頂上

連載『オスカルな女たち』

《 秘密の効用 》・・・3

『仮病なら、ちょっと出てきませんか?』
「え?」
(また…。どうしてあなたはいつも…こちらの気も知らずに)
 こうもかき乱してくれるのか。
「会いたくないですか…?」
(またそんな言いかたをする…)
「そう…ね…」
 ・・・・嘘。
 でも、会えるわけがない。
(あんな…っ、醜態さらして…!)
『もし、気分が良ければですが…。このままだと、店にも来てくれないような気がして』
 いつも通り、歯に衣着せぬストレートな物言いの真田。でも、
(図星…)

 傍から見ればなんてことのないやり取りだったのかもしれない。だが、明らかに自分の中でいつもと違う感情を露にしてしまった織瀬(おりせ)としては、この場をどう取り繕おうとも、あの日をうまく言い訳できようとも、気持ちの整理がつかない限り今後のバー『kyss(シュス)』への来店にわだかまりが残ってしまうことは想像できた。
「意地悪ね」
 思わず出た言葉だったが、それが本音だ。
『そう言われると、困ってしまいますが。こちらも必死なんです。自分でもみっともない真似してると思いますけど、どうしても放っておけなくて』
 確かに、電話の向こうの真田の声にはいつもの余裕が感じられない。それはお互い様だったかもしれないが、今の織瀬には気づくよしもなかった。

いつもお読みいただきありがとうございます とにかく今は、やり遂げることを目標にしています ご意見、ご感想などいただけましたら幸いです