奪われたのはカゲ

俺の影が薄くなったのは、東欧からやってきた魔術師を殺した日からで間違いないであろう。

「俺は貴様の影を奪ってやったぞ。お前は誰からも顧みられずに、死ぬ」

血反吐と共に最期の言葉を吐き出すと魔術師は死んだ。
殺し屋である俺にとって、この手の恨み言は右から左に聞き流すのが常である。その魔術師の吐いた言葉も、俺が殺してきた人間が残す言葉の類型からそう外れたものでもない。いつものように忘れるものだと思っていたが、それを今も記憶しているのはその特異な状況のせいだろう。

魔術師は俺のキャメルクラッチによって背骨を折られて死んだのだ。確実な死を期して、魔術師の首を背中側に180度折り曲げると丁度目が合った。魔術師はその瞬間に言葉を発したのだ。

「マジかよ」

背骨を折られて即死しなかった人間は見たのは初めての事だった。俺は動揺した。

が、それだけの話である。その日は酒を多めに飲んで寝た。

問題はその後だった。

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