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猫と私 #3 居場所は自分で決める

その日、私が仕事を終えて家に帰ると、家の中にいる猫たちの様子がいつもと違っていた。そわそわして落ち着かない様子で、しきりに私の部屋を気にしている。
当時、猫と一緒に寝る習慣がなく(というか、一緒に寝てくれないので)自室の扉は常に閉めている状態だったし、猫たちも普段は部屋に入りたがりもしていなかったのだが、やたらと部屋の前でソワソワしている。
何だろうと思いながら扉を開けた瞬間、冬の冷気が私の肌を刺して窓が少し開いていることに気がつくと同時に、部屋の中に一点、強烈な違和感を覚えた。

私のベッドでマイケルが寝ている。
しかも人間みたいに枕へ頭を乗せ、どうやってやったのかわからないがご丁寧に布団までかけていびきをかいている。

まさかの不法侵入

猫たちの落ち着かない様子の正体はコイツか。私はすぐに悟った。
どうやらベランダから私の部屋の窓を開け、侵入して寝ていたらしい。

「お前は野良だろ、ほらほら」と布団から追い出すも、すぐに布団に戻ってしまい一向に出ていく様子がない。
ついこの間まで「人間なぞ信じるものか」と唸っていた猫が、昔からの親友みたいな態度を取るようになったかと思えば、いつのまにか人ん家の、人の布団でヌクヌク寝ているのである。

このまま出ていかないつもりなら、仕方ないか。
早々に諦めると、喧嘩をするといけないので家の猫達を部屋から出して、私はマイケルの温めた布団に入って眠りについた。

明け方頃になるとトイレに行きたいのか私の顔をペチペチと叩いて起こし、ベランダに出ていったかと思えば、それきり戻っては来なかった。
野良の暮らしは明日知れず。
また明日な。と見送ったのが最後だった。なんてこともよくある。

この日の出来事も、マイケルにとってはいつもの一宿一飯に過ぎないのだろう。

そうはいっても野良は野良

と、思いきやマイケルはその日から頻繁に部屋へ侵入してきて、お泊りをするようになったのであった。
静かに寝たいので窓に鍵をかけると、開こうとしてサッシをガタガタ揺らしたり「開かないぞー」と言わんばかりにワオワオ物騒な鳴き声を出すので、余計静かに寝られず、根負けしてお泊りを許すことに。

後に二ヶ月ほど行方不明になって探し回ったこともあるが、結局マイケルは私の意志など意に介することなく、自分の居場所を決め、これを書く今も私の布団を温めている。
出会ってからもう十三年ほど経った。若い頃の勢いはないが、まだまだ壮健でもうしばらくは布団を温めてくれるのだろう。

マイケル近影 最近は病気知らず

ちなみに同じような経緯で我が家に一時期入り浸っていた野良猫のガブリエルも茶トラだった。茶トラの猫は人の家に勝手に上がり込む性質でもあるのかと疑いたくなるが、ガブリエルは冬のある日お散歩に出かけてそれきり行方がわからなくなった。
その後も、目撃情報が入るので生きてはいるようだが、あれはあれで居場所を自分で決めたのかもしれない。

勝手に上がり込む系 ガブリエル

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