【小説】異世界チート記【日記風】②

※前回の続きです。


66日目
 ガキがチーズトーストを覚えた。平たいのだそうだ。
 ツナ缶でいいだろ、と言うと、丸いのと平たいの、と言う。
 俺は面倒になって、こんがり焼いたツナチーズトースト召喚のスクリプトを組んだが、丸いのと平たいのが良いのだという。なんでこんなワガママになっちまったんだ。なんでネコじゃないんだ。
 段々面倒になってきたが、ここで放り出して死なれても後味が悪いので、捨てられない。

 クソが。

67日目
 何を思ったのか、ガキが俺の目の前に食いかけのチーズトーストを置いた。飽きたのかとでも思ったら、意外なことを言う。食べろ、死ぬ、だそうだ。
 俺はいいんだよ、と言ったが、机の端にかじりついて強引に寄せてくるから、面倒になって、口の中に召喚したチーズトーストを見せた。
 ガキは驚いて机から滑り落ちた後、机の上の食いかけのチーズトーストを見つめて、再び俺を見ると首を傾げた。

 改めて説明することなんざ何も無いが、もう一度俺はいいんだよ、と言うと、よく分からない表情のまま、机からずり落ちていった。まぁ、ガキが納得しようがしまいが、どうだっていいんだが。

70日目
 ガキが吐いた。何事かと思えば、消化器系の病気に掛かっていた。
 よく分からなかったから、いつものように対処して、健康体に戻しておいた。が、飯を食わない。腹はいつも通り鳴っている。でも食わない。なんでだ?
 よく見ると口をもごもごしている。……ああ、吐いたあとだからか。そう思って水入りコップを出してふと思う。

 こいつ、今まで水はどうしてたんだ?

 聞いてみると、こっそり抜け出して水たまりの水を啜ってたらしい。そりゃ病気にもなる。
 これからは俺に言えと言ったが、その度に水を出すのかと思うとクソめんどくさいので、適当にプラスチックのパイプをガキが咥えられる壁の高さに固定。その清潔の維持と、咥えることをトリガーに飲料可の水を出すスクリプトを組んだ。
 水が飲みたい時はこれに口を付けろと言って解決した。

71日目
 皿を洗ってなかったことに気付いた。めんどくさいので段ボールの上に紙皿を置くことにした。
 ガキはパイプのときもそうだったが、不思議そうに頻りに匂いを嗅いでいた。まぁ、たしかにここらじゃ嗅がない臭いだろうが。

75日目
 そういえばネコの時とは違って丸洗いしてなかった。ネコは跳び上がって俺の目の前に来るが、ガキは身長差のせいか、あんまり気にならなかったからか。
 とにかく不潔は野性ならともかく病気の元だから、丸洗いすることにした。ガキはされるがままだったが、石鹸の泡を食って顔をしかめていた。どう見たって食いもんじゃねぇだろうが。
 つーか、泡が全然立たなかったから数回丸洗いする羽目になった。

 乾かしてから着せる服が無いことに気付く。女児服なんぞには詳しくない。詳しかったら変態だが。
 分からんから貫頭衣にした。どうせ、現代服なんて着方が分からんだろうし。下着も糞も無い肌触りがイイ感じのを着せたら、驚いた様子で俺を見上げて来た。
 なんだ?文句でもあんのか?と見下ろすと、目を逸らされた。何なんだ。

76日目
 ガキが貫頭衣の端を摘まんで怯えた表情で俺を見上げて来た。
 どうやら服の端を汚してしまったらしい。しらんがな。
 そういえばクソはどこでしてんだこいつは。と思ったら案の定野グソだった。
 だろうな。それでついたんだろ。ウンが。
 だが、服を脱がせようとすると、怯えた様子で服を押さえつけて来た。どうしろってんだ。

 何が何でも脱ぎたがらないから、仕方なく汚れた部分だけ新しい生地に置き換えた。
 ガキはなんかよく分からない表情で俺を見上げて、俺の服の裾を握った。……何なんだ?

