【DTM】VI Labs Ravenscroft 275 レビュー

今回はVI LabsのRavenscroft275レビューです。UVIWorkstationでの使用。

【オススメ度】:★★☆☆☆

【総評】:全体的に優しく綺麗な音色で収録状態も良いが、離鍵時の音の切れ方にUVI系共通のモワッとした癖があり、使える曲が限定される。同時発音数の問題も。

画像1

 まず最初にこの音源の最大の特色ですが、Ravenscroftというスタンウェイでもヤマハでも無い珍しいピアノのサンプルを収録しています。(Ravenscroft社公認)

 全体的に優しく甘い、それでいてクリアで綺麗な音色です。こういう優しい系の音色で無駄な残響がなく音もこもっていないのは非常珍しいタイプですね。良いと思います。

 ただ、この音色の響きは結構独特です。所謂Steinwayやfazioliの様な濃厚さや重心の低い芯がある音とはちょっと違う感じで、強く弾けばYAMAHAのブライト&軽快さ、やさしく弾けばBosendorferの丸さ暖かさといったようなハイブリッド系な音色変化をします。

画像2

 マイクはCLOSE、ROOM、PLAYER、SIDEの四種類。個人的にはplayerポジションが音色・定位等の収録状態が良く、最も汎用性が高いと思います。次にclose&roomの組み合わせも良いです。

 マイク4本とはいえど、組み合わせを考えていくという感じではないので、基本的にはPLAYER単発で使うかCLOSE&ROOMの組み合わせで使うのが良いと思います。SIDEポジションは定位に癖があるので個人的には単発でも混ぜる用途でも使いにくいと思います。

 なお、フェーダは一見すると数値管理できなさそうな画像ですが、ダブルクリックすると数値入力ができるようになります。他のツマミ類もダブルクリックで数値管理ができるので、ちゃんと精密な調整ができるのでご安心ください。

 ただ、一方で以下の通り、大きな欠点も結構あります。それでは包み隠さず一つずつ見ていきましょう(笑)。

 まず、離鍵時のリリースの不自然さがこの音源の最大の弱点となります。これはUVI系の音源全般に共通しているのですが、離鍵時の音の切れ方がモワッとムニョっと癖のある途切れ方をします。特にスタッカート等で弾いた時には顕著で、非常に気になります。曲によっては致命的です。

 プログラムの構造として、非常に短いリリースタイムの原音と、派手なリリースノイズをクロスフェードさせるような作りになっていますが、これが非常に不自然な鳴り方をします。

 でも何故か最近はこの手の製品が多いです。UVI系全般、Keyscape、Rhapsody Grand piano、Ez keys等が同様の構造で同じ問題を抱えており、離鍵時の音が自然に減衰をする音源は非常に少ないです。

 特にこの手の音源では派手なリリースノイズが気になってオフにすると理鍵時にぶつ切りになり使い物になりません。リリースタイムの設定を伸ばしそうとしても次の問題にぶつかります。

 ピアノ音源は基本的に低音域から高音域にかけてリリースタイムに傾斜がかかっていて低音側はリリースタイムが長く、高音側はリリースタイムが短いです。なので、設定でリリースタイムを伸ばすと、低音域はだらしなく音が残り、低音域で適切なリリースタイムに設定すると高音域はぶつ切り状態になるというジレンマに陥ります。UVIWorkstationではKontaktのように中身まで完全エディットはできないのでこの問題は解決方法がなく、どこかで妥協するしかありません。

 この問題があるのでVI Labs社やUVI系の音源は歯切れの良い和音のバッキングや跳ねる様な曲には全く向きません。音色の傾向は良いのに、このリリースの挙動問題で使える曲が限定されてしまうのは非常に勿体無いですね。

画像3

 次に、同時発音数の問題です。画像の通り、同時発音数(POLYPHONY)の設定はMin、Med、Def、Full、Maxと非常に曖昧な表現になっており、実際に何音まで大丈夫なのか不明です。

 何音が限界か正確には検証してはいませんが、実際にMAX設定でペダルをずっと踏みながら滅茶苦茶に弾いてみると、UVIWorkstation上の表示でマイク単発で100音程度、マイク4つだと45音程度が限界でした。聴覚上はもっと鳴っていないような気がします。(環境依存かもしれませんが、当方Core i7-9750H、メモリ32G、m.2 NvmeSSDですので低スペックという訳ではありません。)

 ちなみにこれはレゾナンス系を全てオフにした状態でこれです。オンにすればもっと減ると思われます。さらにこのレゾナンス系もまた問題ありで、SYMPATHETIC RESONANCEは最大設定でも40音までとなっており、特にレゾナンス関係は普通に弾いていても明らかに途切れている・消えているのが分かります。レゾナンスの鳴り方も非常に不自然なのでこういう余計なものは全部オフにするのが良いでしょう。

 ノイズやレゾナンスを全部オフにすれば、先ほど私が提唱した「PLAYER単発」or「CLOSE+ROOM」位ならば、まあ一般のポップス曲なら大丈夫かなという感じです。この同時発音数も結構大きな欠点だと思います。

 次に、これは欠点かどうか微妙なところですが、中域部の音色にこの音源の癖があります。

 具体的な指摘をすれば、まずG#4とその付近が「ポン」と何とも言えない鳴り方をします。よく言えば丸く優しい音で単音でポロポロと弾く分には良いのですが、和音をジャーンと鳴らそうとすると何とも混じらなくて締まらない音になります。これが先ほどの離鍵時の音の途切れ方の不自然さと相まって歯切れのよいバッキングに合わない理由となります。

 また、鳴り方に関してはD#4(UVIWorkstation上の表記)の音色も気になります。closeマイクではこの鍵盤だけ、ペコンと鳴り損ねたような弱々しい音です。roomマイクではこのD#4だけ金属音が左から聞こえるので、roomを混ぜるとこの鍵盤だけ左に寄る/左から聞こえる感じで定位に違和感を感じます。メロディラインでD#4がたくさん出てくる曲ではroomマイクポジションはNGだと思います。Playerポジションマイク単発の場合はこの問題はありません。

画像4

 なお、ベロシティは謎に自由度が高いです(笑)。左のベンドでカーブを曲げる一般的な調整もできれば、マウスで直接カーブを描く事もできます。鍵盤を弾くとインとアウトのベロシティが表示されて数値的にも分かりやすく調整できます。(他の項目もこれくらい自分でいじることができれば多くの問題を解決できるのに…)

【総評】

 まあ、そういうことで音の方向性は良く、収録状態も悪くないのに、設計思想とソフトエンジンに大きな問題を感じます。バラード等であまり音数が多くなく、コードの切り替えタイミング以外ずっとペダルを踏んでいるような曲では問題なく綺麗になりますので、そういう用途では良いと思います。本当に音は良いのにもったいないというのが正直な感想です。

この記事は以上です。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?