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お笑い芸人に憧れた結果、公認会計士芸人になっていた理由


4月下旬頃から、キリンビールさんのCMにガッツリ出させてもらっています。ひとえにスタッフの皆様と利重剛さんのお力のお陰で、グッとくる素晴らしい作品になっていると思います。
https://www.youtube.com/watch?v=FE4-cZmh4gM

キリンビール 大

テレビでも流れていますので、鉢合わせした時には優しく見守ってやってください。

「大学を出たのにお笑い芸人になると言い出した息子と父親」という、これは自分達の実話なのではないかと思うくらい親近感の湧くストーリーで、自分がお笑い芸人を始めるときの気持ちを思い出してしまいました。

※ここからはCMの内容とは全く関係なく、自分の話です。

高校生になり、周囲が志望校を決め出す頃、僕は「養成所に行くので大学には行かない」と初めてちゃんと両親に言いました。
小学生の頃からお笑い芸人になりたいと口にしていたし、文化祭でお笑いをやったりもしていましたが、両親はまさか本当にその道に行くとは思っていなかったようで、びっくりしていました。

それもそのはず、僕は何不自由ない環境で育ててもらい、見るからに進学校なルックスに成長していたのです。

星野 高2-2

常温の麦茶を飲み、私服はお母さんに買ってもらっていたこいつが、「もう勉強なんてしない、俺は夢を追う!」と言い出すのですから、そりゃあ両親もがっつり止めます。「大学には行って欲しい。そして、何の食い扶持も無いのに、成功確率も低くて安定しないお笑いの世界に行くのは心配」という意見も納得でした。

ただ当時16歳そこらの僕は、(厳しい世界なのを承知でお笑いをやりたいと言っているのに、なぜ息子の覚悟を分かってくれないんだ…周りが思っているより断然本気なんだぞ…!)と、なんかめちゃくちゃ怒っていました。

こういうケースでは、①両親の言うことを聞いてお笑い芸人になるのを諦める か、②両親と勘当してでもお笑い芸人になる というどちらかになることが多いと思うのです。ただ当時の僕は、進学校育ちの影響か両親と勘当するような気概は無く、かといってお笑い芸人になる夢も諦めたくありませんでした。

その結果、③大学には行って、かつ公認会計士の資格を取ってからお笑い芸人になる という選択になりました。「なりました」というか、半ば強引に両親にそう宣言しました。

当時、これは名案だと思いました。食い扶持がないというのなら、食い扶持になりそうな資格を取ればいい。数ある資格の中で公認会計士という資格を選んだ理由は、資格情報のパンフレットを見て、「誰でも受けられる資格の中で、一番難しい資格」と書いてあったからです。この資格を取れば、もう両親に文句を言われる余地はないだろう!!!俺はそれくらい本気なんだぞ!!という虚栄心と勢いで生まれた宣言でした。

パンフレットに「難しい」とは書かれていたものの、僕は公認会計士という聞いたこともない資格をナメていました。すぐに受かると思っていました。

運良く進学先の大学も推薦で決まった高校3年生の秋、(悪いが俺は漢検2級も英検2級も一発合格なんだよ!)とイキりながら、本屋さんで公認会計士試験の参考書を開いて愕然としました。
1ページも意味が分からない……分からない言葉をネットで調べてみましたが、その説明の言葉も分からない……独学で取り組もうとしましたがあまりにも歯が立たなくて、60万円つぎ込んで、大学に行きながら、公認会計士試験のための予備校に通い始めました。

本末転倒です。「もう勉強しないでお笑いをやる!」と決めたはずが、養成所代にするつもりだったお金を使ってまで勉強している。それどこか、必死に勉強しても、予備校の小テストでは毎度クラス最下位。模試も当然のようにE判定。そもそも1次試験の合格率って3.5%らしい。勉強を始めて3か月ほど経ってようやく気付きました、公認会計士試験は狂っている。

