2015シーズン ネルシーニョ神戸の攻撃戦術 その2 ex.湘南vs神戸

第2弾でございます。今回は湘南の523解説から。

高速トランジション(攻守の切り替え)からのカウンターでJ2を席巻し昇格してきた湘南。昨季までの541にアレンジを加え、今季は523を採用。共に343からの派生みたいなシステムだけど、541では中盤サイドの守備に入る選手がそのまま前線に残ってプレスを掛ける形と思っておいてください。詳しくは後述。

神戸の攻撃については、狙いは前回の甲府戦に手を加えた感じ。前述の通り湘南のシステムも似たようなもんだしね。この日もやっぱりボランチ脇に位置する2シャドー、マルキ&小川。なお、甲府の541と違って、湘南の523はSHが居ないので、マルキ達はサイドから斜めのボールを受けやすくなっております。

ここからは523についての解説。まず図を見て頂きましょう。

この通り、523には明確な“システム上の穴”がある。それは「サイドにエアポケットがある」こと。541と違い、523はサイドに1人しか居ないため、どうしてもサイドにスペースができる。相手は当然そこを突いてくる。

しかし。しかしですよ。それが罠なのです。

前線の3トップは中央から割らせないために内側に絞り、中のコースを消す。代わりにWBの前にスペースを空け、ボールをそこに入れさせ、「奪い取る」のが523の狙い。相手の攻める箇所/方向を限定できれば予測もできるし、予測していれば痛みに耐える事だってできる。そして前線の3トップでカウンター。肉を切らせてなんとやら。それが湘南の用いる523の狙い。

サイドに入ったボールに対してWBがプレスに行き、横パスをボランチが狩る準備。スライドしてきた3トップが後方へのバックパスのコースを遮断、加えてCBは残りのFWが見ているので、そこにも出せない。唯一出せそうなのはGKぐらい。極端に片方のサイドに寄せているので、湘南はサイドチェンジされるとマズいんだけど、こうしてボランチにCBという中央部分を抑えられているので、そこ経由のサイドチェンジはできない。GKに戻してサイドチェンジする分には一向に構わない。だってスライド間に合うし、サイドチェンジを行うのは「ボールを前進させるため」なのに、後方に戻してくれるんだから逆にありがたいってもんで。

さて、神戸がこれをどう打開したか。前回と同じ3421を用い、シャドーをボランチ脇に位置させた事に答えがある。

神戸が2シャドーをボランチ脇にポジショニングさせた事により、やはりCBが2人余ってしまう湘南。ということは、どこかで神戸の選手が2人フリーになっているはずである。答えはボランチ。ウヨンとフェフージンが自由を得る事となり、ここを起点にボールが動く。後方が3バックvs3トップという図式になっているので、ボールを前進させるのに困らないようにウヨンがDFラインに落ちてボトムチェンジ、4バック化を促す。所謂ミシャ式である。

こうなると、湘南の3トップはSBの位置に移動した岩波と高橋祥平に対してプレスに行くことが容易ではなくなる。だって中央に寄って中を固めたいのに、SBの所に行ってしまっては固めたはずの中が空くから。そしてサイドで2対1を作ることに成功した神戸が前半の主導権を握る。

そしてもう1つ。湘南的にはサイドに出されるまではいい。そこで奪えれば。奪えなかったので主導権を握られてしまった。その訳をどうぞ。

図の通り、WBにはWBが。シャドーにはボランチが。バックパスのコースはWGが塞いだ。でも、シャドーにボランチが付いてしまったので、神戸のボランチが1人フリーになっていたのだ。3人までは捕捉したが、4人目を捕まえきれなかった湘南。経由されてはいけない中央を経由してボールを動かされる。逆サイドには広がるスペースと数的不利が待っている。曺貴裁監督はボールを奪い、カウンターを繰り出すためにしっかり準備をしていたが、その上を行くネルシーニョ。名将だなぁ。

(余談ですが、この“4人目”を抑えこむために、湘南は1週間後の柏戦では3トップの真ん中に山田直輝を配してトップ下のような役割を課し、5212を採用。“4人目”となるアンカーの茨田のマークに付けるという策に打って出ました。転んでもただでは起きない曺貴裁監督もまた名将だなぁ)

そして先制点の時もサイドでの数的有利を活かした神戸。まずはハイライトをどうぞ。51秒から。

この時の様子を図にすると以下の通り。

この時はボランチがサイドに釣り出されてますが、大槻がバイタルまで帰ってきていたので、数字上は532のようになってました。しかし、大槻が下がっていた分、峻希から高橋祥平へのパスコースはがら空き。そしてその前のウヨンへのコースも空いていた。この時、マルキが非常に巧みな動きを見せたのですよ。

マルキはボールを貰うために真っ直ぐ下がるのではなく、「ボールに寄るように斜めに下がった」。これが非常に良かった。

ボールに寄るように下がったことで、中央に居た千真とポジショニングが被ったようになってます。このお陰で、千真をマークしていたアンドレ・バイーアはチェックに行けなかった。マルキに行けば千真がフリーになってフリックで出されてジエンド。当たり前ならCBの三竿が付いて行くべきだったけれど、そもそものシャドーのポジショニングは「ボランチ脇」。三竿はボランチに任せるか、付いて行くかの一瞬の判断を迫られたというわけ。しかも安易にDFラインにスペースを空けると、そこを使われる危険性もある。大外からは奥井がオーバーラップして間違いなくそのスペースを狙っている。三竿はその判断が瞬時にできなかったので、ここでマルキに付いて行けなかった。

このようにバイタルで完全にフリーになることができたマルキ。慌てて永木がすっ飛んで来るものの後の祭り。痛めた足首を物ともせず、放物線を描く綺麗なミドルを決めてしまうのでした。まる。

先制点はボランチ脇を活用することで生まれたサイドでの数的優位と、マルキの個人能力が上手く噛み合わさって生まれたもので、システムと起用法の両方がハマったネルシーニョとしては会心の得点だったのではないかと。

今週末は同じ523を用いる山形との対戦なので、対湘南との差異を観察するのもいいかもしれません。なお、山形のWBは「SBにも持たせねぇ!」と3トップ脇までプレスに来るカミカゼアタックです。プレス強度半端ないです。ウチはサイドの穴を解りつつもカミカゼプレスからのカウンターで轟沈しました…。というわけでネルシーニョのお手並み拝見と行きましょうかね。

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