見出し画像

【ポジショナルプレー第2回】神戸vs鳥栖 アラバロールを用いた神戸のボール保持と残された課題

若手によるサブ組主体の神戸がちょっと面白いビルドアップを実装していたので解説。いつの間にポジショナルプレー仕込んだのか…タイミング的に黒幕は林健太郎のような気がする。恐らく。

今回説明するのは『アラバロール』。バイエルン・ミュンヘンを指揮していた頃のグアルディオラが見出した戦術で、守備時は普通のSBのポジションに居るのに、攻撃時はポジションを移動し、DHとして振る舞う事から『偽SB』とも呼ばれる。バイエルンではCB,SB,DH,SHなど複数のポジションを自在にこなすダビド・アラバがその役割を担った事から『アラバロール(ロール=役割)』というわけだ。

さて、アラバロールを理解するにはポジショナルプレーと5レーン理論について理解しておく必要がある。もしそれらについて明るくないというのなら、前回の記事を読んでおいてもらいたい。同じポジショナルプレーの原則に沿ってプレーする他チームの事を並列で理解しておく事は、必ず自チームの理解の助けとなるはずだ。

神戸は守備時は442でプレーしていた。そこから左SB三原がアラバロールで左インサイドハーフ。DH安井がアンカー、DH松下が右インサイドハーフ。左サイドにはSH小川、右サイドには右SB藤谷がタッチライン際に張り、前線は郷家、佐々木、中坂の3人で235を形成。グアルディオラの扇形陣形の出来上がりである(なお、鳥栖のプレッシングにより後方のボール保持が安定しない際には三原がアラバロールを行わずに右SB藤谷片上げの3バックビルドアップや235からアンカーの安井をCB間に降ろした3バックビルドアップも行っていた。芸が細かい)。

この時、左SB三原がアラバロールによって左インサイドハーフとなる事でどういうメリットがあるのか?それにはハーフスペースについて少し説明しなければならない。ハーフスペースとはピッチを縦に5分割した内の大外レーンと中央レーンに挟まれたレーンの事である。

ポジショナルプレーの実践編。選手の認知を助ける5レーン理論 | footballista https://www.footballista.jp/column/38772

サッカーの攻守で最優先に考えるべきレーンはどこか。当然中央レーンである。ゴールは中央にある。中央を縦に突破できればそれが最善だ。しかし、守備側もそれは解っているので、中央は厚く堅く守られている。崩すのは容易ではない。では大外レーンはどうか?「中央を最優先で守る」という大原則があるため、大外レーンは比較的突破は容易だ。中央ほどDFも居ない。しかし、大外レーンにはゴールがない。得点するためにはクロスを中央に送るなどひと手間掛かる。そこで考え出されたのが『ハーフスペース』だ。中央レーンと大外レーンの中間に位置するそのエリアは、『中央ほど守りが堅くなく、大外より得点に直結しやすい攻撃を繰り出せる』のだ。

一昔前に、攻撃の際に「PAの角を取れ」という言い回しがあった。樋口監督が率いていた頃の横浜FMがそうで、PA角に選手を集め、旋回しながらの崩しを得意としていた記憶がある。何故か?PA角付近はシュート、スルーパス、ドリブルでのPA侵入、ワンツーでのPA侵入、逆サイドの大外から侵入してくる選手へのクロス(これが滅法効く)など、攻撃側が何でもできる位置なのだ。そしてハーフスペースはPA角を含むエリアである。後はお解りだろう。ハーフスペースを攻守で専有する事は現代サッカーでは必須となっている。

グアルディオラの扇形陣形は攻防一体の戦術として知られるが、その理由の1つが『アラバロールによってSBがDH化し、ハーフスペースにポジショニングしているため、攻撃時のメリットのみならず、ボールを奪われた際にも相手に先んじてハーフスペースを閉じることができている』ためだ。中央をアンカー&CBが、ハーフスペースをSBが閉じているため、サッカーにおける最大の得点機会であるカウンターを、相手は効果的に繰り出すことができなくなってしまう。攻撃時の有効なポジショニングがそのまま守備時の有効なポジショニングにもなっている、『位置的優位』の最たるものだ。サイド?捨てておけばいい。サイドにゴールはない。中央とハーフスペースを閉じている間に味方も帰ってくるだろう(なお、グアルディオラは後にこの捨てているサイドから手痛く攻略される事になるのだが…)。

