政治ネタという「暗黒次元」に触れたいと思えない

人気漫画「BLEACH」に「憧れは理解から最も遠い感情だよ」という台詞がある。最初読んだ時はシチュエーションも相まって「なんて残酷な事を言うんだ」と憤ったものだが、つい最近になって身を以て実感する事になるとは思わなかった。

かの人気漫画「遊☆戯☆王」の作者、高橋和希先生のInstagramが数日前に炎上した。彼は「選挙に行こう」という趣旨のイラストを投稿したのだが、そのイラストでは「遊☆戯☆王」のキャラクターが社会への不満を口にしているのである。

参考:『遊戯王』作者、“政権批判”イラスト投稿で物議 一部で批判も「表現の自由の範囲内」と擁護の声も

キャラによる思想の代弁だけでなく、発言の過激さも問題となった。というのも、彼はコメントにて、現政権を「売国政権」と批判しているのだ。また、イラストでもキャラの一人が現政権を「独裁政権」と揶揄している。「独裁」はまだしも、「売国」はかなり強烈な罵倒だ。

今回の様な「キャラクターに作者の思想を代弁させる行為」は、ネット上では得てして嫌われるものだ。読者の多くは、キャラクターをひとつの自立した個体として認識している。そこに作者の主張が露骨に混入してしまえば、拒絶されるのも無理はないだろう。

更に、混入した思想は極めて荒れやすい政治ネタだ。例え現政権を賛美するような内容であっても、炎上は避けられなかったのではないだろうか。むしろ、政治に言及した事自体が炎上の大きな原因ではないのかとさえ思える。

現政権に対して不満を持つ事自体には何の問題もない。たが、多くの人に愛されていたキャラをプロパガンダに利用するのは悪手だ。コメントにしたって、売国政権なんて言葉を使わないで「消費増税を阻止する為にも選挙に行こう」だとか、いくらでも丁寧な言い方にできたのではないか。

おまけに、投稿されたイラストは秋に販売される画集の表紙を改変したものだ。本の顔とも呼べる部分が炎上のネタになったのだから、出版社側は今頃――炎上商法を利用したい魂胆ではない限り――頭を抱えているだろう。多くの社員が関わっている書籍の表紙を批判の道具にするのは、あまりに独り善がりだ。

どうして言葉を選んでくれなかったのか、他の人の事を考えてくれなかったのか。遊戯王は好きな漫画のひとつだっただけに、非常に残念でならない。

政治ネタは面倒で怖い

SNSでは、今回の炎上のような政治ネタを敬遠、あるいは嫌悪する人が多い。かく言う僕もその一人だ。だが、これは単に政治に無関心だからでない。少なくとも僕の場合は、「政治に言及する事で発生するリスク」を回避する為だ。身も蓋もない事を言えば、政治ネタは面倒かつ怖いのである。

Twitterのトレンドに時たま社会問題に関連したワードが出てくる時があるが、それに言及する呟きには結構な割合で罵倒が混ざっている。やれ「ネトウヨ」だの「パヨク」だの、そういったレッテル張りの罵詈雑言で溢れかえっているのだ。「#安倍政権支持って恥ずかしい」なんてハッシュタグまで存在する始末である。

また、芸能人のつるの剛士が安全保障関連法案に言及した際、過激な不支持層が一斉に彼を攻撃した騒動もあった。彼は「賛成派の意見も聞きたい」と述べただけであり、不支持層を非難する意図など一切無かった。にも関わらず、過激派は飛躍した論理で彼に噛みついたのだ。

参考:つるの剛士、安保関連法案「賛成意見も聞きたいなぁ」 正論なのに反対派から大バッシング受ける

今回の炎上騒ぎにしたってそうだ。様々な意見が飛び交い、同時にレッテル張りや罵倒も少なからず存在していた。正直に言うと、こうしてnoteに意見を張り付ける事さえ結構な勇気が必要だったし、投稿した今でも結構怯えている。

異なる思想を前にした以上、反論を述べたくなるのは致し方ない。だが、それにしても言葉が強すぎるし喧嘩腰にも程がある。あの罵声が飛び交う面倒で怖い空間――それこそ"暗黒次元"と揶揄できる場所に、一体全体誰が飛び込もうと考えるのか。

「若者が政治に無関心だ」と嘆く声は、もう何年も前から聞こえてくる。その理由に「無力感」などが挙げられているが、今となっては「政治の話題は面倒で怖い」というイメージが定着しているのも理由の内に入るのではないだろうか。面倒事を避ける為に人々は政治の話題を口にしなくなり、その結果無関心状態に陥ってしまっているのだ。

「売国」や「独裁」のような罵詈雑言を並び立てるより、冷静に政治を分析していた方が好感を持たれやすい。それこそネットの黎明期から言われているが、ネットに意見を投下するなら一度内容を見直し、強い言葉は言い換えた方が自分の為である。「あまり強い言葉を使うなよ、弱く見えるぞ」と思われかねない。

とはいえ、選挙には行くべきだと思う。せっかく投票権が与えられてるのだから、使わないと勿体ないだろう。

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