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[絵本-1] 山のむこうのガイール

山のむこうに、ガイールが住んでいる。

ガイールを見た人はいないけれど、すごくおそろしいってうわさ。

ある人はこう言う。

" ガイールは大きくて黒くて、いつも人が嫌がるはなしをするんだ "

また、べつの人はこんな風に言う。

" ガイールは小さいけれど、たくさんいて、毒を持っている。"

ガイールのことをみんな違った風にいう。

だけど1つだけ、みんな怖がっているというのは同じだった。

大人はこどもが悪いことをすると、ガイールが来るよとおどした。

だから、こどももガイールのことはよく分からないけれど、怖がった。


あるとき、まちの楽器やさんで男の子が生まれた。

楽器やさんのご主人とおかみさんも、他の大人たちと同じようにガイールのことをこどもに教えてやった。

だけど、いつもチューバを吹きながら話すもんだから、こどもにはうまく伝わっていなかった。

" ガイールはね、トロンボーンのように長〜い <<ブォォォ〜>> 色はとてもあ <<ブブ〜>> そしてとっても <<ポォ〜ン>> なんだよ "

という風に。


あるとき 楽器やのこどもは、ガイールのことを真剣に考えた。

そして、どんな生きものか見にいきたくなった。

この子どもはガイールのことなんて、ぜんぜんこわくなかった。

つぎの月曜日、山のむこうへ行くことにした。

リュックには、クッキーとハーモニカが入っている。

ガイールと一緒に演奏しようと思っているから。

山のむこうへ行くには、まずそこにある山をのぼる。

新しくでてきた芽が透きとおるように美しく、小鳥がさえずっていた。

楽器やの子どもは歌い始めていた。

そして山のてっぺんについて、いよいよ山のむこう側が見えた。

山のむこう側には........ただ山が続いていた。

ガイールのいそうな洞くつや石のかげ、水たまり、いろんなところを探したけれど、ガイールはいなかった。



そう、ガイールはいなかったんだ。



ガイールを作り出していたのは、みんなの心だったんだ。

楽器やの子どもは、すこしさみしそうにハーモニカのドの音をずっと吹いていた。


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