チューリップ紫

連載『オスカルな女たち』

《 真実を語る 》・・・20

あたし、を望んでる


 真実はあえて、含んだ言い方をした。
「あんたを?」
 それは主治医として選んだことかと考える操(みさお)だったが、真実の神妙な顔つきにその程度ではないことを鑑み「まさか」と目を見張らせた。
「そういうこと…」
 真実があえて口に出したくない言葉。それは、
「里親、かい…」
 と、操は重く口を開いた。
「そういうこと…」
 座り込む操を見下ろし、真実は繰り返すだけだった。
 〈里親〉に関して、デリケートなのは真実だけではない。操とて同じ気持ちに違いないのだ。それゆえここまで言えずに引っ張ってしまった。
「どうりで…。なんかおかしいとは思ってたよ」
 静かに答え、黙り込む操に
「だから、しばらく考えたい」
 真剣な眼差しで答え「美古都のこと、頼むわ」と言い残し、真実はボストンバッグを担いで家を出た。

 吉澤産婦人科医院が「里親制度」に関して精力的に活動し始めたのは、まだ内科医院だった祖父の代の頃だった。

 真実は38年前の初冬のある日、院の玄関口に置き去りにされた乳児だったのだ。そして当時学生だった操が引き取り、育てた養子だ。
 操には結婚の経験がない。ゆえに真実は私生児で、父親がいないのだ。

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