 で、トイレが無いのは不便だろうと思って、ガキサイズのトイレを作った。と言っても、ケツが落ちない程度の穴が開いた箱だ。中はガキが立ち上がると除去される。ついでにガキのケツも綺麗になる。久しぶりに座標なんてものを使った。家を改造した時以来だ。
 ちょっと使い方を忘れてててこずったが、まぁ、何とかなった。と思う。

80日目
 昼寝中に裏が騒がしくて目が覚めた。家の中には侵入出来ないはずだから、たぶんガキだろう。
 そう思って裏を家の壁越しに覗いてみると、怯えて縮こまるガキ相手に大の大人が3人、あの手この手で地面から引きはがそうとしていた。いや、そりゃ無理だ。

 丁度丸洗いしていいモノを着せた頃に、ガキはともかく服を盗まれる可能性を考慮して、ガキの許可なしにガキに接触できる対象を俺だけにしておいた。
 ……服から俺に辿り着かれると困るからな。ガキは別にどうだっていい。
 F級冒険者みたいなやつに引き渡す時は解除する予定だが、それまではそのままだ。

 その結果がこれだ。
 ガキがビビッてその場から動けずにいるから、地面を掘り返すだの、3人がかりで大きなかぶだのと、茶番劇になってる。ガキが走って逃げだせば良かったんだが、仕方ない。
 いつまでもうるさいと寝られないから、その範囲までウチの敷地ってことにしておいて、座標で範囲指定して不届き者3人組を外に弾き出した。

 ……なるほど。深く侵入していたヤツほど強く弾き飛ばされるみたいだな。ガキは不届き者3人分の叫び声にびっくり仰天して辺りを見回して、状態に困惑しているようだ。
 不届き者の内、2人は当たり所が悪かったのか、微動だにしない。1人は起き上がったが、仲間がそんな状態だから、ビビッて逃げだしてしまった。
 粗大ゴミ置いていきやがった、あのクズ。

 その後、また寝た。

81日目
 ガキが昨日の出来事でビビッて俺にしがみついて離れなくなった。鬱陶しい。仕方ないからずっとベッドの上だ。機嫌取りをするのも変な気がしてこのままだ。

 でも、流石に昼を過ぎると寝たきりも退屈になってきたので、外に散歩にでも出ようとすると泣いて嫌がるから、デカいマシュマロを出して口に突っ込んでやった。
 ガキはビックリしたように目を見開いて口からマシュマロを出そうとしたが、甘さに気が付くと夢中になってモグモグし始めたので、その隙に外に……出ようとしたが、すんでのところで裾を掴まれた。

 忌々しくて見下ろすと、マシュマロ関係なく頬を膨らませて涙目で見上げてくる。
 結局、俺はガキから逃れることが出来ずに、一日ウチで過ごした。
 マシュマロは8個出して8個ともガキの胃に収まった。

83日目
 文字通り甘やかし続けて3日目。
 やっとしがみつきが緩んだので逃げ出す。
 やれやれ、酷い目にあった。これで久しぶりに散歩に行けるってもんだ。

 久しぶりの外を満喫した俺がウチに帰ると、ガキがベッドで不貞寝していた。……そろそろ寝床を分けるべきかもしれない。寝てる時にしがみつかれると暑いんだこれが。

 これまではネコ扱いしてたが、よく考えたら人間なんだよな、こいつ。ネコ大ならまだしも人間でしかも毛はない。絡まれて暑いのは当然か。

84日目
 中にベッドを二つ置いても、どうせこっちのベッドに潜り込まれるだけだから、いっそのこと引っ越しすることにした。こんなところだから、危ない輩もいるんだろう。
 ここに特別思い入れがあるわけでもないし、別の場所を探してみよう。

 ということで、遠出することにした俺は、無敵化、透明化、飛行をトグルして適当な座標に転移してみることにした。歩きとか何日掛かるか分からないし、上から見下ろすのが手っ取り早いというわけだ。
 帰りも当然転移。これで、数日たたずの内に候補地が絞れる、と思う。

 静かで人気のない場所がベストだ。さて、いい所が見つかるかな?

85日目
 だだっ広い平野、荒野と見つかったはいいが。
 そんなところに家建てたら目立つよな…?

 旅人の類が訪ねてくるのは面倒だ。ましてや夜盗の類が襲ってくるなんてのは言語道断。目立つとろくなことが無いのは間違いない。
 広さと面倒さを天秤にかけたら面倒さに傾くこと必至だ。

 結局、木を隠すなら森の中。つまり、街中の扉から入れる家がベストなんじゃないか?という結論に至った。

 だから、場所はこのままで良くて、変えるのはその中身だ。
 チートは魔法まで思うがまま。空間魔法を探して呼び出せば、亜空間に家を作れるんじゃないか、という発想だ。
 というわけで空間魔法を探すことにした。

 空間魔法は幾つかあったが、その内の2つを採用することにした。
 まず、亜空間を作り出すディメンジョン。そしてその空間でこの世界と同様に作業できるようになるクリエイション。
 これで、ひとまず、新我が家建設の準備は整う。あとは部屋割りとか設備とかを考えるだけだ。

