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連載『オスカルな女たち』

《 ギフト 》・・・1

「こんにちは」
 不意に声を掛けられ振り返る。
「あ…こん、にちは」
「院長自らお掃除なんて、素敵ね」
 駐車場を囲うフェンスの向こうから声がする。いつもならあり得ない展開にぎょっとしながらも、
「あ、いや。…今日は思いのほか暇で、」
 体を起こし、文化チリトリを立ててそちらを見遣る真実(まこと)。
「そんな日もあるのね」
「はぁ…」
 声の主の姿を捉えるも、落ち着きなくなぜかキョロキョロと辺りを窺ってしまう。
(…声、かけられちゃったよ。裏の住人に…)
 そしてなぜかそわそわと、院の窓辺に楓の姿を探してしまう真実だった。

「暇を不景気とは言い難い商売でし、て…」
 商売と言ってしまって後悔する。なにをぺらぺらと口走っているのか、思いのほかうろたえている自分に慌てていた。
「ふふふ…確かに。不景気なんて言えないわね。でも少子化だし、それに対してなんて言ったらいいのかしらね」
 こちらの気も知らず、世間話を広げないでくれ…と心が後ろ向きになる。
「なんでしょう、かね…ははは…」
(ははは…。話が続かねぇ)
 確かあなたもその「少子化」を地でいっているのでは…なんてことは間違っても言えない。すっかり楓の噂話に踊らされてしまっている自分を制する。

「えっとぉ…」
(仕方がない…)


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