青春の1ページは見えない相手とともに【幻想編】

――想いは加速する。
でも僕らは、手の届かないところにいたんだ――

このお話は幻想編・試練編・懺悔編と3部構成になっています。
多少盛っていますが、ほぼ事実です。


01

それは、僕が高校2年にあがり、梅雨に入ろうとしているある日の放課後のことだった。

当時僕は、演劇部(と半離脱しかけた剣道部と文芸部とSFアニメ研究部)に所属しており、雨だというのもあって、演劇部の部室でくつろいでいた。

ちなみにうちの高校の演劇部の部室は、ちょっと大きめのプレハブ小屋を割り当てられていた。
それがとても隠れ家的な感じを醸し出していて、部員はみんな休み時間のたびに集まってはいろいろ遊びに興じていた。
県内有数の進学校だったにもかかわらずこういう環境にいれたことは、その後の人生に大きな影響を与えているのだが、それはまた別の話。

話を戻そう。
ソファーに寝転がっていたら、そばにあった携帯電話――当時携帯としては初のカラー液晶搭載だったJ-PHONEのSH-01――に一通のメール着信の通知があった。

「…?」

僕は携帯に手を伸ばしておもむろにメールの中身を確認する。

『突然すみません、掲示板のほうからメールしました。もしよければ話し相手になってください。』

2015年現在だったら迷惑メールに分類されそうなこのメール、そこまで疑うことなく返信した。
…というのも、当時は迷惑メール自体がそんなに来ることがなかったというのと、テイルズなりきり掲示板やマンキン(シャーマンキング)好き交流チャット等で仲良くなった人向けにメールアドレスを晒していたからだ。全くもって危機感がない。

『いいですよ』とだけ返信をしてふとメールアドレスを見てみた。

『umeboshinohito@---.--.--』

僕の目に入って焼き付いたのは「うめぼしのひと」という英字で、そこに一気に興味を持って行かれた。

そうして、この名も知らぬ人とのやり取りは始まったのである。


02

僕がちょうどそれまで付き合っていた彼女と別れた直後のことだったので、もしかしなくても寂しくてやり取りを承認したのだろう。

その子は北海道住まいのひと学年上の女性だった。

それ以上は聞いたところでどうなるわけでもないし、メールアドレスがそのころ日本で一番普及していたPHSのアドレスだったので、それだけで少なからずあった疑いをなくし、深くは追求しなかった。

どうやら彼氏と別れたあとで好きなゲームの掲示板を覗いた時に、僕が掲示板内で無双していたのみて興味をもったらしい。
なるほど僕がメールアドレスを晒した時期とも一致する。

なお、どうやら僕が「umeboshinohito」と勘違いしたメールアドレスは「unmeinohito」だったらしい。スピッツの「運命の人」が好きでそのアドレスを設定したのだそうだ。
ちゃんと見ればわかったのだろうが、思い込みとは恐ろしいものだね。

僕らはとりとめもない話をし続けた。
学校の話や部活の話、好きなマンガやゲームの話、受験勉強に入る際の心構えを教えてもらったり、その子は絵の勉強をしていて東京に出たいんだとか、お互いにそれまで付き合っていた人のことや、その子に気になる人がいるので相談に乗ったり…

昼夜問わずメールは飛び交った。
僕らは若くて、寂しさを紛らわすにはちょうどよく、会話の愛称も良かった。僕らの距離感(山口―北海道)も、他の人に話せないことを話すのにもちょうどよかった。

電話番号も一応交換はしたのだが、お互いに電話かけることはなかった。
電話をしたら、この関係が壊れてしまうかもしれないという思いがあった。

姿の見えない、でもメールの頻度が高いことで近くにいるように感じる、そういう関係性が心地よかったのだ。

僕らは、たぶん幻想に浸っていた。


03

やりとりを始めて一週間たった時のことである。
どうやらその子に彼氏ができたようだ。

ずっとアドバイスというか後押しとなるように励ましていたので、その子に彼氏ができることはすごく喜ばしく、実際、自分のことのように喜んだ。

しかし、それは同時に僕らの関係が終わることになるのだとは思っても見なかった…。

その子から彼氏ができた次の日、最初にメールが来た時と同じく、部室のソファーに寝転がっているときに、メールが来た。
嫌な予感しかしなかったのだが、おそるおそる開いてみた。

『ごめんなさい、もうメールできなくなります』

どういうことだろう?僕は何かあったのか聞いてみた。

『彼氏が私のピッチ(当時のPHSの愛称)を見て、「こいつ誰」っていう話になったの』
『説明はしたんだけど怒っちゃって、「連絡先消せ」っていうことになって…』
『これからメアドも消すから、もう連絡取れないと思う』
『ごめんね』

嫌な予感は当たった。

人は心配もするし嫉妬もする生き物だ。
すべてを寛容に受け入れれる出来た人間なんてそうそういない。
そういうこともあるだろうと思ったが、このまま終わるのも後味が悪い。

僕は意を決し、最初で最後の、電話をかけた――。


04

結局その子は電話をとることはなかった。

何回か電話をかければそのうちとったのかもしれないが、僕は一回かけただけに留めた。その子が電話をとらないのは、とれない事情があるかとりたくないのだろうと推測したからだ。

突然の別れというものがこんなにつらいとは思わなかった。
想い人がいようがいまいが、その関係はずっと続くものだと思い込んでいた。思い込みは恐いなというのはメールアドレスの件で知っていたはずなのに…。ただ、繋がりが消えることが信じられなかった。

いろんな想いが入り交じる中、僕は数時間考え、一通のメールを送った。

『今までありがとう』

もしかしたら、恋をしていたのかもしれない。
簡単には会えない距離が、想いを停滞させていたのかもしれない。
会えないのがわかっているから、相手が嬉しかったことを自分も嬉しいという気持ちに転化して、そういう自分に酔っていたのかもしれない。

メールを送り終わった後、僕は数少ない携帯電話のメモリーとメールの履歴を、ひとつずつ消していった。

この恋かもしれない想いに区切りをつけるために。

――その日も、雨が降っていた。


ED Theme Music


試練編」へ続く

なお、この投稿は 恋話 Advent Calendar 2015 の10日目の記事です。
自分のブログに書こうと思ったけど恥ずかしいのでやめました。

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GOUTEN

青春の1ページは見えない相手とともに

恋話 AC2015|http://www.adventar.org/calendars/880
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