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好きだけど一回だけ

2回続けてテレビ番組の話で申し訳ないが、
とある昔の映画をやっていて、まあ、懲りもせず、繰り返しおんなじ映画をやっているなあ、と思いながら、また観てしまった。

もう話の筋どころか、
セリフすらすっかり暗記してしまっているのに、
ついついまた観てしまう。

まだ観ていないものも、たくさん録画リストのなかに入っているのに、
どうしてもそれを観る気がおきなくて、
ついつい同じものを観てしまう。

きっと、自分の知っているものに「安心感」を覚えるのでしょうね。
「好奇心」よりも「安心感」を求める。
これを歳と言わずして、なんと言おう(笑。

もしかして、これって、お店選びにも言えることで、
お客さんの中には、
「いやあ、歳をとると冒険しなくなるね。ついつい同じ店に行っちゃう。」
なんて、照れ臭そうに来店してくれる方も多い。
何事も同じなのかもしれない。

こちらとしては、助かるのだけど。

ただ一方で、
生涯で一度きり、安々と二度観したりしたくない「大切な一本」というのも、
あるにはあって、
それはもう、その時の
・映画館の匂い
・座った座席のお尻の感触
・自分の着ていた服
・トイレの音の響き
・観終わった後お腹が空きすぎて、何を食べるかで口論になったこと
全てをすっぽり封印して、仕舞っておきたいくらいの、
一回きりの、大切な一本になっている。

そして、

やはりこれも、お店にしても言える事で、
何かのきっかけで、その店を訪れたら、すっかり気に入ってしまって、
それはもう、その時の、
・穴蔵のような個室
・控えめな接客
・適温のバター
・背伸びした白ワイン
・食後に自分の頼んだ珈琲に負けない、彼女の頼んだ紅茶の香り
時間ごと真空パックにして、仕舞っておきたいくらいの、
そんな思い出を壊すのが怖くて、二度と行っていない、
一回きりの、大切なお店。

どんな人にも、そんなお店が、あるのではないだろうか。

お店としては、それはそれで困るのだろうけど。

小説でいえば、
村上春樹さんの「世界の終わりとハードボイルドワンダーランド」などは、
生涯で一度きりしか読んでいない「名作」のひとつ。
大学2年の頃の、あの時の、
・風呂なし4畳半のアパート
・頭の上で鳴る冷蔵庫の音
・新宿のクイーンズ伊勢丹にしか売っていなかった「鯖のマスタード缶
・安物の白ワイン
・手でちぎったフランスパン
当時かけっぱなしだった、マイルスの「カインド・オブ・ブルー」と一緒に
ずっと仕舞っておきたい、
あれから二度と読んでいない、

そんな作品である。

ただ単に「長いから」というのもあるけれど・・・(苦笑。

さて、最近刊行された、
「街とその不確かな〜 」読もうかどうしようか・・・、
でも、やっぱり読んじゃうかな。
お客さんの反応次第(笑。

神保町へお越しの際は、是非お立ち寄りください。
メロンのカクテル」始まりました!!是非どうぞ!!
お待ちしております。

Flamenco Sketches / Miles Davis
Columbia Records
1959

(本文の最後に、お店でよくかける音楽を紹介しています。お家でお酒を飲まれる際に是非どうぞ。今度お店に聴きに来てくださいね。)

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