 で、そこまでやるとなると、セキュリティも見直したいところだ。
 入れなくても、出入りをする、って時点で人に見られる可能性は十分にある。
 だが、ドアを無くしたり開かなくしたりするだけではダメだ。
 塀に囲まれた空間、もしくは開かないドア。そんなものはむしろ人を惹き寄せる可能性の方が高いまである。防ぐんじゃない。騙すんだ。

 具体的には、出入りで俺の外見が変わるようにする。子供騙しだが、効果はあるはずだ。なんせ、チート使って偽データを上から被せるんだからな。
 それで普通の人間なら躱せるはずだ。
 ただ、面倒な作業ではあるから、明日に回すか。

86日目
 さあ作業を始めようって時に裏からすすり泣くような声が聞こえてきた。
 今度は何だってんだ、クソが。ちょっと邪魔が多すぎるんじゃないか?

 念のため透明化して裏に行ってみると、泣く声は確かに聞こえるが、一見何もいないように見える。透明化した何かか、幽霊か、は分からないが、とりあえずバフの類を全部トグルしてみると見えたので良し。
 どうやら、進入禁止にした地点に張り付いて泣いているようだ。
 ……シリアスな場面のはずなんだろうが、べったり張り付いてるからか顔がガラスにビタ付けみたいになっててギャグみたいになってるんだよなぁ。もしかしてコントやってんのか?

 こっちも透明化してるし、透明化同士、姿が見える可能性もあるな、と思って手を振ってみたが無反応。どうやらこっちは見えてないらしい。こっちのチートがどういう仕組みなのか分からないから何とも言えないが。
 それにしても……こいつの外見はウチのガキにそっくりだ。目以外は。
 それに、なんか、違う。言うなれば、健康体のガキって感じだ。ウチのはまだ痩せてるからな。……もっと飯をやった方がいいんだろうか。分からん。

 とにもかくにも、厄介ごとなのは間違いない。
 とはいえ、進入禁止にしたエリアへは入ってこれないようだから、実質すすり泣きが気になる程度ではある。
 ……まぁ、数日たてばどっかに行くだろう。
 見た感じ死にそうとかでもないからな。いや、もう死んでるのか?知らんけど。

 そういうわけで偽データ被せて扉の開閉テストをするために表へと向かった。
 一応、無敵化をトグルして作業しよう。何があるか分からないからな。

87日目
 偽データでのテスト中に何かを弾いたような音がした。
 後ろを振り返っても誰もいない。
 仕方なく、バフ全部盛りすると昨日のヤツがうつ伏せでピクピクしていた。まだ諦めてなかったのか。

 まぁ、そんな気はしてた。
 あ、そうだ。ついでにどのバフでこいつが見えるようになったのかの検証でもするか。
 やり方は簡単だ。全部盛りの状態から一つずつバフを解除していくだけでいい。すると、あるバフを解除した時点でこいつが見えなくなった。ふむ。看破か。

 だが、逆に看破バフだけをつけると、見えなくなる。……複数条件タイプか。めんどくせぇ…。
 看破バフ以下を有効にすると、まだピクついてるのが見えたから、余裕をもって調べられるこのタイミングで調べておくことにした。

 結論から言えば、看破と察知の両方が必要だった。
 見破るだけではダメらしい。
 なんでダメかは知らん。この世界のシステムがそうなってんだろう。

 さて、じゃあ続きをやるか。

88日目
 偽データも、新我が家も無事出来上がった。
 その途中で何度も突進かましてきた不届き者に罰を与える時だ。
 好き勝手ぶつかってきやがって。

 罰は生きていなければ意味が無い。
 だから、消えかけてたヤツのHP…は無かったからMPを上限MAXまで上げてやった。実際ヤツは、目をかっぴらいて震えていたな。いい気味だ。

 奴は今、我が家に特別に作った折檻部屋に、首から下の麻痺デバフ∞秒と座標固定で拘束している。
 さて、では折檻開始だ。

 ところで、俺は由緒正しき平和ボケした日本人だ。だから、痛いだの血だのは嫌いだ。
 では、その上で折檻になり得るものと言えば。くすぐりに限る。
 ヤツがギャグだからじゃない。普通に苦しいんだこれが。
 腹筋崩壊とはよく言ったもんだ。

 その後、折檻部屋にはヤツの笑い声が延々と響き渡ることとなった。
 時々消えそうになったから、その度にMPを上限まで上げてやった。
 泣いて喜べ。

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