そしてSBがDH化するという事は、ビルドアップの経路も変わる。SBがハーフスペースに移動する時、相手SHは選択を強いられる。「付いて行くのか、行かないのか」。SBに付いていくと、CBからサイドに張ったSHへのパスコースが通ってしまう。しかもその先では味方が1対1の状況に晒される。じゃあそのまま…となるとDH化したSBはフリーだ。攻撃側は空いている方を選択すればいい。絶対不可避の2択である。

なお、この際のCBは左CBなら左利き、右CBなら右利きを配置しておくのが好ましい。そうする事でタッチラインに対して極力角度がないパスが出せる。そうするとタッチラインを割る可能性も小さくなるし、途中で相手に引っ掛かる事も減る。この試合では左利きのCB小林友希が左CBを務めたのだが、彼の試合後コメントを見てみよう。

ヴィッセル神戸 試合/練習 : JリーグYBCルヴァンカップ グループステージ第6節 vsサガン鳥栖 試合情報 https://www.vissel-kobe.co.jp/match/game/?gid=20180020040820180516

−左サイドにパスを出す際に、利き足の左足でなく右足で出すことがありました
小林「左足で出すこともあれば、右足で蹴ることができる場所にボールを置くことで相手が絞ってくれる可能性もあるので意識して使い分けました。右足で蹴るのは下手なので、両足で蹴ることができるように練習しています」

この賢さである。左足で左サイドにパスを出す事は自然なプレーだ。しかし小林はそれだけではなく、時に右足でもボールを持ち、「三原や右サイドに居る選手にパスを出すぞ」と相手を牽制し、そちらを意識させ食いつかせる事で、左サイドに張っていた小川にパスを届けていたのだ。彼はまだ2種登録の高校3年生だというのに。将来が楽しみでならない。

そうして左SH小川にパスを届けた後はどういう攻撃のデザインだったのか。これも試合後コメントに答えがある。

−(吉田監督からの)サイドに張るような指示の意図はどういったものですか。
小川「サイドバックの選手をボランチ気味にして、スペースを空けて、僕が(ボールを)受けて、そこからのコンビネーションを作っていく意図でサイドに張っていました。三原選手にボールが入ったら、サポートして、僕が引いたところの裏(のスペース)をFWが突いていくイメージでした」

まず、鳥栖の442に対して神戸の235は『位置的優位』『数的優位』の状況にある。4バックに対して5トップ。解りやすく1人多いと同時に、それぞれが『鳥栖SBの外』『鳥栖CBSBの間』『鳥栖CBCBの間』と中間の位置&5レーンそれぞれに均等にポジショニングできており、相手はマークが非常にしづらい状況となっている。「どっちが行くんだ!」というように。これが『位置的優位』だ。そこに居るだけでも相手に選択を強いる事ができる。また、鳥栖2トップに対して2CB&アンカーで後方のボール保持も盤石である。前述のようにCBから左サイドにパスを出し、国内トップクラスのスピードとスプリント能力を誇る小川で鳥栖SBを『質的優位』で殴る事もできる。1対1で小川のスピードに敵うDFはそうそう居ない。

更に、サイドに張った小川に対面の鳥栖SBがアプローチに来た場合、鳥栖のCBSB間が空く。そのスペースに向けてハーフスペースにポジショニングしていた郷家が裏抜け。小川から斜めのパスを受け、PA内へ侵入していく…というイメージだったのだろう。もしくは、郷家の裏抜けが実らなくても、更に鳥栖CBが動かされて出来たスペースに佐々木、もしくは三原が裏抜けというように、スペースを作っては芋づる式に相手を動かし、その繰り返しによって有利な状況を作り続ける事ができる。これは前回の東京Vの分析でも述べたことだ。

しかし、神戸はそう上手くは行かなかった。小川のコメントを見てみよう。

−手応えはいかがですか。
小川「やっぱりフリーでなかなか受けられなかったので、一か八かの前方へのパスになるなら、もう一回ボールを繋ぎ直す。チームとしてそういう意図がありました。前方で(ボールを)失うならもう一回やり直して、また違うところでコンビネーションを作れたらいいと皆考えていたと思います。なかなか上手くいかなかったです」

