海

連載『オスカルな女たち』

《 孤独な闘い 》・・・11

 気を取り直しお向かいの喫茶店で食事を済ませる。スプーンを持つ手が震えていること以外はいつも通りだ。

 院に戻り、再び白衣を着て診察室を出る真実(まこと)。視界の先に天敵を捉えて舌打ちをする。
(カレー食っといてよかった…)
 真実は涼やかな目で母親である同僚を見据える。
「あら、真実。午後は当番じゃないでしょ」
「操(みさお)先生、院内で呼び捨てはやめろ」
「それが同僚に使う言葉とも思えないがね」
 ご機嫌斜めを取り除けば、これがいつものこの母娘の会話だ。このやり取りは遺伝するらしい、似た者母娘というわけだ。が、
「麻琴(まこと)に会った?」
 真実は内心、複雑な気持ちを隠せない。
「あぁ。元気そうでなにより。ちゃんと家にも戻ったらしいね」
 そう語る操は母親の顔をしていた。院内で滅多に口にしない真実を呼び捨てにしたのも、もうひとりの麻琴に会ったことで気が緩んだせいだろう。
「あいつが母親ね…」
(あたしが、麻琴だったかもしれない…)
 そう思うと、操を見る真実の眼光は鋭くならざるを得ない。
「とにかく、落ち着いてくれたみたいでよかったよ。それより、今夜は出掛けるって言ってなかった?」
「あぁ出掛けるよ、つかさんとこに…」
「じゃぁさっさと行けば」
「なんだよ、その言い草は…邪魔者扱いかよ。特患に用があるんだよ」
 そう真実が言うと、操は少し顔色を変えた。

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