スパイス

連載『オスカルな女たち』

《 スパイス 》・・・15

「ねぇえ? 綾香ちゃん。…最近、メイクが濃い、ようだけど、なにかあった?」
 玲(あきら)は秋山に助け舟を出すつもりで綾香に話題を振った。
「え? そんなこと…もぉ、ないですよ~。いつも通りです。、だなんて、やめてください、玲さん~」
 触れられたくないのか、本音は大いに突っ込んでほしいのか解らないようなふにゃらけた顔を、綾香はトレーで隠して見せる。
 隠したいようで隠せていないその心の動揺は、明らかに「恋」という言葉に現れていた。思いのほか素直に、誘導尋問に引っかかってくれたというわけだ。
「そうじゃなくて、…お化粧が」
 濃い~っちゅーの!!
 綾香にはまったく堪えていない様子に、そう強く言いたいところを笑顔で受け流す玲。
(まったく…解りやすい子だわ)
 もっとも、そんな風に男のために努力できる綾香の姿が、今の玲には新鮮でもあった。

 かつては自分にも、好きな男のためにと努力を惜しまない日々があったはずなのだ。今現在、白髪染めや体型維持に気を使ってはいるものの、それは夫の為ではなく自分の為だ。
(あなた色に染まる…ってところかしらね)
 いずれにせよ、綾香の様子を見て、早急に手を打たねばなるまいと改めて思う玲だった。
「さ、秋山くん。仕事して」
「はい。よろしくお願いしまっす…!」

いつもお読みいただきありがとうございます とにかく今は、やり遂げることを目標にしています ご意見、ご感想などいただけましたら幸いです