星野 高2-2


なんで16歳の君は、よく知りもしない「公認会計士試験」を選んでしまったのか。リアルにお金を稼げそうで、そこまで難しくない資格とかも探せばあっただろ、と当時めちゃくちゃ後悔しました。
ただ両親に宣言してしまった手前引き下がれず、そこからの1年半は、毎日14時間勉強漬けの地獄の日々を送りまして、奇跡的に合格することが出来ました。当時の僕の合格体験記の見出しが、「全身全霊を捧げた時、…」で始まっているあたり、いかに疲弊していたかが分かると思います。

体験記

ただ、公認会計士という資格は試験に合格したらもらえるものではなくて、合格後3年間の研修、同時に2年間実際に現場で働いて実務経験を積むことで、ようやく資格を取得できるのです。

実務2年はめちゃくちゃ重かったです。普通に就職して、週5で働いてそれなり残業もあるし、何より仕事に責任が伴う。なぜ最初の時点で、実務要件のない資格を選ばなかったんだ…と再び後悔しましたが、なんとか研修と実務要件をやり切って、24歳の時にようやく公認会計士の資格を取れました。

「公認会計士の資格を取ってからお笑い芸人になる」と両親に宣言してから8年もかかったけれど、これで親にも義理を果たしたぞ、お笑いが出来るぞ、という高揚感のもと、念願かなってお笑いの養成所に入ったのです。

いざお笑いの世界に入ってみると、周囲からの自分の見られ方は自己評価とちょっと違いました。
【公認会計士の資格持ってお笑い始めた24歳。2年間公認会計士として働いていた】という状況は、端から見たら【人生余裕の公認会計士が、遊びでお笑い始めた】と思われてしまうんですね。

「本気じゃないなら早くお笑い辞めた方が良いんじゃない?」「公認会計士で人生余裕モードだと思うと正直応援出来ない」など言われることも結構ありました。

そりゃ相手の立場からしたらそう思うだろって感じだし、お前が勝手に公認会計士を目指したんだろって感じなんですが、最初のうちは誤解されるのが悔しくて、「違うんです!!僕は元々お笑い芸人になりたくて、高校生の時に…」とイチイチ説明しようかとすら思いました。

ですがここまでこうしてスクロールしてもらって分かるように、説明がかなりのボリュームになってしまいます。初対面でこんな長たらしい説明をカマしたら、もう2度と会うことは無いでしょう。メディアに出るにしたって、自己紹介でもらえる時間は10秒程度。
だから僕は、「公認会計士芸人」になるまでの背景を理解してもらうことを諦めるようになりました。

そして、むしろ相手がイメージするような「公認会計士芸人」の人物像にあった振舞いをすることが、自分に求められることなのかなと思いました。
これで笑ってもらえるのなら…と思って、"お笑いより決算のことばっかり気になっちゃう人"として振舞ってみたり、公認会計士という資格にピンと来ない人も多いので税理士にも登録してみたり(※公認会計士は試験を受けずに税理士の資格を得ることが出来る)。養成所に入ってからこれまで、みんなが思うような公認会計士芸人像に添い遂げようと励んできました。

振り返れば小学生の頃、めちゃイケで見た岡村隆史さんみたいになりたいなと思って、笑う犬みたいなコント番組が楽しそうだなと思ってお笑いを始めた自分は今、芸人仲間やお客さんたちの給付金や確定申告の相談窓口になっています。出発地点から見ると、だいぶ沖に流されています。ただそれが、資格を持っている芸人がお笑いと共存する1つの形なのかなと思っています。

一方で、「コントが好きです!」「ずっと芸人になりたかったんです!」というストレートな思いは、公認会計士芸人の自分が言っても観る人の心に届かないだろうから…と心の中に抑え込むことが増えました。どう形にしていいかわからなかったのです。

それが今回、奇跡的に若手芸人役という形で、会計士とかを抜きにしてCMの撮影に参加させてもらえて(奇しくもCM中では「税務調査」の漫才をしているけれど)、親とお笑いへの気持ちをストレートに出すような不思議な体験ができたことに、本当に感謝しています。ああ、そうだよねえ…と自分の気持ちを確認出来ました。

そんなタイミングだし…ということで、思い切って公認会計士芸人になるまでの背景を文章にしてみました。「公認会計士芸人」ってよくわからんと思っていた方に届きますように。

投げ銭も事業所得に計上する所存です