頂上

連載『オスカルな女たち』

《 秘密の効用 》・・・2

『会社、休んでるって聞いて…』
「あぁ…。ちょっと、気分が悪くて」
 機械的に、今朝、会社に電話した時と同じように答える織瀬(おりせ)。
『大丈夫、ですか?』
「ん…。仮病だもの」
 披露宴のあとの報告書を冷静に書き上げる自信がなかった。レンタルのウェディングドレスが別の披露宴会場に紛れ込んでしまうというトラブルを解決し、披露宴当日は滞りなく無事に終えられた。新郎新婦にも喜ばれ、列席者の親族から「次の披露宴」の依頼を受けるという思わぬ気縁もあり、達成感極まりない仕事ではあったが、今日はどうにも笑顔で1日社内にいれるほどのモチベーションを保つことはできないと思ったのだ。
『あ、ぁ…。そうなんですね…』
 小さく「よかった…」と安堵の声が聞こえる。
 本気で心配して電話をかけてくれたのだろうか?…と、胸の内に温かいものを感じながらも、
「なに…?」
 早々に電話を切りあげたい織瀬は、淡々と、あからさまに不快な態度を示した。
『え、』
「なにか、用?」
 我ながら冷たいと思う。でも、気遣っている余裕がない。目の前にいるわけでもない彼に、心乱される自分を取り繕うことで精一杯だ。

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