アメリカに着物着て行ったらカラテマスター扱いされた話

表題の時点で完全にネタバレなんですが、個人的な理由で、ラスベガスで開かれた re:Invent 2014 への出張(5泊)で、機内も含めて、出発から帰宅までずっと着物で過ごすチャレンジをしました。和服で海外旅行しようと思っている男性の方の参考になればと思い、まとめておきます。

チャレンジのルール

洋服は着ない、持っていかない。至ってシンプルです。

準備した装備

ラスベガスでの滞在期間は 11月10日から11月16日の6日間の予定でした。時差や機中泊を除いて考えると、5泊分の和服を用意する必要がありました。

考えぬいた結果、持っていった装備は以下の通りです。

【着て行った】
・大島紬長着
・角帯
・ウール襦袢
・自作麻肌襦袢
・ステテコ
・レッグウォーマー
・足袋
・襟巻き
・スポンジ底雪駄

【持って行った】
・麻襦袢 x 2
・大島紬風の正絹紬袷長着+羽織
・正絹お召袷長着
・足袋 x 5
・自作麻肌襦袢
・ステテコ x 2
・角帯 x 2
・きものハンガー x 2

僕は着物でre:Invent を目標に9月から着物を着始めた超初心者で、持っている着物は貰い物や、フリマ・ヤフオク・古着屋等で総額3万円ぐらいで買い集めたものです。そんなに潤沢な選択肢はありません。また、スーツケースを持っていかず、風呂敷で行くことに決めていたので、荷物は必要最低限にまとめたいところです(風呂敷でラスベガスについては別記事にまとめています)。

ネットでの情報によると、ラスベガスの11月の平均気温は10度〜19度ぐらい。日本の11月と同じぐらいの感じです。これだけ見ると日本と同じ格好をすれば良さそうに思えるのですが、ラスベガスは砂漠気候で気温の変動が激しく、11月の各日の記録を見てみると、27度ぐらいに気温が上がる日もあるようでした。

二ヶ月間着物を着てみて、寒いことよりも暑いことの方がずっと辛いと感じていました。re:Invent はホテル内のみで開催されるイベントのため、冷房が効いていることが期待できたのですが、それでも暑いのはとにかく嫌なので、着流し(=羽織や袴をつけないスタイル)を基本スタイルに据えました。

着流しは、洋服でいうと(多分)ポロシャツジーパンスニーカーくらいに相当するカジュアルなスタイルです。

着流しで出張は深く考えると変なのですが、re:Invent はそもそも参加者がTシャツ短パンで参加するような技術者向けのイベントなので、気にしないことにしました。

一応、もしちょっと素敵なお店に行くようなシチュエーションがあったら改まった気分になれるよう、ジャケット姿に相当する長着+羽織も持っていきました(実際レストランに行くときに着る機会があり、持って行ってよかった)。

一方、あまり涼しい格好で行ってしまうと、今度は飛行機の中や、行き帰りの道中で寒いので、袷(=裏地のある)長着を基本に、道中では足や首をえり巻き・レッグウォーマーで保護することにしました。もし暑かったら取ればいいのです。

襦袢はウール(モスリン)と麻を両方持っていき、日中熱くなる可能性がある現地では麻を、寒くなる可能性のある移動中はウールを着ることにしました。ウール襦袢も麻襦袢も、部屋干しで一晩で乾くことを経験上知っていたので、部屋洗濯することとし、非常に乾きにくい足袋だけは日数分持って行きました。

出発

出発の日、11月10日は羽織無しでは少し肌寒い気候だったので、首には襟巻きを、足には黒いレッグウォーマーを巻きました。レッグウォーマーは男がしたらキモいかと思ったのですが、実際にやってみると、江戸時代の旅行装備「脚絆」のような感じにも見えなくも無く、脳内で「西洋脚絆」と言い換えるようにしたら意外と違和感がありませんでした。また、肩から背中を覆う風呂敷には意外と防寒効果がありました。

飛行機の中は北海道かと思うぐらいクソ寒かったのですが、西洋脚絆と襟巻きと毛布に守られ、事無きを得ました。

入国そして武闘家扱い

飛行機がロスに着陸すると、入国審査が待ち構えていました。こちらは、危険思想を持っているといわれても納得せざるを得ない怪しい出でたち。怖い人に別室に連れて行かれていろいろ問いただされるのではないか、とビクビクしていると、私が呼ばれ、審査官の前に進みました。すると……

"What do you do?"
職業は?

来ました。これはきっと、怪しまれているんだ……!別室に連れて行かれるフラグ立った!しどろもどろしていると、続けて問われました。

"Are you a karate master or something?"
あなたはカラテマスターか何かか?

