で栄えた地域だとはよく聞いていて。「炭鉱を世界遺産に登録しよう」という動きもあったので、1つは「昔は炭鉱が栄えていて、今はあんまり無いんだな」という程度の認識です。
あとはイギリスで子どもたちが炭鉱労働をさせられたというのは知っています。

(※2015年に「明治日本の産業革命遺産 製鉄・製鋼、造船、石炭産業」がUNESCOの世界遺産に登録)


安倍
日本では東京でしか暮らしたことのない安倍・渡辺と比べると、炭鉱を知ってる人ですね。

JINI
学校教育でも勉強したんですが東京ではしないんですか?

安倍
するかもしれないけど記憶にはないですね。映画を見るまで全然知らなかった。

JINI
地元の近くに炭鉱がある人は小さいころ勉強するってことですね。
とはいえ炭鉱に行ったことはないし、具体的なイメージというわけではないです。

安倍
島さんはどうですか?

島晃一(以下、島)
僕とJINIくんの共通点は炭鉱のあった地方の出身だっていうことですよね。
僕も福島県のいわき市に住んでたことがあって、この映画には内郷が出てくるんですよね。常磐炭田のおじいさんが出てきます。

安倍
「みろく沢炭砿資料館」の渡辺為雄さんですね。


僕は小学校から中学校までいわき市の海沿いの地域にいて、「いわき市石炭 化石館 ほるる」に見学に行ったことはあります。炭鉱の実物は見てないですけど、知ってはいる。
東京の2人が全く知らなくて、炭鉱に近い地域出身の2人はなんとなく知っているっていうのは、東京ではないところにエネルギーの負担を押し付けているっていうことを象徴している気がします。奇しくもこのメンバーが揃って面白いですね。

安倍
東京の人たちが知らなくて当然の状況があるんですね。


見えないようにしてるってことです。

新中野製作所・渡辺(以下、渡辺)
炭鉱地域は差別的な扱いを受けていたというのもそうですが、マイナスイメージが大きいのかなと思います。

JINI
なんとなくですけどね。
炭鉱があったということは事実として社会の時間に習ったりしましたが、そこが差別を受けていたとかの話は語られていなかったです。
特に熊本は「八幡製鐵所があった」という話の中で、製鉄所には石炭と鉄鉱石が必要だった、という風に多く出てくる。そういう歴史の話がメインだから、なかなか個人の話にはならないです。
それに悲惨なものとしての教育は水俣病とハンセン病に集約されてましたね。炭鉱はそこまで語られなかったです。


さっき言った「石炭 化石館」についても本当なんとなくですよ。小学校の遠足コースで、「Jヴィレッジ」とセットで回るような感じです。その流れで原発の仕組みを見に行ったりもしたんですよ。

安倍
「すばらしい原子力」みたいなやつですか?


そういうことです。それで原発事故が起こった時、石炭化石館のこととかも思い出して、冗談じゃなかったなと今は受け止められるようにはなりましたね。
東京が地方にエネルギーの負担を押し付けていたことの名残なんだよな、と。
「バイブス」とか言ってたのにすごいネガティブに……。
でも、自分がこういう炭鉱の映画に関わるとしたら絶対に言わなくちゃいけない。だからあんまり、ポジティブには捉えられないですね。
僕は、炭鉱にポジティブなイメージを持って欲しいっていうのではなくて、やっぱりこの映画を観て、労働と差別の歴史があったってことを知ってもらえたらいいですね。

安倍
最終的にはそうなってほしいですね。GOTTON NIGHTを通じて炭鉱そのものに興味を持ってもらって、その先に映画がある、という状況にしたいです。

「中心と周辺」を考えさせてくれる映画


映画については、大変な作品だなと思いました。6年かかったんですよね?

