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金貸し父さんと人を縛る紙【バックナンバー集05】

ごきげんよう。
今年もお盆が終わりました。父の7回忌の年にも拘わらず、例によって墓参りにもいかず親不孝をしてしまいましたが。
とはいえ定期的に彼の説教を思い出すので僕としては墓参りなんかよりもずっといつも彼を弔っているつもりではいます。
ナニワのノンバンクのおっちゃんだった父のどんな説教を思い出したかと言うと、、、

私には一人の父が居た。一人は金貸し父さん。以上である。

※この記事ははてなダイアリーで2016-08-23に公開された記事のバックナンバー記事です。

小学校高学年の頃の話です。
今ではすっかり忘れ去られた機械ではありますが、うちにはワープロ(ワードプロセッサ)というメカがありました。
なんだそれ?という若者はググってください。
これは父が様々な文書を作る為に持って居たようなのですが、僕はよくこのワープロをオモチャにしていました。
罫線で絵を書いたり、外字作成モードでドットで顔文字を作って印刷するという遊びです。

僕はもちろん子供なのでこのワープロで金貸し父さんがどんな文書を作っていたのかを知る由もなかったのですが、ワープロをオモチャにしている分にはなぜか父は怒ったりはしませんでしたし、それどころか使い方を教えてくれました。

まぁご想像の通り彼が作っていたのは心のこもった「督促状」や「通告書」だったようなのですが、ある時、僕は父が何の文書を作ってるのかを聞きました。

そうすると父は僕に「そこへ座れ」と言いました。
僕は後悔しました。そう説教が始まる合図です。

僕は正座で父の前に座りました。

父「ええか?人に何か貸したり、約束したら必ず紙(契約書)が必要や。」
僕「必ず?」
父「そや。必ずや。」
僕「誰でも?」
父「そや。誰でもや。例外はない。よう覚えとけ。」
父「紙が無いいうことは後から何を言われてもしゃぁないいうことや。世の中にはな。電話で約束した話を『あんたあの時そう言うたやないですか?』って裁判所で問い詰めても『それは、うちに入った泥棒があんたからの電話を取ってそういうたんちゃいますか?』て平気でウソを言う人間はいくらでもおる。口でした約束は役に立たん。必ず紙が必要なんや。」

そう話す父の顔はとても恐ろしいものになっていました。
僕は下を向いて小さな声で「わかった。」と言いました。

この話を聞いたときは、世の中にはそんな酷いウソつきが僕が知らないだけで沢山いるんだなぁ。世の中には「悪い奴」が居るもんだなぁという感想を子供心に持ちました。
そして長らく父の話はそういう悪い奴から身を護る為に必ずきちんと契約を締結し、文書に残さないといけないという教訓だと僕は思っていました。

しかし、会社をやるようになってからですが、ちょっとこの父の話の捉え方は違うなと思うようにもなりました。

どこかに「悪い奴」が居るのではなく、きちんとルールが定まりお互いが確認できる形に残されていないから「元々は善良だった人」が「悪い奴」になってしまうのではないかと。
そして、そういう意味では自分自身も誰かにとって「悪い奴」になる可能性を常にもっているんではないかということも思うようになりました。

人は生まれながらに正直な善人とうそつきな悪人に分かれているわけではない。
人は弱い生き物です。
人が置かれる状況は常に変化します。
それでもお互いに常に真摯に向き合い、相手の存在と権利と尊重する努力を続けることで「善良な人」を更新しつづけないといけないその苦しい長距離走のペースメーカーとして契約と契約書が存在するのではないか。
金貸し父さんはだからこそ「相手と自分がきちんとした人間であり続けたいなら約束事はいついかなる時にも紙に残せ」と。
そういうことだったのかな。
そう思うように変化しました。最初に正座させられた時から20年以上を経て僕は30歳を過ぎていました。

完。

と言いたいところだったのですが、40歳を目前にしてまた最近、「いやそれでも紙を起さない関係というのもあるしむしろそちらの方が約束としては重いかもね?」と思うようになってきました。
2回目の心変わりです。

特にビジネスの世界は意外に狭く、故に個人の信用のみを担保にしたほとんど契約書がない世界というのも多いことを知ってのことです。
ある種電話一本で話が決まる世界では、酷い不義理をするとあっという間に誰にも相手にされなくなる。紙がないからこそ常に襟を正さなければいけないのではないか?
とも思うようになりました。

金貸し父さんの真意はさっさと死んでしまったので結局確認する術はありません。
今頃上の方から「ほんまにお前はあほやなぁ。」と笑っている気もしますね。

ちなみに最近、小中学校の同窓会に出席した今でも連絡を取り合うたった一人の大阪の友人と話したのですが、
「同窓会でおまえが東京でがんばってるって言ったけど、覚えていたのは◯◯子ちゃんだけだったわ(笑)」
とのこと。
僕は嬉々として
「◯◯子ちゃん!!俺彼女好きだったんだよね~背が高くて美人だったよね~」
と言ったのですが、
「うん。よく覚えてるって。お前、小学校の時に彼女に頑張れゴエモンのファミカセ貸してワープロで作った借用書取ったんだって?最低な奴だったからよく覚えてるって言ってたよ(笑)」
とのこと。

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やっぱり金貸し父さんの墓参りなんか行くもんか。

さて、契約や契約書は大切ですが、それはいつ誰からどういう内容で学ぶのが良いのでしょうね?
僕も何が正しいのかはわかりませんが、なにはともあれ今日も持ち場で真摯に頑張るのが良さそうです。

では

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