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連載『オスカルな女たち』

《 母か、女か、》・・・8

「なにが?」
 そんな様子に頓着しない幸(ゆき)に、いつもなら「もう…」っと憤慨するところだが、その鈍感さが今日はかえって都合がいい。
「珍しいじゃない。料理…」
 静かに返す。
「最近忙しかったからね、たまには奥様を労わないと」
 ここ最近では珍しい幸の笑顔。
(なにかあった…?)
 しかし、それ以上話を膨らませる余力はなかった。
「そう…」
 会話を続けられない。いつものやさしさが苛立ちを誘う。
(やっぱり、今日は話せない…)
「ごめん、ちょっと疲れてて…。今日はもう休むね」
 ちょきんを抱き上げようと体を折ると、軽いめまいに襲われた。だが、幸に悟られないようしゃがみこんで誤魔化す織瀬(おりせ)。
「少しくらい、食べない? 織瀬の好きなビーフシチューだよ…」
 時間をかけて作ってくれたのだろうことがメニューから解る。だが、
「ごめんね」
 と、それしか返せなかった。
「今日はちゃんと寝室で寝なよ…」
「え…」
 いくら鈍い幸でも、さすがに毎日着替えるだけに寝室に出入りしていることには気づいているようだ。
「うん…でも…」
 しゃがんだまま、ちょきんを撫で、幸があきらめるのを待つ。
「織瀬」
「なに? わかったから…」
 もう話したくない。そんな顔で立ち上がり、寝室に向かおうときびすを返す。
「おれたち、子ども作らないか」
 それは、なにかの罰なのだろうかと思わざるを得ない言葉。

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