安倍
あれ実は8年だったらしいですよ(笑)
6年って言ってたんだけど、よくよく数えたら8年だ!って。


8年なんだ(笑)
映画の内容としては、作兵衛さんの絵自体がすごくドキュメンタリー的なので難しいなと思いました。絵自体が記録だから。
しかも一枚の絵の力強さがすごくある。絵の人物の表情が豊かで、ほんとにドキュメンタリー映画を見ているような感覚に、この絵を見ることでなるんです。だからそれをカメラで追いかけるのは逆に難しいなという感じがしました。

安倍
すでにドキュメンタリー的なものをドキュメンタリーとして追いかけるという……。


そうそう。絵自体に炭鉱労働者の豊かな視線が描かれていて、絵の視線をカメラが追ってくというのが、この映画のすごく面白い点だと思います。

安倍
この映画は実は作兵衛さんの映画ではなくて、作兵衛さんを切り口の1つとして使った映画ですよね。


もう「中心と周辺」という言葉は震災以後、逆に使われなくなっていますが、そういうことをちゃんと分からせてくれる映画でした。都心、中央に供給するエネルギーを地方の厳しい労働によってまかなっている。皮肉にも原発事故の後に、作兵衛さんがユネスコの「世界記録遺産」になった。映画の冒頭ではそのことに触れていますが、炭鉱から原発まで、中心と周辺の構造はずっと変わらないわけですよね。
そうした周辺に置かれた労働者のつらさとか、つらい中で、でもエネルギッシュになるしかないということも含めて、当時働いていた人がいなくなる前に、なんとか残そうという意志が感じられてすごくよかったです。

あとやっぱり、菊畑茂久馬さんのシーンがすごくよかったです。
日本のコンセプチュアルアートの第一人者ですよね。作兵衛さんの力のある絵に圧倒されて描けなくなってしまうんですよね。

安倍
20年描けなくなったそうです。


20年長いですよね。
しゃべっている時の菊畑さんも作兵衛さんの絵についての、言葉にできなさ、表現できなさになんとか立ち向かおうと苦労しているという様子がすごくわかりました。
3.11の後、「イメージ福島」という映画の上映イベントに参加したんですが、震災直後のドキュメンタリーって、「この悲劇の前で自分たちが語るものはない」というような映画が結構あって、それと似たようなものを菊畑さんには感じました。「どう表現していいのか分からない」という苦闘の様子が伝わって、それがすごくいいなって思いましたね。

芸術作品として残ることで見え方が変わる

JINI
僕は映画見てないんですが、話を聞いている限り、単純に労働っていうだけじゃなくて、被差別的だったってことは重労働、そして、対価が見合わないということなのかなってことはだいたいわかりました。
もう1つは芸術作品としてモノが残っているということは大きいなと思いました。僕が知らないだけかもしれないけど、水俣って作品としてというよりは、水銀中毒になって暴れる猫の映像とか、芸術作品というよりは記録映像として残っているものが多いんですよね。

安倍
それに対して、筑豊の炭鉱は作兵衛さんの絵が作品として残っているという違いがありますね。

JINI
大変だったということだけで終わらず、残すぞっていうエネルギーとして残っているっていうのは、見え方が違うのかなって思います。
人がむしろ生き生きしてるっていうか、生身の人間がいるんだなという感情が、こういう絵を見ると出てきます。
ただただショッキングで、悲惨でしたっていうだけの記録より、一歩踏み込めるかなって僕は思います。


ちなみに水俣病は『阿賀に生きる』(1992)っていう傑作ドキュメンタリーがありますね。佐藤真監督っていう方の映画で、新潟水俣病についてですけど、日本ドキュメンタリーの金字塔のような作品があります。

「東京」 対「地方」 対 「地方の周辺」


炭鉱労働って、労働というか重労働で、言っちゃうと底辺労働なわけです。
底辺労働には差別が必ずあって、底辺労働を差別とともに、ある地域に押し込めるわけですよね。
小学校の見学コースでは、そういう差別的な部分って見えなくされていたよなと思います。小学校の時じゃわかんないっていうのもあるし...…。そういう記念館的な施設って真に迫ってこないですよね。
底辺労働は今で言ったら原発労働者になっているし、もしかしたらコンビニの労働者かもしれないし、深夜労働などはスティグマ化(劣等視)されてしまうものではあると思います。ドキュメンタリーの意義ってそれが身近に感じられることですね。

