頂上

連載『オスカルな女たち』

《 秘密の効用 》・・・5

 織瀬(おりせ)はクローゼットを開け、それまで着ていた仕事用のブラックスーツを脱ぐ。ハンガーに掛けながらまだまだ日差しの強い窓の外に目を向け、七分丈のベルスリーブサックワンピースを選んだ。いつもの出勤用の大きなトートバッグから、小さいボストン型のショルダーバッグに財布を入れ替え、居心地の悪い寝室から早々に退散してバスルームに向かう。
 洗面台の前に立ち、仕事用の口紅をティッシュで押さえて、少し明るい色のグロスを重ね塗りした。そしてひとつ結びにしていた髪をほどいて、軽く手櫛を通してその場を後にした。
 玄関脇のちょきんのいる部屋へ行き、おやつ用のジャーキーを取り出しながら、
「ごめんね、ちょき。今日はずっと一緒にいられると思ってたんだけど、出掛けることになっちゃったの。…なるべく早く帰るね」
 そう言い聞かせて頭を撫でた。
 エレベーターを降りエントランスに出ると、マンションの少し前あたりに四輪駆動のRV車がハザードをつけて止まっていた。先ほどの電話で「近くまで来ている」との真田の言葉から、ここまで来てもらったものの実際にマンション前に止められた車を目の当たりにすると、途端に罪悪感にかられた。

いつもお読みいただきありがとうございます とにかく今は、やり遂げることを目標にしています ご意見、ご感想などいただけましたら幸いです