−サイドに張ったら1対1をドンドン仕掛けていく様な指示がありましたか。
小川「前を向けたら仕掛けていいと言われていた。ただし、そういう場面は少なかった。今やりたいサッカーでは、低い位置ではボールを失うリスクは犯さないようにしている。もう少し質だったりテンポだったりでフリーになるボール回しができたらいいと思います」

小川は言う。「フリーで受けられなかった」「前を向く場面は少なかった」と。これには確たる理由がある。以下の動画を見てもらえればお解り頂けるはずだ。

右利きの小川は左足を満足に使う事ができない。なので、小林からグラウンダーの速いパスが来た時に『タッチラインを背に、相手DFに対して半身で受けながら左足でトラップ』する事ができない。左サイドに張っているのに、これでは致命的である。右足で受けようとするとボールに対して正面を向く事になる。つまり鳥栖SBに対しては背を向ける格好になる。するとどうなるか?一発で抜かれるリスクが低いと判断した鳥栖SBは遠慮なく小川にアプローチに来るだろう。結果、後ろに戻して攻撃をやり直すしかなくなる。

だが、左足でトラップする事ができれば、鳥栖SBに対して半身で受けつつスムーズに前を向ける。前を向かれたので、鳥栖SBは寄せすぎると一発で抜かれるリスクがあるためアプローチを躊躇する。つまり攻撃側が有利な状況で相手に選択を強いていく事ができるのだ。動画でも、小林から小川にパスが出た際に、鳥栖CBSB間のスペースに郷家が裏抜けしている事が解る。小川が前を向く事ができていたなら、左サイドから連動した崩しを仕掛ける事ができていたのだ。

もし、北本から小川にサイドチェンジが通った場面で左足でトラップできていたなら、1対1の状況で素早く前を向いて『質的優位』で殴り掛かれた上に、三原がタイミングよくハーフスペースを縦に裏抜けしてきていたので、そこを使えれば前半最大のチャンスだった。それもこれも左足でトラップできない事で全て潰してしまったのだ…。

ここでシティの練習風景を見てみよう。スターリングにグアルディオラが激しく指導するシーンだ。グアルディオラは「ボールに対して正面を向いて受けようとすると、後ろにボールを返すしかなくなる。正面ではない。半身で受けるんだ。半身で受ければスムーズに前が向ける」と言っているのが身振り手振りからも解るはずだ。

そして指導後のスターリングが半身で受けて挙げたゴールがこちら。お解り頂けただろうか?


※追記 その1。小川慶治朗がタッチライン際で相手に対して前を向く事ができたとしよう。その場合に次のプレーはどうなるか。ここでも左足を使える/使えない事で見えてくるものがある。

小川が鳥栖SBに対して正対できた場合、ここで狙っていくのは鳥栖SBの裏、サイド奥のスペースだ。このスペースを突くために、インサイドWG郷家や三原がフリーランを繰り返していたのは試合で見られた光景である。この際、“相手から遠い足”である左足でパスを出すことができたなら、スムーズにスペースを狙う事ができる。逆に、右足しか使えなかった場合は相手に近い方の足でパスを出す事になるので、当然相手にパスカットされる可能性が高くなる。小林友希の項でも触れたが、左サイドに左足を使える選手を置くメリットはこういう所にある。

では、左足でパスを出せる場合、相手の対応はどうなるだろう?当然その縦のパスコースを消すべく、鳥栖SBは1m2mと外側に移動する必要がある。その場合はサイド奥のスペースには出せなくなってしまうが、鳥栖SBが外側に移動した事で、今度は小川自身がハーフスペースへカットインしていく事ができる。こうして相手に避けられない2択を迫っていく事でボールを前進させていけるのだ。そして、ここで小川が右利きである事が活きてくる。ハーフスペースへカットインしていけば、シュート、パスを始め様々な選択を相手に迫ることができる。

では実際にそうやって崩していた動画を見てみよう。この動画は2年前の16年3月の磐田戦。ネルシーニョ体制時のものだ。

石津は右利きの選手だ。しかし、左サイドに開いて受ける時は左足でトラップして前を向け、とネルシーニョに仕込まれていたのだろう。石津が左足でボールを持っている事で、磐田DFは自分の右側のパスコースを優先して消さなければならない。松下が裏で受けようとしているからだ。磐田DFがパスコースを消すために外側に動き、石津の左足をケアした事で石津が左ハーフスペースへカットイン。松下に付いていこうとしていた磐田MFが石津に付こうとしたが、石津はレーンを横断しながらドリブル。右ハーフスペースから裏抜けした小川に巻いたクロスを送るが惜しくもオフサイドに。

