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風を描く絵 「海からの風」


このところの秋雨もひと段落して、今日は久しぶりに窓を開け放して過ごしている。
ぬるい風と、少し高く感じる雲の流れ。
残暑と呼ばれるそのままの気温ではあるが、真夏は彼方へ通り過ぎたのを悟る。
ぼんやり明るい曇天の空から風がゆるくふきおろし、カーテンがゆれる。


アンドリュー・ワイエスの「海からの風」に秋風を感じるのは何故だろう。
その鈍い光をたたえた空の色彩ゆえなのか、対比的に描かれている薄暗い部屋の描写のためなのか。
夏の日差しは過ぎ去り、窓の左側に見える海に訪れる人はない。残る轍は夏の残り香。
古いレースのカーテンだけが風に踊り、窓の外は静かだ。
少し黄色味を帯びたようなグレーの色合いと黄土色の草に、秋がひそんでいるようだ。
「祭りの後」という言葉がなぜか浮かんでくる。


不思議なことに、
真冬だろうが真夏だろうが私はこの絵を見るたびに、吹きよせる秋風を確かに感じてしまう。風の温度、におい、肌を撫でる感触までありありと。
そこにないものを再現させる力。

少し気だるくて寂しい風が懐かしくなったら、私はこの絵を想い、そこにない風を味わう。

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