わが子 ~6歩芽~
北海道に遅い春が訪れるころ、私は妊娠した。
2回目の体外受精だった。
奇跡がおきた。
神さまっているんだなぁ。
努力は、報われるんだ。
なんて、いろいろ思った。
アルバイトを辞めた。
「妊娠したので」
と私は退職の理由を職場に伝えた。
私は世界一幸せな妊婦さんになった。
妊娠2ヶ月だったが、早速よだれかけを手作りし、
ベビーベッドと布団を購入した。
室蘭から札幌の病院に通っていたが
その病院は、不妊治療専門の病院だったので
出産は、室蘭の病院にすることを考え、転院した。
待合室で、あかちゃんを見ると幸せだった。
憧れの母子健康手帳をもらった。
心臓の音を聞かせてもらったときは、
涙がこぼれそうだった。
こんなに幸せでいいのだろうか?
と思うくらい幸せだった。
たぶん私の一生分の幸せがあの時に詰まっていたのかもしれない。
安定期に入った妊娠5ヶ月目(16週目)の検診。
心臓の音は聞こえなかった。
おなかの子は、死んでしまったようだ。
尿検査に出した尿の色がなんとなく濁っていたことが頭をかすめた。
入院することになった。
ひたすら泣いた。
お見舞いに来た母は、先生に、また妊娠できますよね。
と聞いた。
先生は、何も答えなかった。
翌日、分娩することになった。
やっぱり、私はひたすら泣いていた。
そして、医学の力で分娩誘発をおこなう。
こんな形で分娩室にいる自分。
遠くで時折聞こえる赤ちゃんの泣き声。
だけど、分娩室で私は泣かなかった。
もう死んでしまっているのだろうけれど
わが子に逢えることが楽しみだった。
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