【ポジショナルプレー第6回】ローマvsミラン ローマ発、4141のルネッサンス

今回のお題はセリエA。今季のローマはジェコやコラロフ、デ・ロッシ(ようやく怪我から復帰)らのベテラン勢がチームを支え、ニコロ・ザニオーロやジェンキズ・ウンデル、ジャスティン・クライファートら伸び盛りの若手が華を添える、通好みのチームとなっている。そんなチームを指揮するのがエウゼビオ・ディ・フランチェスコ監督。トッティや中田英寿の背後に位置し、ローマのセリエA制覇を支えた中盤の選手といえば覚えている人も多いだろう。そのディ・フランチェスコ監督は怪我人の多かった今季、様々なシステムを活用しながらCL圏が狙える位置にチームをどうにか留まらせている。個人的には評価の高い監督の1人だが、その彼がローマvsミランで採用したシステム、4141について今回は解説したい。


■過去の遺物となった4141

4141。442からFWを1枚削り、中盤の底にアンカーを据えたこのシステムは、機能させる事が難しい事で知られている。『ゴール前にバスを置く』というような、プレッシングの開始位置を下げ、自陣ゴール前に張り付いた守り方を選択する場合は、一番危険なバイタルエリア中央にアンカーを配している事もあって非常に堅固なシステムである。しかしその一方で、前線からプレッシングに行こうと考えた場合にはFWが1枚しかおらず(なのでインサイドハーフが1枚上がる形で4141⇔442へと可変する形が生み出された)、また相手の1手先を見透かす戦術眼を持ち、淀みないパスの配給が出来、サイズも含めたフィジカル面に優れたハイレベルなアンカーを有していなければ、前から行く事もできず、ゴール前でも守れないような中途半端なシステムとなってしまう。 それに加え、4141の名が示す通り、DF-アンカーMF-FWと『選手のラインが4つできる』が故に、全体が縦に間延びしやすく、アンカー脇にぽっかり空いたスペースを相手に使われるケースが多発。FWの枚数が足りずに1stディフェンスが定まらない所に2列目が遅れて突っ込んでいき、結果、全体が間延びして芋づる式に相手にスペースを与えるような事も起こる始末だった。

そんな事もあって、個人的にはアンカーをMFのラインに加えた451がモアベターだと考えるようになっていった。4141と違って選手のラインが3つになるので縦をコンパクトに保ちやすく、ピッチの横幅を4人ではなく5人で守る事ができるため、相手の縦パスを遮断しやすい。また、5レーン理論やそれを含んだポジショナルプレーが世に広まった事により、5レーンにそれぞれ1人ずつ選手を配置して守る事ができるメリットが何より大きかった。541でも同じように5レーンを封鎖する事はできるが、541は後ろに重すぎる。ボールを奪った後のカウンターも考えるならば、WBが自陣ゴール前~PA内に張り付けになった541より、SHがその10m前方に位置する事のできる451の方が理に適っているのではないか、と。前線からプレッシングに行く際も、4141と同様にインサイドハーフを1列上げる事で442への可変が可能。ここまで来たらもう4141を使う理由が思いつかなかった。4141は過去の遺物になった、そう思った。

しかし。ローマvsミランでディ・フランチェスコ監督が採用したのは451ではなく、4141だった。

開始後すぐにそれに気付き、理由を探し始めた。しかも対戦相手であるミランは当然のように451を採用している。同様に451も選択できたはずのローマがわざわざ4141を採用した理由とは?答えはローマのチームとしての特徴にあった。


■4141の新たな可能性

ローマは前線からのプレッシングが1つの“売り”となっているチームだ。プレッシング開始位置がハーフウェーラインよりも前なのは当然。センターサークル先端よりも更に前に開始位置を設定する事もしばしばで、分類するなら攻撃的プレッシング、超攻撃的プレッシングを得意とするチームだ。敵陣深い位置で相手からボールを奪取し、ショートカウンターを狙っているのは言うまでもない。

しかし、ローマの4141は陣形の縦の幅は基本的に20〜25mと非常にコンパクトに保たれており、守備陣形としては理想的なものだった。ラインが4つあるにもかかわらず、間延びはしていない。442や451等、ラインが3つしかないシステムと同じ縦幅で守備陣形を組む事ができている。

さてここで気付いた事がある。ローマが敵陣から攻撃的プレッシングを仕掛ける際、『2列目のフォローが速い』のだ。何故か?それは4ラインが理由だった。

もしローマがこの試合で3ラインの451を採用し、縦幅を同じ20〜25m間隔に設定したと仮定すると、MFのラインはDFラインとFWラインの中間、DFラインのおよそ前方10〜12m程度に位置するはずだ。しかしローマが採用したのは4ラインの4141。20〜25mの縦幅の中に、アンカーとMFの2つのラインが存在している。であるならば、アンカーのラインはDFラインの前方7〜8m。MFのラインはその更に7〜8m前方に位置する事になるはずだ。

お解りだろうか?MFのラインが451だとDFラインの前方10〜12m。4141だと14〜16mとなり、『4141のMFラインの方が4m高い位置にある』のだ。つまり『プレッシングの開始位置が敵陣に4m近い』(この試合の芝目1つが5.5m。ほぼ1つ分に相当)。これが『プレッシングの際にローマの4141の2列目のフォローが速い理由』だ。プレッシングの開始位置が近いという事は、相手は即座の決断を強いられる。相手からスペースと時間を奪う事に繋がる。ローマはこうして敵陣高い位置でショートカウンターを狙う&相手にアバウトなボールを蹴らせて回収するというゲームモデルを実現したのだった。

なお、「だったらプレッシング部隊を増やして最初から442で守ればいいのでは?」との意見もあると思うが、ディ・フランチェスコ監督は“いいとこ取り”をしたかったのだと思う。常にプレッシングに行くわけではなく、自陣に引いて4141で5レーン封鎖し、ミランの攻撃をサイドに誘導して…という形も何度も見られたので、前にも行ける&自陣に引いても守れる4141を選択したのだと思う。

思い返せば、14年ブラジルW杯でオットマー・ヒッツフェルト監督に率いられたスイスと、ファビオ・カペッロ監督に率いられたロシアが、相手のビルドアップの形に対応するために4141から両インサイドハーフを1列上げ、514とでもいうべき形(SH-IH-CFW-IH-SHの5枚で半円状のバリアを築き、内側へのパスルートを遮断するイメージ)で守っていたが、ディ・フランチェスコ監督の4141はあれを更にプレッシング寄りにした形だと感じた。自陣に引いて守るための4141ではなく、果敢に攻撃的プレッシングを仕掛け、敵陣でボールを奪うための4141。「前線からプレッシングに行くには適当ではない」と感じていた4141が、攻撃戦術の進歩と共にポゼッションの方法論が洗練されてきていき、それに伴う守備戦術の進歩の中でプレッシングの重要性が更に増した結果、ブラッシュアップされて新たな使い道が産まれた事に、サッカーの奥深さを感じるのだった。


それではローマの4141の実際の振る舞いを動画に切り出したので最後に貼っておく事にしよう。なお、プレッシングの際にインサイドハーフが列を上げた時はアンカーのデ・ロッシが連動して列を上げ、442に可変するのが基本的な約束事になっている。

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