ボースの先

 六月に二本の企画ライブをする。


 ギリシャラブはいままでの三年半の活動のあいだにメンバーが三人抜けて、六人入ってきている。サポートメンバーの出入りも含めるともっと。はじめっからいるのは、ぼくと取坂だけになってしまった。いまのメンバーになって、まだ半年と過ぎていない。

 ところで、ドラムのトレーニングで、「ボース」というものがある。"both A and B" のボース。
 これは右手、左手、右足、左足を同時に叩くという、ただそれだけのものなのだけれど、やってみると意外にむつかしい。同時に叩いているつもりでも、「タタッ」という具合に、音がばらけちゃう。
 それにたとえばこれをそのまま演奏に転用しようとして、右手でフロアタムを、左手でスネアドラムを叩くと、深さが十三インチもある太鼓と、スナッピーが張ってある五インチかそこらの太鼓を、同じ強さで叩いたって綺麗なバランスで鳴ってくれない。
 

 ドラムというひとつのパートの中でも、これだけむつかしいのだから、バンド全体で「ボース」をやろうとしたら、それがどれくらい困難なことか、実際にそれに何度も何度もチャレンジしたぼくでさえ、言葉ではとても言いあらわせない。

 もちろん、そんなに求道的にずっとボースに向かって邁進しているわけではなくて、揃っていたらそれでいいのか、そんなことがあってたまるか、ボースなんてどうでもいい、というような、反抗心なのか、天邪鬼なのか、それとも単なる怠惰なのかわからないが、そういうボースと真反対のベクトルの力も大いにある。それにそれと連関したりしなかったりする、他の観点、他の立脚点、他の視座からの力や考えが、せめぎ合いながらうちのバンドは続いてきたし、これからもきっとそうだろう。
 そんなことばかりやっていてバンドが前に進むのか? ……わからないが、歩くしかない。

 繰り返しになるけれど、いまのメンバーになってから、まだ半年と過ぎていない。
 ずっとライブに来てくれているお客さんはわかるとおもうけれど、この半年、ぼくらのライブのセットリストには、ほとんど変化がない。
 新曲をやるのは簡単だけれど、それよりも、このバンドで、新しいメンバーたちと、やりたいことがあった。それは上に書いてある通り。でも、もうそろそろその先へいってもいい頃だ。ボースの先へ。

 六月十六日、六月三十日、この日、ぼくらは新しいライブを、新しい演奏を、皆にみせようとおもう。

いつもながら絵がすばらしい。高石瑞希作。

予約はこちらから。https://docs.google.com/forms/d/e/1FAIpQLSc_wEdedi5YQZeMX0_KoSvFkyrDyjhpj3Oy_cNgw5fzPHRGAQ/viewform

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