JINI
水俣の場合、被差別的な立場っていうのは、地域じゃなくて病気によってもたられますね。


まあでも水俣病って、東京では起こらないですよね。やっぱりそういうのは地方になってしまう。
東京をどんどんディスってくみたいになってきた...…(笑)
でも東京はそうなんですよね。この映画見てそう思わなかったらおかしいです。
地方に負担を押し付けるっていうのは戦前からずっと続いていて、今後もエネルギーの形を変えて残っていくと思います。
『東京原発』(2004)っていう劇映画もありますよ。東京に原発を作ってみたらという想定をする映画です。

JINI
東京 対 地方もそうだけど、地方 対「地方の周辺」も感じざるを得ない。僕ら(JINI、島)も「東京ではない」という立場で喋っていますが、僕らの住んでいた地域の人たちも、まさに炭鉱があった地域の人たちからすると中央の人間ですよね。
そうなると中央の人たちは「私たちが差別をしてました」っていうことになってしまうから、なかなか学校では語らないんじゃないですかね。あるいは、「望んで炭鉱夫という職に就いた」というようなニュアンスになったり。


その場合「なんで働いてたんだろう」という経緯までは興味が行かないですよね。
でも完全な自由意志で働いていた訳ではないでしょうっていうことです。

JINI
その選択をするまでには色々なパワーが働いているんですよね。

GOTTON NIGHTでの選曲

安倍
話題を変えて、GOTTON NIGHTでの選曲についてお聞きしたいです。
いつもSoul Mattersの各クルー間で、共通のテーマって設けているんですか?


いつもはあんまり決めてないです。なんとなくそれぞれが興味持ってることはSNSなどを通じてわかるからその流れに合わせて、タイムテーブルを作ってく感じですね。

JINI
かなり読み合う感じでやってます。

渡辺
GOTTON NIGHTに向けては普段のSoul Mattersと比べて、何か打ち合わせたりしますか?


それはすることになると思います。
僕は演歌っぽく聴こえたり民謡っぽく聴こえるアフロファンクとかアフロビートとかをアンテナはってくようにはしています。

渡辺
それがアフリカっていうのは何か理由があるんですか?


いや、単純に似てるからです。
そこがDJの難しいところですよね。そこに意味を過度に持たせても、ちょっと嘘くさくなるので。
映画の編集みたいな感じで似てるところをつなげていくという感じです。

JINI
「辺境音楽」って捉えると、民謡みたいな中央じゃない音楽は今っぽいです。
「辺境音楽」っていうのはさっきの映画の話に合わせると、中央じゃない地方の音楽を探していこうという動きです。レアグルーヴってなんだかんだ言ってアメリカのレコードがメインなんですが、それがさらに外側に、キューバとかタイに行ったりする流れです。


そうですね、周辺のものに今すごい光が当たりやすくなっていると感じています。例えば、僕がよくかけるファンクミュージックだと、昨年はアフロやラテンの要素が強いファンクの新譜がたくさん出て、それらをたくさん買っていました。また、最近だと、海外のレーベルが日本のジャズやディスコ・ブギーのコンピが出したり、再発が出すという動きが目立っています。
とにかく「どこかから見て」周辺・辺境なものを掘り尽くそうという意思をすごく感じますね。
それに、UKジャズの新譜の場合はアフロビートの要素が入っていたり、アフリカ系移民の子孫がやっていたりするし、これまでとはまた違った仕方で周辺の音楽にスポットが当たっているなと思います。
中央から見た周辺っていう一方的な関係ではない形で混ざり合ったりしながら、周辺の音楽の要素に光が当たってる感じはすごくします。

「UKジャズ」:主に英国サウスロンドン出身のアーティストが形成するジャズシーン。様々なメディアでフィーチャーされ、国家的にもプッシュされている。

JINI
今2人(安倍・渡辺)が聴いているのが、カリブに行って新しい音楽を探そうっていう新しい試みをしているジャイルス・ピーターソンっていうDJのコンピレーションアルバムですね。

渡辺
周辺の音楽に手を広げるのって、音楽が変わる瞬間には必ずあった流れのような気がします。


サルサとかもハイブリッドですし、その時と同じと言ってしまうこともできるんですが、今は今で、光の当たり方がちょっと変わってますよっていう感じですね。そして今回のゲスト、民謡クルセイダーズは、日本の民謡とラテン音楽という、まさに新たな混ぜ方を提示したバンドですよね。

