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憧れのエムガルティ デビュー!

片頭痛の診断がついてから1年とちょっと。
相変わらずトリプタンはよく効くし、正体不明の体調不良(と思っていた)に苦しめられたこれまでのことを思えば、何不自由ない生活を送っている。

ただ唯一気がかりなのが、トリプタンを飲む回数である。トリプタンも他の鎮痛剤と同様に、飲みすぎるとそれ自体が頭痛を引き起こす原因になることがある。なので、危険のない回数に抑えるために片頭痛の予防をしながら頓服としてのトリプタンを使用するというのが王道だ。
もともと私の片頭痛は、一度始まると3日間コースというかなり長めの部類に入るので、いきおい飲む回数も増えがちになる。診察の際に薬を飲んだ回数を告げると、毎回先生の顔が少し曇る。そして気圧のせいかストレスのせいか、かなり多めの飲用回数が続いたある日、ついに先生が予防治療の提案を口にした。

「フエコさんがご希望なら、予防もはじめましょうか」

ついに来た。あれかな? あれだといいな。内心の興奮を抑えながら、表向きは冷静に、副作用とのバランス次第ですね、なんてわかったようなお返事をする。先生がいくつかオプションを説明していく中に、そいつはいた。

抗CGRP抗体!

抗CGRP抗体はバイオ医薬品の仲間だ。
バイオ医薬品というのは、普通のお薬が鰹節だとすればカツオのたたきというか、とにかくナマモノであり、お値段も張る高級品である。患者が支払う金額だって高いが、それ以上の金額を健康保険が負担しているわけなので、おいそれとは使わせてもらえない。選ばれし筋金入りの片頭痛持ちだけが使えるお薬である。そして、飲み薬ではなく注射剤なのだけれど、病院に行かなくても自宅で注射できるよう、オートインジェクターといういかにも男子が大喜びしそうなガジェットで提供される。

バイオ医薬品! しかもオートインジェクター!

始めて内視鏡検査で自分の腸内を見た時と同じくらい興奮しながら、でも表向きは冷静に、ぜひ前向きに検討したい旨を先生に伝えた。

ネットで評判を調べてみると、「よく効いた」という声に交じって「痛い」という感想が目立つ。痛いのか、それは嫌だな。でも、痛くてだるくて吐き気がする片頭痛の100倍マシである。抗CGRP抗体は現在、3製品が上市されているが、効果や副作用、痛みなどにはどれもほとんど差がない。とりあえずエムガルティという薬を選んで、治療を開始することにした。

残念ながら初回からいきなり自己投与ではなく(当たり前)、病院で看護士さんが打ってくれることになった。エムガルティはナマモノなので冷蔵庫で保管されている。室温に戻すまでの時間、少し待合室で待機して、いよいよ処置室にお呼ばれする。机の上にはエムガルティの箱が2つ置いていある。思ったよりでかいので一瞬怯む。

痛いのかな。どれぐらい痛いのかな。痛いって言ったって、しょせんは注射でしょ。でも、痛いのかな。

生まれて初めてのオートインジェクターへの期待と、痛いという噂への不安が渦巻く。注射はお腹に打つので、看護士さんの前に腰かけてお腹を出す。そして……なんじゃこりゃ!

たしかに最近確実に太り気味だし、もともと若い頃からお腹は出ているほうだ。それにしても、腰かけた状態でお腹を上から眺めた光景はあまりに衝撃的だった。オートインジェクターへのワクワクも、痛みへの不安もすべて吹き飛んだ。

なんだ、このお腹は! いつのまにこうなった!?

自分のお腹に衝撃を受けている間に、あっというまに注射は終了。痛いっちゃいたいけど、痛いのはほんの一時だし、騒ぐほどの痛みではない。それよりこのお腹である。脂肪がついていたほうが痛くないような気もするけれど、そういう問題ではない。それは他人の目に晒してよいお腹ではなかった。次回の注射までに何とかしなければ。でも、どうやって?

大変恥ずかしい思いをしてまで注射したからには、効果を期待したいところだけど、今のところはなかなか良い感触。あ、今効いてるのかな? と感じる瞬間がある。それはそれとして、まずはこのお腹をどうしてくれようとじっと眺める日々である。


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