(俺はカラテマスターか何かなのか……?)0.1秒ぐらい自問した後、ノー・アイム・ア・コンピューター・エンジニア、と答えると、通してくれました。

私が着ていたのは写真にあるような、紺色の大島紬です。町人には見えてもカラテマスターに見えるはずがありません。ジョークなのか。これがアメリカン・ジョークなのか。そう不思議に思いながら、トランジットのラスベガス行きの飛行機を待っていると、今度は隣に座っていた白髪のおじいさんに話しかけられました。

"Excuse me, are you the marshal arts champion?
...because I noticed your black belt"
失礼ですが、
あなたはマーシャルアーツのチャンピオンですか?
その、黒帯が目に入ったもので

(俺はマーシャルアーツのチャンピオンなのか……?)0.01秒ぐらい自問した後、ノー・アイム・ジャスト・ウエアリング・ジス・アズ・ア・ホビー、と答えると、気まずそうに去って行きました。

なんか申し訳ないことをした気分になりました。イエス(黙って腕組み)が模範解答だったのではないかと。

ちなみに帯は茶色に黒の一本線が入った帯で、黒帯ではありませんでした(笑)そして僕はめっちゃひ弱でひょろいタイプで、決してケンとかリュウみたいな体つきじゃありません。

その後も、親切に道を教えてくれたおじさんに別れ際に

ケンドー?カラティ?

と声を掛けられる武闘家扱いがありましたので、紺色の着物を着ていると一定の確率で武闘家に見えることは間違い無いと結論づけて良いと思います(もしかすると入国直後の緊張で、険しい顔をしていたせいかもしれませんが……)。

風呂敷の中には紺と黒の着物しかありませんでしたが、時すでに遅し。黒を着るともっとカラテマスターっぽくなるなあ、と思いつつ、これで暴漢に襲われにくくなるかもしれない、とポジティブに捉えて過ごすことにしました。

連邦航空保安局(TSA)による保安検査

飛行場の出発ゲートに入る際の保安検査では、ベルトを取るように促す看板がありましたが、行きは帯を「片ばさみ」という出っ張りが目立たない結び方にしていたせいか、そのままでも特に何も言われませんでした。帰りはランバーサポートを強化しようと「貝の口」という出っ張りが大きい結び方にしていたためか、職員から帯を指さされ、取るよう指示を受けました。

……が、ちょっと嫌そうな顔をしたら、すぐに通してくれました。構造を見て、取ったら脱げると理解したのか、それとも民族の尊厳に抵触する何かだと判断したのかはわかりません。

行きも帰りも袖・背中・帯は入念なチェックを受けました。袖にティッシュを入れていたら「ポケットの中の物は出すように!」と軽く叱られました。ポケットじゃないんだけど……

re:Invent会場での反応

いったんre:Inventの会場に着くと、そこからは武闘家扱いされることはありませんでした。カラテマスターがテック系のイベントに来るはずがないからでしょうね。変な格好をしているせいか、なんとなく避けられているように思えるケースもありましたが、会場で隣同士になって世間話をした人たちは、たいてい「Let me guess...日本からだな?」とか「いつもそれ着てるの?」とか訊いてくれるので、話のきっかけになって良かったと思います。

受付でフリースもらったけど着物だから袖が通らないときの微妙な表情

通りすがりの方や係員の方に格好を褒められることも多く、はじめは照れくさかったのですが、やがて自然にthank you!と返せるようになりました。スターバックスで並んでいるときに、着物を指さしたおじさんから

"Is this GEISHA? I like this!"

とお褒めの言葉をいただく事案もありました。ゲイシャは着物スタイルのことだと理解しているんでしょうか。新鮮でしたが、とにかく褒められると嬉しいものです。

……さて、re:Inventの「打ち上げ」ともいえる、超大規模パーティー「re:Play」でお酒が入ると、アルコールと音楽のせいか、みんなフレンドリーになってくれて、ちょっかいを出してくれたり、写真撮影を依頼されたりするようになってうれしかったです。

re:Playではとりあえず踊りました

re:Play会場ではドッヂボールのような競技も行われていたので、タスキ掛けで参加しましたが開始後5秒ぐらいでボールを当てられてアウトしました。やっぱり無理があった。

会場に居たキモノ・ガイは僕とbashoのゆるキャラの2名だけ。キモノ・ガールのサーバーワークス小室さんと合わせて、キモノ率は約3/13500でした。

もう一人のキモノ・ガイの
basho社のゆるキャラ(名前知らない)と筆者。
riakは使ってないけどrebarは毎日しています。


結果

二ヶ月間の和服生活訓練の成果あってか、着物でラスベガスは、部屋でハンガーをかける場所を探す以外には、特に大変なことも不便なこともありませんでした。

往復の飛行機で24時間着ていた大島(1000円で買った)は上前の衿先が少しほつれていましたが、縫えば治せる程度のダメージです。24時間座っていたら回復が難しいシワができたりするかもしれない、と思っていたのですが、意外と大丈夫でした。

現地では日本よりも激しく乾燥している気候のため、夜洗濯した洗濯物は朝までにすっかり乾いてしまい、振り返ってみれば、部屋での洗濯が前提なら襦袢も足袋も2枚ぐらいもっていけばよかったぐらいの感じでした。

そんなわけで、取り憑かれたように二ヶ月前から準備してきた「着物でラスベガス」は、あっけなく無事に終わりました。

羽織も少しだけ着た

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Kazuhiro Ogura

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