現在の神戸が志向している中盤から先の崩しは、既に2年前に仕込まれたものだ。にもかかわらず、小川はそれを忘れてしまったかのようなプレーを繰り返している…。


小川慶治朗は類稀な瞬発力、トップスピード、スプリント能力を持ちながら、器用さに欠けるためにスタメンの座すら掴めていない。戦術兵器としてサイドを蹂躙するだけの才能を持ちながら、だ。SHとしては左足が使えない事がネックとなり、SBとしては身長と守備力がネック。FWに活路を見出すしかない状況だが、神戸はその気になればポドルスキが買えるクラブだ。FWの椅子は埋まっている。

小川は今年で26歳だ。もう若くはない。しかし引退間際の選手でもない。今からでも遅くはない。スムーズに左足が使えるように取り組むべきだ。中澤佑二を見てみよう。彼は40歳を超えてなお成長を続けている。チームからの正しい指標と環境。本人の目的意識と向上心。これらがあればサッカー選手は幾つになっても成長できるのだ。現在のチームメイトである田中順也は、柏に移籍してきたばかりの伊東純也と対談した際、右利きである彼に対し、自身の経験を交えながら「左足を練習しておいた方が良い」とこのような言葉を掛けた。

黄金の左足を持つ田中順也は「両足が使えるようになればプレーの幅が広がる」と説いたのだ。その甲斐あってか、現在の伊東純也は右サイドを縦に行くだけでなく、カットインして左足シュートもスムーズに決められるようになった。スピードがあり、縦にも中にも自在に行ける選手を並のDFが抑える術は無い。そして小川慶治朗もそうあるべきなのだ。

若手によるサブ組主体の神戸が見せたチャレンジは近い未来の成功を予感させるものだった。それと同時に、チーム・個人に足りないものも浮き彫りにしてくれたと思う。中断期間の後に神戸がどのようなチームへと変貌しているか。グアルディオラのエッセンスを取り入れ、“バルサ化”の道を歩み始めた神戸をこれからも注視していきたいと思う。


※追記 その2。アラバロールの理解・実行について後日TLで盛り上がりを見せたので貼って補足しておきます。

昨今、横浜FMや柏、神戸などで導入されて「新戦術だ!」のような扱いを受けている『アラバロール』『偽SB』だが、実際に最初にJリーグに導入したのは14年のC大阪、ペッツァイオリ監督だった。13年にグアルディオラが開発し、その翌年のことである。

当時のC大阪にはペッツァイオリ監督のやろうとした事は難しすぎた。チームの状態が良くなかった上にシーズン途中での就任だったため、きちんと仕込む時間も無かった。また、『5レーン』『ハーフスペース』という概念が14年当時のJリーグには無かった。それが理解が進まなかった一番の大きな理由ではないだろうか?“ハーフスペース”等の言葉が無い頃から、ポジショニング感覚に優れる選手達は「相手DHSHCBSBの間の中間ポジションでボールを受けられれば、いい感じで攻撃しやすくなる」と経験から解っていたが、万人に解る形で言語化されてはいなかった。だからアラバロールの有効性も伝わりきらなかったのではないだろうか。

そして、有効性が伝わりきらなかったのは、恐らく攻撃面よりネガティブトランジション(攻→守の切り替え)~守備面の方が大きかったのだと思う。アラバロールの有効性は「SBがハーフスペースにポジショニングする事で攻撃を円滑にすると同時に、ボールを奪われた際には自分達にとっても急所であるハーフスペースを最初から抑えている」事だからだ。先にも解説した通り、最大の得点機会となるカウンターの芽を最初から摘んでおけるのである。

現在であれば、5レーン理論がJリーグのクラブにも伝わり、ハーフスペースという攻守に急所となる場所の存在が認知された事で、攻撃面以外のメリットも伝わるようになった。それが現在になってアラバロールが広まってきた事と関係しているのではないだろうか。4年の時を経て、ようやく下地が整ったのだ。

それらが言語化され、共有されていない状態で「SBがDHの位置へ進出するように」と指示された当時のC大阪の選手達は「何故SBがDHみたいな事やらなければならないんだ?最初からDHに捌かせればいいだけなのでは?」としか思われていなかったのではないだろうか?

