ショートストーリー:『ある日のやりとり』(2022/06/03)

「勘違いをするのは思想の自由だが......」と、先生は机の下から頭をもたげた。
「僕にとってクイズというものはね、それ以上のものでもあり、そして、同時にそれ以下のものでしかない。──つまり、ただ"それでしかない"のだよ」

「えっと、、以上と以下の積集合を演算したら、それ自身しか残らない。よく言われるような『それ以上でもそれ以下でもないもの』は存在せず、また『それ以上でもありそれ以下でもあるもの』は全集合のように見えて、実はただの点ってことですかね」

「ワトソンくんは、本当に物知りだなあ~。やはり、きみがいてこその僕だよ。感謝しかない」

「えっと、つまり??」

「──つまり、ただ"それでしかない"のだよ(ドヤッ」

「いや、なぜ二度言ったし、しかも、ドヤ顔だし」と、我が意を得たりと安心したりなその顔に向けて、意味不明、謎でしかないですよと、私はウザったそうに、ジト目で応えた。

「言外のものを、人はついつい夢想しがちだが、それこそ、古典論理学的には同値である二式を、別のものとして捉えてしまうようにね。だけど、あれこれと感情エナジイで思考を発散させるその前に、先ずは字義どおりに、ただそれでしかないことを捉えることは、実にエレメンタリーなことだと思うのだよ。うむ。」

いうても、にゃーーんだけじゃ、なんもわからんて、と数刻前のやりとりを思い出す。

「先生は、いつも、わかるような、わからないようなことばかり言いますね。謎が謎を解いてるような謎の塊ですよ」

「だけど、何を意味しているのか理解らなくても、何かを言ってるのは理解るだろう?」
「わからないけど、わかる。片一方ではそれがわかり、片一方ではそれがどうにもわからない。片方がわかるだけに、わかりそうでもどかしい。完全な謎とは闇だ。無だ。片一方もわからないものだ。少し特別な訓練を経て、意識しないと意識にあがらない。それがどんなに深淵で最後には究極的に面白くなるような謎だとしてもね。」
「謎は、少しわかるところがあると途端に面白くなってくるのさ。それが解いていて面白いクイズを見つけるコツというわけだ。」

まぁ、わからなくもないですね。
わからんけど。

あ、口癖が移ってる。また、学習が進んでる証拠とか茶化されるぞ、はぁ。。

「ほほぅ! 深淵で意味不明な謎が、途端に面白くなってきたぞ! ひゃっほい! ふむふむ、ふむふむふむ!!」

「完全な闇をさぐり、少しわかるところを見つけた。──つまり、謎の手がかりを見つけたってことですね(ドヤッ」

「学習が進んできたな! ワトソンくん😆!」

はいはい、それじゃあ探しに出掛けますか。
本当にこの人は、謎の塊ですね。やれやれ。

扉を開け放ち、街へと繰り出す。
どこか薄暗い闇の奥で、謎が「にゃーん」とないた。

(終)

澤木恭介・著『問答企画佰物語』収録 ~それって、緋色の肉球…ってコト!?~より



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