スパイス

連載『オスカルな女たち』

《 スパイス 》・・・19

 たいして忙しくもない自分の支店で、扱いやすいというだけで綾香を手元に置いておいたのが仇になったのかと、玲(あきら)は反省せざるを得ない。
 そんな気遣いは無用であるとは承知しながらも、あまり人付き合いのない玲なりに考え、自分のわがままがこのような不始末を招いたのではないかと思ったからだ。9月も終わりに近いというこの時期もあり、玲は近いうちに「人事異動を行う」旨を社長である自分の夫に進言した。

(今後、どう出るかが楽しみだわ…)
 ちらりと綾香を横目で窺い、そう思いながらも怖いもの知らずの若さを羨む玲だった。

 
 数日後・・・・。
 ぴんぽ~ん♪
 宅急便以外来客の少ない玲のマンションのインターフォンが鳴った。
(え?)
 のぞき穴から見えるその姿に玲は目を疑った。
 なにやらステキなお出かけ服に大きなボストンバッグが見える。いやな予感がする…とはいえ出ないわけにはいかないと、ひとつ咳払いをし、
「あら、明日香さん。どうなさったの?」
 あるはずのない来客、さらにあり得ない相手に動揺を隠せない玲。だが、
「玲さん。…わたくし、家出してまいりましたの!」
「え?」
 新しいトラブルが、玲の目の前に現れた。
(なんですって?)

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