JINI
新しいことをやろうと思った時に、何か混ぜ込みをしないとっていうのはあります。

渡辺
身の回りだけでは足りないっていうことですね。

JINI
ロックとジャズがアメリカに渡ってきた移民の音楽だっていう話と似ていて、やっぱりミクスチャーで作っていかないと新しいものができないのかもしれません。それを今どこに求めるかってなった時に「辺境」という言い方がフィーチャーされている。日本語だとどうしても「辺境」っていう表現になってしまいますね。

渡辺
そもそも「辺境音楽」っていう言葉は使われてますか?


今はあんまり使わないかな。僕自身も使いたくないですね。
もうあっという間に世界中どこでも行けて、やりとりできてしまうので、そういう意味での中心と周辺というのはもう無いっていう見方もできますよね。
ただ、作兵衛さんの映画についてはそれを言ってしまうと、すごくまずいんです。中央と周辺が無いと言ってしまうと、「エネルギー労働は絶対あるじゃないか」ってなってしまう。音楽でも同じことは起こるけれど、辺境って言葉は音楽ではなかなか使えないですね。

安倍
エネルギーと音楽とで、「中央と周辺」についての立場が変わってくるんですね。

JINI
周辺というくくりでは雑な気もしますね。


「周辺」とザックリ言っても、混ざっていますからね。
「IFE」というプエルトリコのグループがいるんですが、リーダーはアフリカ系のアメリカ人で、プエルトリコに移住して、改宗して、現地の儀式性の強い音楽を電子化するっていうやり方をしてるから、すごく混ざっていますよ。
人の移動が複雑化してるし、なかなか「一方通行ではなくなってる」という感じですね。むしろ、その複雑さを見ていくのが面白い。

安倍
「ワールドミュージック」というと、一方通行な感じがしますね。

JINI
それが「辺境」っていう言葉が持つ一方通行性なんでしょうね。


ワールドミュージックって何なんだろうという議論は結構され続けていると思いますし、僕もワールドミュージックという言葉は使わなくなってきています。

今、音楽に「中心と周辺」はない?ある?


先ほども触れましたが、映画『作兵衛さんと日本を掘る』には「中心と周辺」という大きなテーマがあるなって思いました。僕とJINI君も、福島と熊本出身だという事もあって、その問題はすごくシリアスに考えなくてはならないです。
でも今、中心と周辺の構造という話がなかなか語られにくくなっている気がして、それには色々な理由があると思います。
「とにかく行動せよ!」という状況では、構造の話は語りにくくなっているのかもしれないです。
それに対してこの映画は、筑豊といわきを接続することで中心と周辺の構造に触れているので、そこを考えざるを得ないんですよね。

それで、それを音楽について言うと、今や中心と周辺というのはあまりないような気がしているんですよね。すごくコミュニケーションの速度が速くなっているし、いろんな交流を経て混ざり合っているので。
でも、このイベントは本当にそうかな?っていうことを考えるきっかけになるといいですね。普段のSoul Mattersでよくかかる音楽はディスコやファンク、ハウスで、ジャズもちょっとという、アメリカど真ん中なんですよね。NYディスコが一番多くかかりますし。
でも、今回のGOTTON NIGHTは、いつものSoul Mattersの都市っぽい印象のパーティーにしてはいけないなと思いました。そのためには他の地域から持ってくる必要があるなと思っています。ラテンやアフロ、民謡っぽいものとか、「普段の自分たちからすると周辺」の音楽を混ぜ込んで、見える形で変えていかないと、今回のイベントの趣旨としては合わないかなと思うんです。

JINI
いつもそんなにミーティングはしていないものの、そこは僕も察していたし、そういう風なパーティーにはなると思います。GOTTON NIGHTはSoul Mattersとしての「次に何をするんだ」ということが明確になるためのキーになると思います。我々としてはそれやらないと面白くないっていうのもありますよね。


