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【週間インタビュー】ゲスト『優勝トロフィー』 話を伺うと、そこにはまさかの衝撃転落人生が!?

《優勝トロフィーだったあの頃》

〜「今日はよろしくお願いします。」〜

「よろしくお願いします。なんか緊張しますね・・・
授賞式で渡されてからは、ずっと棚に飾られてただけなんで。」

〜「まずお聞きしたいのは、そもそもの出身はどちらですか?」〜

「江東区の工場で生まれました。
うちの母、あっ、工場長って言ったほうがいいですね。
工場長が、ゴルフコンペ用の優勝トロフィーが欲しいという依頼があって、
僕を作ったんです。それが最初だと聞いています。」

〜「綺麗なデザインですよね?」〜

「そうですか?ありがとうございます。
父が、あ、父は工場の従業員でサンプルのデザインをしてる方なんですが、
その方が素材にこだわる方だったようで、
夜な夜な父と母で何度も試行錯誤して私を作ったそうです。
ボディーのクリスタル素材にはかなりこだわったと聞いてます。」

〜「そして、ゴルフコンペの優勝者のお宅に
                   行くことになるんですよね。」〜

「はい。そうです。まぁ、僕は職場と呼んでいますが、
いまの職場に来たのが5年前ですね。」

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〜「5年勤めて、あなたのご主人はどんな方だったんですか?」〜

「会社では取締役をやっていたらしんですが、
いわゆるエリートって感じはしなかったです。
婿養子で、会社の上司の娘と政略結婚した方らしく、
家では尻に敷かれてましたね。
ゴルフが唯一の息抜きだったみたいですよ。」

〜「乱暴だったとかはなかったですか?」〜

「全然。穏やかな方でした。奥さんの方がヒステリックでしたね。」

〜「じゃあ、まさかの展開でしたね。」〜

「もうびっくりですよ。まさか自分が凶器になるなんて・・・」

〜「発端はなんだったんですか?」〜

「よく覚えてないんですが、夫婦喧嘩だったと思います。
ゴミ出したの出さないのみたいなことだったと思います。
そこから話が大きくなって、奥さんが最初に物を投げたんです。
それに対抗してご主人も物を投げ出したところから
喧嘩が激しくなったんです。
僕も投げられて・・・死んだと思いましたね。
僕ほとんどクリスタルじゃないですか?
割れると思いましたよ。
でも絨毯に落ちたんで大丈夫でした。ただ今思えば、
そこで割れてた方が良かったかもしれませんね・・・
割れてさえいれば、凶器になんてならなかったですもんね・・・」

〜「抵抗しようとは思わなかった?」〜

「抵抗なんてできませんよ。僕自身はどうすることもできません。
所詮トロフィーなんて渡されて飾られる以外何もできませんよ。」

〜「そしてとうとう凶器に変わるわけですね」〜

「はい・・・落ちた私を奥さんがおもむろにつかんで
そのまま旦那さんを殴ったらしいです・・・
最初に床に投げられた時、意識が飛んでたんで、
その瞬間の記憶はないんです。
気が付いたら、血がべっとり付いていて、
鑑識の方が、白いわたのようなものでぽんぽんしてました。
なんか指紋採ってたみたいです。
アレかなりくすぐったいですね。
我慢できなくて殺人現場で一人で爆笑してました。」

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〜「そして、また名前が変わるわけですね。」〜

「そうです。ここからはめまぐるしかったです。
凶器になって数時間後には証拠品と呼ばれて、
その後また凶器に戻ってから、
最後に「鈍器のようなもの」になったんです。
まるで出世魚ですよ。(笑)」

〜「《鈍器のようなもの》と呼ばれてどうでした?」〜

「もうそれが一番納得いかないんですよ。
どこからどうみてもトロフィーですよね?
ほら、ゴルフコンペ優勝って書いてあるじゃないですか。
なのに、事件のせいで「鈍器のようなもの」って呼ばれるんです。
「鈍器のようなもの」ですよ?
「のようなもの」って鈍器ですらもないかもしれないってことでしょ?
いやそもそも「鈍器」じゃないし・・・なんなんですかね?
「人のようなもの」って呼ばれたらどう思います?」

〜「嫌ですね。(笑)」〜

「そうでしょ!「人のようなもの」って
絶対「人」ではないじゃないですか?化け物でしょ?
「のようなもの」って付くだけで、化け物みたいに思われるんですよ!
なんで「トロフィーで殴った」って言わないんですかね?
しかも、凶器だけそういう言われ方するんですよ。
どうせボカすなら「人のようなものが、鈍器のようなもので、
人のようなものを殴り、殺人事件のようなものを起こしました!」って
そこまでやって欲しいです。
もうそこだけは今だに納得がいかないです。」

〜「そしてこの後、遺品となって遺族の元に戻るわけですよね?」〜

「そうですね。もうトロフィーにはもう戻れないってことですよね・・・
飾られてた時が懐かしいです。まだほんの1ヶ月前のことですよ・・・
ただこの前、鑑識の方から同じ境遇だった「バール」さんの話を
聞いたんです。
「バール」さんは、最初から犯行に使われるためにホームセンターで
買われて、そのまま凶器となって海に捨てられたそうです。
一度も釘を抜くことなく・・・
「バール」としてこの世に生まれ、
釘を抜くことを夢見てホームセンターに置かれたものの、
犯人に買われてしまったがために・・・
釘、抜きたかっただろうな〜。
それを思うとね、僕はまだトロフィーだったわけだから・・・
1度はトロフィーだった訳だから。少しはマシだったなと思いますよ。」

〜「最後に伝えておきたいことはありますか?」〜

「これをみている方々も、いつ自分が凶器になるかわかりません。
鋭く尖っていないならどんな人も「鈍器のようなもの」になる
可能性があるんです。
そのことを頭の片隅において生きて欲しいと思います。
まさか自分がなんて思わないことです。」

この後、遺品として遺族の元に戻った彼の消息はわかっていない。

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