※追記 その3。この記事を読んだ神戸サポの多くが「左利きの松下にアラバロールをやらせては?」と発言されてまして。それについて補足解説。

ナポリMFジョルジーニョのプレー分析の翻訳。ここに面白い記述があった。

「グラウンダーのパスだけでなく、ジョルジーニョはDFラインの裏にやさしい浮き玉のパスも出せます。彼は右足でプレーすることを好み、右足でのパスを全方位に届けることができるので左ハーフスペースに頻繁に顔を出します

左ハーフスペースに右利きの選手。これがポイントである。例を挙げよう。現在の柏も2枚のDHが逆足配置になっており、右利きの大谷が左。左利きのキム・ボギョンが右に配置されている。最初に始めたのは16年に指揮を採ったメンデス監督だった。あの時は右利きの大谷が左、左利きの秋野が右。当時は「同サイドへの縦パス&同サイドに張った選手への斜めのパスと逆サイドへのサイドチェンジの事を考えたら順足の方がいいのでは?(前述の小林友希の例を参照)」と思っていたが、実は違った。DHを逆足配置にしているのにはもっと大きな意味がある。

攻撃時にDHがセカンドボールを拾うために敵陣ゴール前(バイタルエリア)まで進出したとする。その際には、具体的には中央レーンもしくは左右どちらかのハーフスペースで拾うことになるはずだ。ここでは左ハーフスペースで拾ったと仮定しよう。その時に逆足配置だと「左ハーフスペースから右足でプレーの選択が可能になる」のだ。前述のPA角及びハーフスペースでの攻撃の選択肢を思い出して欲しい。つまり、セカンドボールを拾ったDHが相手に対して自動的に非常に致命的な攻撃を仕掛ける事ができるのである。これがDHを逆足配置にする最大のメリットだ。

左ハーフスペースの高い位置で右利きの大谷が持つのと、左利きのボギョンが持つのではプレーの選択の幅が違う。右利きであれば相手GKはまずニアに対するシュートを警戒しなければならないし、味方へのパス、ドリブルでのPA侵入、ワンツーでのPA侵入もある。そしてGKはシュートを警戒しなければならないので、必然的にファーが空く。そのファーサイド、具体的には左ハーフスペースから右ハーフスペースへの右足で巻いたクロスがクリティカルヒットするのだ。何故か?「クロスに対して相手の視野外から選手を飛び込ませる事ができる」からだ。

左ハーフスペースでDHがボールを保持している。相手GK&DFは当然そちらを注視しなければならない。相手DFは自分のマーカーを捕まえつつ、だ。この時に、右ハーフスペース&右大外レーンは相手から死角となる。人間、後ろに目は付いていないからだ。この時にDHが右ハーフスペースへ右足で巻いたクロスを送り込むと、相手の死角、視野外から選手を飛び込ませる事ができる。相手GK&DFは視線を右から左へと移さなければならない。この時にマークが非常に外れやすくなる。視野外から飛び込んだ選手が直接シュートを打てずに中央に折り返したとしても、マークを外した選手がシュートを打つ事ができるのである。

具体例として、433の右WGとして得点を重ねる、ナポリFWカジェホンのプレーを見てみよう。

お解り頂けただろうか?この通り、DHの逆足配置には大きなメリットがあるのだ。翻って、神戸vs鳥栖で左利きの松下が右インサイドハーフで起用された事も同様の狙いがあったはずだ。無論、右利きの三原がアラバロールを行い、左インサイドハーフ化したことも。

なお、追記 その1で石津が見せたプレーもやっている事自体はこれと全く同じだ。左ハーフスペースから右足で巻いたクロス。小川が相手の視野外から右ハーフスペースへ裏抜けしてPA内侵入、あわやというシーンを作り出した。

小林友希や小川慶治朗の項でも触れたが、利き足と選手の配置には重要な意味がある。その些細な違いがピッチ上のプレーに幅をもたらすという事を覚えておいて欲しい。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?