こどおじという灯火 (空気階段の踊り場)

TBSラジオ、「空気階段の踊り場」の「こどおじのコーナー」が大好きです。正式名称は「孤独なおじさん、いざゆかん」。孤独なおじさん(通称:こどおじ)のメールを紹介するコーナーです。

「こどおじ」という言葉は元々「子ども部屋おじさん」を指す言葉ですが、原義通りの実家暮らしの「こどおじ」もいれば、子どもも独立し、妻に無視され、職場では若者とギャップを感じ孤独を覚える「こどおじ」もいます。時たま孤独なおばさんこと「こどおば」からのメールが読まれることもあります。とにかく孤独を感じているおじさんやおばさんであれば、「こどおじのコーナー」の投稿対象者なのです。

こどおじのコーナーは、今年の春ごろに突如始まりました。今年離婚し、独り身となった鈴木もぐら。自分たちの単独ライブの転換中にイチャつくカップルがいたというタレコミメールを読み敵意の炎(?)を燃やします(トム・ブラウンのラジオでも「単独の転換中にイチャつくカップルがいた」というメールが読まれていたのですが、単独ライブあるあるなのでしょうか)。自分は孤独なおじさんの味方である。そんな意識を強め、「ラジオにはおじさんがおたよりを送れるようなコーナーがない」と気づき始まったのが「こどおじのコーナー」です。

こどおじ・こどおばに起こった出来事、感じたこと。誰かに聞いてほしい、でも聞いてくれる人がいない。そんなときに何でもいいから送ってほしい。どんな内容でもいい。そうして集められたこどおじ・こどおば達の日常や悲喜こもごもは、ほんとうにおかしく、いとおしく、くだらなく、サイコウサイコウサイコウ!で、月曜深夜24:45ごろが一週間でいちばん楽しみな時間となりました。こどおじがあるから、憂鬱な月曜も乗り越えられるのです。

人肌恋しくて、お家のクモとスキンシップを取ってみたこどおじ。風俗嬢に「洋服いい香りだね、柔軟剤何使ってるの?」と聞かれ、初めて親まかせにしていた洗濯に興味を持ったこどおじ。お腹のぜい肉を洗濯バサミでつまみ、家で踊るこどおば。モテないおじさんが若い女性に恋してひどい目に遭うフランス映画を見て、映画っていいものだなと感慨にふけるこどおじ。長引く歯医者の治療に「ビッグモーターかよ!」と憤るこどおじ。シモの毛が白くなってきたこどおじ。いろんなこどおじが、いろんな出来事や思いを番組に寄せてきます(自慰と風俗にまつわるエピが多いのは、番組の特色によるものでしょうか)。その勢いは留まることを知らず、こどおじ図鑑ができるのではないかと思うほどです。

そして何より、こどおじの哀愁にあふれるメールを読む、鈴木もぐらのメール読みが絶品なのです。こどおじから寄せられたサイコウの素材を、情感を込めた丁寧なメール読みで仕立て上げていくサイコウの腕のおかげで、布団の中で笑いをこらえるのに必死です。共振し合うこどおじの魂。そして空気階段のふたりはこのコーナーに限らず、リスナーの傷ついたり悲しんだりつらかったりするエピソードへの寄り添い方が素敵なのです。ときに一緒に怒り、笑い、ツッコみ、沈黙し、寄り添う。それぞれ色々とクズなところもあるふたりですが、波乱万丈の人生を送ったからか、痛みや苦しみを抱く人を軽んじることはしないので、安心して聴くことができます。

こどおじのコーナーではありませんが、やけっぱちになり番組にメールを送った、女子高生リスナーに電話する回のアフタートークは、ふたりの優しさや面白さ、青春の胸がギュッとなる感じを味わうことができ、オススメです。


なぜこれほどまでにわたしは、こどおじのコーナーに惹かれるのか。きっと何よりも「ラジオを聴いている人びと」を感じられるコーナーだからだと思います。有名ハガキ職人でもなく、ただ毎週のラジオを楽しみにし、つらい日々を生き延びる活力としている人。孤独をまぎらわせるために、ラジオをつけて眠る人。ごくありふれた「小さな人びと」の肉声。そんな人びとが確かに、同じ番組を聴いて、同じいまを生きようとしている。いま感じている「孤独」をネタにすることで自嘲的ながらも笑い、どこか楽しむような強さを見せている。「孤独」も、「おじさん」や「おばさん」もマイナスに見られがちな要素ですが、それを前向きではないにしろ、肯定的に受け止めるしなやかさを感じるのです。

荒波の多い人生の中、毎週同じ時間にいつもそこにいてくれて心の支えになる番組は、孤独や悲しい気持ち、つらい気持ちを照らしてくれる、灯台のように思えてなりません。愛すべきクズとも言える、空気階段というパーソナリティ。ふたりはむき出しの感情や人生をラジオでさらけ出しています。踊り場という灯台をよすがに、小さな灯火を見せてくれるこどおじ・こどおばたち。血の通ったいまを生きる人びとの肉声と、孤独を軸にしたはかない、でも確かなつながりが、この番組を聴いているときに感じられるのです。

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