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希望という名の魔術

去年4月
イギリスの人気オーディション番組"Britain's Got Talent"に冴えない中年男性が出演した
彼はマーク・スペルマン
職業はマジシャン
これまでの2年間、イギリスのマジック界から姿を消していたという彼は
この日あるマジックを披露した

マークが、マジックに夢中になったのは7歳の時
テレビのマジックを見ていて、なぜかトリックが分かったのだと言う
それから、テレビのマジックのタネを研究しては、家族に披露していたという

やがてプロになるのは到底叶わないと諦め、マジックはあくまで趣味として続けていた
だが、彼が19歳の時、専門学校ので出会ったテッサに背中を押され、再びマジシャンを目指し始めた
そして、いつしか、彼女の笑顔にも惹かれていった
だが当時、テッサには恋人がいた
思いを振り切るように、マークはマジックの修行に打ち込んだ
そして、23歳にしてプロのマジシャンとしてデビュー
仕事があると、イギリス各地を飛び回る日々
あっという間に、何年もの時が流れた

そして、久しぶりにロンドンに戻ってきた時…テッサと奇跡的に再会
当時、テッサはもともと興味のあった美容の専門家として活躍していた
恋人もおらず、フリーの身となっていた2人は、頻繁に会うようになり、互いに惹かれていった
その4年後には、二人は一緒に住み始めるようになった
マークは一番の理解者のテッサに励まされ、マジシャンとしてさらに成長していった
その後、マークの必死の努力が実り、徐々に仕事が増加、数年後にはマジシャンとしてテレビ番組に出演
そして有名ミュージシャンや、チャールズ皇太子の前でもマジックを披露した

中々子供ができなかった二人は、体外受精を試みていた
しかし、2年が過ぎ、3年が過ぎても、子どもはできなかった
何度試してもうまくいかないまま、5年の月日が流れ…ついに医師の口からもこれが最後のチャンスだという言葉が
二人も半ば諦めかけていた
しかし、不妊治療5年目にして待望の妊娠
だが、その幸福は長くは続かなかった

妊娠4ヶ月目に、テッサに乳がんが発覚したのだ
医師からは子供は諦めて治療に専念するように勧められた
マークは藁にもすがる思いで セカンドオピニオンを求め、ロンドン中の病院を当たった
その結果、ついに妊婦のがん治療の専門家アリソン・ジョーンズ医師を探し当てることができた

こうして、テッサとお腹の赤ちゃんを同時に救う、挑戦が始まった
子供に影響のない抗がん剤だけを投与したが、抗がん剤は抗がん剤、副作用で髪は抜けていったこの頃、マークはブリテンズ・ゴット・タレントのオーディションを受けるチャンスがあったが、それを断った
さらに、仕事を全部キャンセルして、テッサを支えた
こうして、マジック界の表舞台から姿を消したマーク・スペルマン
だが、それから2年あまり、人々は思ってもみない形でその結末を知ることになる

それは昨年4月、ブリテンズ・ゴット・タレントの予選の舞台に、なぜかマーク・スペルマンが立っていたのだ
そして、観客席には、元気そうな妻・テッサの姿が!

マークは審査員たちにルービックキューブをシャッフルさせたり、25色のクレヨンや、様々な絵が描いてあるカードから好きなものを選んでもらった
そして、あらかじめペンを上向きに持ってもらいその上に本をかざし、本を動かして審査員が「ストップ」と声をかけたところに印をつけてもらった

そして、あるVTRを流した
そのVTRで5年もの不妊治療の末、妊娠したものの、テッサが乳がんと診断されたこと…そして、娘のイザベラが生まれたことが紹介された
そして…2ヶ月前に娘が絵を描くために選んだのは赤のクレヨン
6ヶ月前、お気に入りのおもちゃがないと眠れなかったというイザベラの横には…パペット・ペンギン
これらは、審査員たちが選んだものと同じ
9ヶ月前に遊んだルービックキューブ
審査員が先ほどシャッフルしたものと完全に一致している

そして、先ほど本の中に印をつけ、その中にある単語を確認した
印の中にあった単語は「帽子(Hat)」。
2年前、マークはイザベラにこう質問していた
「もしパパが2年後にブリテンズ・ゴット・タレントに出演するとして、審査員が単語を一つ考えるとすれば何だと思う?」
イザベラが答えたのは…「帽子(Hat)」!

実はこの日からおよそ2年半前に当たる、2015年12月23日、3ヶ月の早産で娘のイザベラが誕生
しかし未熟児で、自ら呼吸や体温調節をすることができず、集中治療室へ
マークとテッサは朝の6時から深夜0時まで、病院で付き添った
献身的な介護のお陰で、翌年2月、イザベラは無事退院できた
それから1年あまり、またブリテンズ・ゴット・タレントの話が…マークは悩んだが、テッサに背中を押され、出演を決意したのだ

その後行われた準決勝では惜しくも敗れてしまい、決勝の舞台に立つことは叶わなかったが、これをきっかけに、マークは一躍イギリスを代表するマジシャンとなった

マークのインタビューでこのような言葉がある


人生において、時に人は必要以上のものを求めてしまいます
自分の周りにあるものに感謝しなくなるのです
私が伝えたかったメッセージは何かを求める前に、一瞬立ち止まり、母親、父親、兄弟、子供、夫、親、その存在がマジック(魔法)なんだと認識すること
またわたしたちは普段いかに幸福(幸せ)で、そもそもマジック(魔法)は日常にあるということを思い出すこと、それが大事なのです

それから3ヶ月後
オーディション番組に謎のマジシャン”X”を名乗る男が登場
圧倒的なマジックで決勝へ進出

そして決勝戦

冒頭シーンより
私のこれまでのアクトは二人の人間が持つ強い繋がりが
人に影響を与え、感動させ、楽しませられることを証明しました
アント&デック、彼らはその役としてこれ以上ない存在でした
私が客席を見た時、会場中のあらゆる年齢の人間が目に入り
その瞬間、私たちは一つの繋がりを持てたのだと確信しました
私たちは、自らの潜在能力によってなんでも成しえることを気づくべきで
Britain's Got Talent は、人々が持つ「タレント(才能)」を通して
人々が共通でもっている夢(深層意識)で繋がれる機会を与える番組でもあります
これから、あなた方と「X」を共有しましょう、私が真に計画していた「X」を


暗いどん底に落ちる時があれど、誰しも「HOPE (希望)」を持って生きている
そして、それが全ての始まりでもある
これから見せる映像が、全てを説明する
そういって、バックスクリーンに映し出されたのは、これまでXが登場した映像だった
前回、セミファイナルでは、X の持っていた「HOPE」
人類が深層意識で繋がりを持っている事を
確かに我々は強固な繋がりを持っていることを X が「希望」する物語だった

オーディション2週目、マンチェスター会場で初めて X が姿を現した時
それは、あらゆる面において、人類はいまだ、真なる繋がりを持っていないとも言え
その繋がりを「希望」によって、再び結びつける物語だった
しかし、X を知るよりも以前から、我々はあの「忘れられない日」に出会っていた
偉大なるメッセージを受け止めた私たちは何を思うのか

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