そうだね。なんのためにやるのかとなってしまう。

JINI
「中心と周辺」って島さんはあんまり無いって言ってましたけど僕は音楽でも結構あると思っています。

渡辺
むしろコミュニケーションが加速したからこそ、中心の周辺に対する音楽的搾取が一層増したんじゃないでしょうか。


うーん、そうかもしれない。例えば、「ジャイルス・ピーターソンが発掘した」ということを厳密に政治的に見てったら、まあ問題があるってなってしまいますよね。それがジャイルスピーターソンの功績になってしまいますから。

JINI
本当は地元の人たちがやっているのにということですね。
そこの政治性は絶対ある。あると理解しつつ、じゃあどう動くんだろうという話になりますね。


厳密に見てしまうと、中心と周辺は常に変化していて、それが問題にならない場所っていうのはないと思っています。
ただ建前としては、今はワールドミュージックという言葉自体が差別的だなという見方もあるし、辺境とか周辺という表現はなかなか使えません。

JINI
重層化しすぎてわけがわからなくなっています。明確な二分では無いから語りづらくなっているというだけで、そこは小さい力関係の重なりがすごくあります。でもそれは音楽やってく上で前提として感じる部分でもある。
やっぱり今のシーンでメジャーな、いわば中心の曲ばっかりやっていても面白くないっていうのは明確にありますね。
すごく雑になりますが、作兵衛さんの映画の中の話も、DJすることも、「中心と周辺」というポイントで似たようなところがあります。
その辺りも考えながら選曲をすることになるんだろうなって思います。


もちろん、DJとして、そういった地域の音楽を「掘り尽くしてやろう」という意思は根っこにあります。
ただそれは引いた目で見ると、発掘してしまうこと自体の政治的な問題があるかもしれない。

JINI
そもそも、人の音楽をかけるってこと自体が...…。


そうそう、ある地域の音楽をかけるってこと自体が、そもそも政治の問題と関わらざるを得ません。
それは政治的な曲をかけるとかそういう次元の話ではなく、政治的な歌詞の曲をかければいいとかいう話でもないんです。
かけるってこと自体に複雑な力学が生じますよね。

JINI
そこの意味を考えずにはできないっていうのはありますね。


ただ、考えちゃうと、さっき言ったみたいに今度は行動とか運動ができなくなってしまうんですよね。
発掘することの政治性とか後ろめたさを考えていたら、DJなんてできないですよ。
これはさっき言ってたことと矛盾するようで繋がることですね。
DJをやる場合はこちらが運動側というか、それは複雑さがありますね。
普段はそんなに意識しないですけど、映画を介すことでそういう事も意識しするようになります。
それを感じつつかけるというのはあまり無い機会です。

JINI
実践として音楽をやっていく。とは言え全く考えてない訳では無いんです。

GOTTON NIGHTへの意気込み


Soul Mattersでは、ニューヨークのディスコなどを多くかけてきましたが、最近ではアフロビートやラテン音楽など、これまでの自分たちにとって「周辺の音楽」に目を向けつつあります。
昨年から今年にかけて僕はラテンの仕事やDJが増えてきたし、メンバーのkurozumiは、アフロビートを取り入れたUKジャズの新譜を、国内でもトップクラスに多くかけています。
メンバー各々がこれまで選曲してきた音楽と違うところにアプローチしている段階にあるんです。
この、「周辺」に目を向け始めたSoul Mattersの流れが、GOTTON NIGHTのコンセプトとうまく噛み合うのではないかと感じています。
これまでもSoul Mattersに来てくれている人には新しい側面を感じて欲しいし、初めて来てくれる人も踊れて楽しめるものにしたいです。

そしてライブの民謡クルセイダーズは、民謡とラテン音楽を掛け合わせる、音楽の新たなハイブリッドのあり方を体現して、国内外で話題になっているバンドです! このタイミングで絶対に聞いてほしいです!

渡辺
真面目な話をしましたが、純粋に楽しんでもらいたいですね!GOTTON NIGHT!
ありがとうございました!

映画について
熊谷博子監督作品 映画『作兵衛さんと日本を掘る』
公式サイト (https://www.sakubeisan.com)
2019年5月25日(土)ポレポレ東中野ほか全国順次ロードショー。炭鉱画家・山本作兵衛と彼を知る人々の証言を通じて、この国の過去と現在と未来を掘る!ゴットン!

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