青春の1ページは見えない相手とともに【試練編】

――それは誠実であろうとしたがゆえの、悲劇の幕開け――

このお話は幻想編・試練編・懺悔編と3部構成になっています。
多少盛っていますが、ほぼ事実です。


01

あの出来事から一ヶ月半後、僕にも彼女ができた。
勝手に右翼曲折した末にくっついたので、僕としてはわりと幸せな日々を過ごしていたように思う。

例の出来事は付き合い始めた彼女に全部話した。
何でも共有することで心のつながりを強固にしたかったのだと思う。
彼女は興味津々で聞いてくれて、特に怒ることもなく、共有してくれることを嬉しく思っているようだった。

演劇の方にも本格的に力を入れた。
もともとは「剣道部を正当な理由で休む」というのを考えた時に、その辺にいた友達を呼んで入れてもらったのがたまたま演劇部だっただけなのだが、舞台に関わるににつれて、その魅力にハマっていったからだ。

あの時部室として使っていたプレハブ小屋はその翌年の3月に取り壊された。
秘密基地のようなそれがショベルカーで崩されるのを見て言い得ない喪失感が残ったのは今でも記憶に染み付いている。

新しい部室はもともと写真部が使っていた場所で、コンクリートがむき出しの、いわゆる部室らしい部室だった。
もともとプレハブ小屋にあったソファーだとかテーブルだとか本棚だとか衣装だとか、いろいろなものをそこに移動したが、やはり環境が違うとモチベーションも団結力も弱くなってしまうものだ。
僕はだんだんと稽古があるか、彼女と一緒にいるとき以外は家に居ることが多くなってきていた。

その日は、もう学校は春休みに入っており、特に部活の予定もなく、彼女とも約束していたわけではないので家にいた。
来年度は受験も控えているのでしぶしぶ机に向かおうとしていた…その矢先に、僕の携帯が震えた。

『メル友になってください!』

画面にはあの時を彷彿とさせる文面が表示されていた。

桜の咲く季節を目前に迎え、あらたな出会いと別れが訪れようとしていた――


02

メールアドレスは知らないアドレス。
会話をしてみても特に共通項はない様子。

少しだけ期待していたが、そもそもアドレスを消すと言っていたのだから連絡を寄越すのはおかしい(メモとして控えていた可能性もあったが)。
あの子には幸せになってもらいたかったので、あの子と違うということにホッと胸を撫で下ろしてもいた。

今回メールを送ってきたその子は隣の県にいるという、同い年の女性だった。
どうやって僕の連絡先を知ったのかを聞くことはしなかった。
話してみる感じでは少し頭は悪そうだったが、正確が別段悪いわけではなさそうだったからだ。
その頃の僕は、きっと騙されやすい性格だったのだろう。

彼女が居るにもかかわらずこうやって見知らぬ人とメールを、しかも突然送ってきて、相談もなしにやり取りを始めてしまうのは、裏切りのような気もしたが、そこは気にしないことにした。

…たぶん、暇つぶしだったんだと思う。
というのも、その頃彼女は弟達の世話(兄弟が多かった)とか家業の手伝い(実家は酒と米を扱う商店だった)だとか、塾があるだとかでなかなか会えなかったというのが背景にあった。
少し会えなくて…というのは若い子にありがちだと思うからあまり深く詮索しないほうがいい。

住んでいる場所が近いらしいというのもあって、僕らには共通項が多かったので、話も合いやすかった。
趣味も近しいってのもあったんだと思う。

以前とは違い距離は近いようだったが、会う気は全く無かった。
そうまでしてしまうのはその時付き合ってる彼女に失礼だと思ったし、相手との暗黙の了解で「これはメールだけの関係ですよ」という雰囲気を感じ取ったからだ。

それでも誠実にいようと思い、その子の質問には正直に答えることにした。
それが後にあんなことになるだなんて、僕は想像もしていなかった。


03

『彼女いるんですか?』

そう聞いてきたのはやりとりを始めてすぐのことだった。

僕は誠実であろうという気持ちを常にもっていたので、すぐに『いるよ』と返事をした。

その子は結構な食いつき方をし、根掘り葉掘り聞いてきた。
僕はその子の質問に、ひとつひとつに真摯に答えていった。
彼女との馴れ初め、それまでどう思っていたのか、彼女の好きなところ、彼女と今どうしてるのか、彼女に何を求めてるのか、悩みはあるのか…

どうやらその子は友達として異性と仲良くすることはあるが、その中でも外でも好きな人ができたことは無いらしい。
それでも恋に恋するような感じだったので、自分の普段抱いている感情が恋なのかどうかを確認するように質問を投げかけてくる。

その子の周りの友達はどんどん彼氏彼女ができていくので、取り残されている感じがするという。
好きな人がいないことに焦りを感じているのだ、と。

そんなこと考えなくてもいいのに…と思ったが、文面として送ることはしなかった。せっかく夢見ているのだから、夢を見ているくらいでいいのだと思ったからだ。

『えっ、まだ聞きたいです』

少々鬱陶しい感じもしたが、さんざん問い詰められ?て疲弊していた僕は、無理矢理話を切り替えることにしたのだった。


04

おかしい、と感じたのはそれから3日後くらい経ったころだった。

どうも会話が通じすぎるのだ。
僕しか知り得ないこと、そこに住んでいなければわかりづらいこと…その子は、知りすぎている。

こっちに住んだことがあるだなんて言っていなかったし、メール上で確認しても行ったことはないと言った。
僕しか知り得ないことは、ヤマかもしれないが、それにしても僕のことを3日メールした程度でわかるだなんて思わない。
誠実に答えはしたが、言ってないことなんて山程あるのに…。

疑いを持つのは良くない。
そうは思いつつも、どうしてもある考えが浮かんでしまう…。
まるで、試練を課せられているようだ。

『        』

深呼吸して心をなるべく落ち着かせようとし、僕は意を決してメールでカマをかける文面を送信した。

そして返ってきたその答えを見て、僕はある行動に出た――


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試練編 ― 了

懺悔編」に続く

なお、この投稿は 恋話 Advent Calendar 2015 の10日目の記事です。
自分のブログに書こうと思ったけど恥ずかしいのでやめました。

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GOUTEN

青春の1ページは見えない相手とともに

恋話 AC2015|http://www.adventar.org/calendars/880
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