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コーポレート・ガバナンス関連ニュース(2019/10/11)

役員報酬が米国のリトマス紙

【記事の注目ポイント】アメリカの主要企業が加盟する経営者団体「ビジネス・ラウンドテーブル」が「株主至上主義」からの転換を宣言した件について、企業の本気度を見る一つの判断材料として役員報酬の変化を取り上げている。例えば、同団体の会長を務めるJPモルガン・チェースのジェイミー・ダイモンCEOの昨年の報酬は3100万ドル(33億円)と従業員との所得格差の大きいCEOの一人である。記事では、格差問題に正面から向き合うなら手段は2つであるとし、自らの報酬を下げるか、社員の賃金を上げるかだと述べる。しかし、株主第一からの転換を口実に、役員報酬額を決定づける業績連動の要素が小さくなれば、評価尺度はあいまいとなり、「ステークホルダーの存在をクローズアップさせることで、業績悪化の言い訳に使われる」と一部の投資家からは批判も出ている。今回、掲げた各ステークホルダーの要素を役員報酬にどう反映させるかに注目だ。

【コメント】これは今日的でありながら、非常に難しい問題といえる。イギリスでは昨年7月に改訂されたコーポレート・ガバナンスコード(適用開始は2019年1月から)に、既に従業員の利益を経営に反映させる取り組みが新たな原則の一つとして組み込まれており、一足先に株主以外のステークホルダーの利益を反映した経営の実践が求められているが、実態としては企業は四苦八苦しながらどのようにComplyするかを検討中というところだろう。役員報酬への反映の一つとして、株式報酬等の業績連動報酬の決定要素に何らかの従業員等のステークホルダーの利益に繋がる指標を設けることは理論上は考えられるが、そもそも測定可能なレベルでどのような指標を入れるかは議論があるだろう。このように考えると、諸外国の役員報酬と違い、日本では経営者報酬に、株式報酬を加えることが(ある程度の上場企業であれば)当然であるというコンセンサスがようやく取れた状態であり、まだまだ役員報酬ver1.0といったところだろう。


日本の外資規制強化、ガバナンス改革に逆回転リスク

【記事の注目ポイント】財務省が今週公表した提案によると、一部の日本の上場企業に対する持ち株比率が1%に達した外国人株主は、当局への届け出が必要になる(従来は10%以上の株式を保有する株主が対象であった)。対象となる業種は防衛、通信、海運などであり、日本の上場企業3680社のどれが対象業種に含まれるかは厳格には決められておらず、株主側の責任で決める必要があるとのこと。中国からの投資に対する政府審査の強化が今回の発表の狙いとみられるが、日本の株式市場の総出来高の約半分を占める外国人投資家の活動に少なくない影響が考えられる。また、日本企業のコーポレートガバナンス改善に一役買っているアクティビスト(物言う株主)の投資家活動に影響が出ると、ガバナンス改革の進展にネガティブな影響が懸念される。

【コメント】日本の安全保障に関係する業種に限定しているとはいえ、今回の財務省の公表した案は、確かに外国人投資家の投資活動に影響が懸念される。せめて、どの企業が今回の案の対象業種にあてはまるかは、示すべきだろう。


ダイベストメントは「儲かる」

【記事の注目ポイント】化石燃料関連企業からのダイベストメント(投資の引き揚げ)が投資パフォーマンスにプラスの影響をもたらすことが、カナダの独立系投資会社ジニアス・キャピタル・マネジメントが発表したレポートで明らかになった。同社の「2019ダイベストメント・レポート」によると、2013年5月から2019年7月の6年余の間に同社のFossil Free CanGlobe Equity Fund(カナダ株式35%、グローバル株式65%)への投資を通じてダイベストメントした投資家は、年率12.83%の利益を確保できたとのこと。これは、同社のベンチマークファンドやカナダ株式市場指数を上回る運用成果であった。また、投資家の投資行動自体にも変化が見られるとし、「気候変動に関する意識はかつてないほど高く、カナダの投資家は自らの投資行動を気候変動への対抗策としてどのように活かせるか自問しているのではないか」とのこと。

【コメント】ESG投資への根強い批判として、「ESG投資はそもそも他の投資よりも儲かるのか」という意見があるが、今回のカナダの投資会社が発表したレポートは、化石燃料関連企業へのダイインベストメント(投資活動の引き揚げ)が、投資パフォーマンスにより良い効果をもたらす結果を示すものとして注目されるだろう。ただし、実際には短期的な経済的リターンとこうした投資活動・企業活動は矛盾することは当然あり得る。経営者としては、SDGsやESGの重要性は頭では理解しており、総論として否定しがたいが、いざ取り組むとなると腰が引けるというのは、この辺りが解消されないからだろう。


社外取締役を「お客さま」にしておく時代は終わったと思う

【記事の注目ポイント】関西電力経営陣の高額金品受領事件でもそうであったように、企業不祥事が発覚した時には、社外取締役や取締役会が問題を把握できなかったことが度々報じられる。中には、社外取締役をこのような当社の不祥事に巻き込んではいけないという経営陣の心理もあるのではないか。いずれにせよ「取締役会改革」の必要性は高まっているものの社外取締役が経営監督責任を全うできるような環境整備がなされず、いつまでたっても「お客さま」として扱われる会社が多いことが問題ではないだろうか。今秋の通常国会で審議が予定されている会社法改正では、一定の企業に対する社外取締役の選任義務付けが明記されるが、併せて(一定の要件を満たせば)社外取締役に対して会社の業務執行を委託することを可能にすることも明記される予定である。不祥事のような、企業利益と社内取締役との利益が相反するような状況や、経営陣の指揮監督によらず独立性が求められる場面では、案件ごとの個別審議をもって、取締役会が社外取締役に業務委託することが出来るようになる、というものである。社外取締役への業務委託の是非について取締役会で審議する必要であることから、いつまでも社外取締役を「お客さま」扱いすることは許されない。安倍首相の所信表明にあるように「社外取締役を選任することで経営の見える化を図る」ことが必要である。

【コメント】私がアドバイザーを務めているある業界のトップの一部上場企業でも、同じ状態にある。その会社の副社長は、社外取締役のことを「社外の先生」と陰で呼んでおり、この記事にあるように「お客様」扱いしているといえるだろう。ただ、企業の業務執行を司っている経営陣からすると、自分たちと同じように、この会社の将来を真剣に考え、取り組む意思と能力がある人が社外取締役に選ばれているのか?というのが、多くの企業の本音ではないだろうか。実際に、諸外国の社外取締役と異なり、まだまだ日本の社外取締役は時間的・質的コミットメントが低い。少なくとも社外取締役の兼務社数の一定の制限や必要となる人材要件の明示、コミットメントの具体的な基準の明確化は対外的な説明責任を果たす際にも今後必要となると考えらえる。

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